MICEコンテンツとして「目的地化」の促進へ

「eスポーツ先進都市」を目指す泉佐野市の狙いとは【インタビュー】

#eスポーツ

8月25日、大阪府泉佐野市のりんくうタウン内オチアリーナにて開催された「eスポーツキャンプ」の会場にてメディア向け会見が開催されました。

 

 

会見の内容は泉佐野市、南海電気鉄道、eスタジアム、ウェルプレイド・ライゼストの4者が「eスポーツMICEコンテンツ実証事業」における「eスポーツ先進都市・泉佐野市」の確立を目指していくというもの。今回のeスポーツキャンプを皮切りに、更なるイベントの実施や市内に開業予定のeスポーツ施設の活用など、今後の展望が語られました。

 

自治体としてeスポーツへと積極的に取り組んでいくその狙いや背景とは。泉佐野市成長戦略室おもてなし課の井尻学課長へのインタビュー取材を行いました。

 

──まず初めに「eスポーツ先進都市」構想がスタートした背景について教えていただけますか。

 

井尻 学さん(以下、井尻) 「eスポーツ先進都市」構想の背景には、まず泉佐野市の“目的地化”を目指す動きがあります。泉佐野市は関西国際空港のお膝元に位置しているのですが、京都や奈良などの歴史都市、大阪や神戸という商業都市といった観光地が近いこともあり、空港の利用者が泉佐野市を通過するケースが多くありました。

 

△記者会見に登壇した井尻さん

 

ホテルなど宿泊施設も多く、宿泊環境も整っているのですが、フライトまでの時間調整の宿泊として使われる傾向もあり、市内を目的地として利用してもらえるようになることを目標に「MICE(※)」の誘致・開催に取り組んできました。そのコンテンツのひとつとして、eスポーツへの取り組みを始めたという経緯ですので、いきなり先進都市という言葉が出てきたわけではないんです。

 

※ 企業等の会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を取った造語で、これらのビジネスイベントの総称

 

──eスポーツのどのような部分に可能性を感じられたのでしょうか。

 

井尻 eスポーツは全国どころか全世界にファン・プレイヤーが存在しますよね。そこからいざオフラインで集まろう、となったらアクセスは重要視されるポイントになると考えました。そうなれば本市にも可能性があるんじゃないかと。

 

加えて、同じ地域内で南海電気鉄道さんがeスポーツに情熱を持って取り組まれていたのも大きかったです。その南海さんから頂いたご提案が手応えのあるものだったので、積極的にトライしてみようという流れになりましたね。

 

──ありがとうございます。では、eスポーツ以外にも“目的地化”に向けて取り組まれている分野もあるのでしょうか。

 

井尻 ここ数年はコロナの影響もあり、難しくはなっているのですが、他にもMICEコンテンツの誘致は行っています。コロナ禍では、国外からの移動が制限されるので、国内から色々な方が集まる学会などの誘致が中心ですね。やはりアクセスの良さが優先される分野に本市の強みがあると思っています。

 

──色々なコンテンツの中でもeスポーツはまだ歴史が新しく、専門性を求められる難しさもある分野ですが、取り組みに当たってはどのような考えをお持ちですか。

 

井尻 本市としてはeスポーツへの取り組みを「MICEコンテンツ」と「社会的意義の追求」の二本立てで考えています。まずコンテンツとしては、魅力あるものにしていかなければいけません。その点、eスポーツは競技人口や将来性、産業としての広がりの可能性を感じますし、そこ追求していくことで魅力あるコンテンツに出来たらと考えています。

 

もう一点の「社会的意義」については、eスポーツは経産省を始めとする関連各所が、資料として出している情報の中でも「性別差や年齢差に関係なく、また、障がいのある方でも取り組みやすい」というハードルの低さが特徴とされています。ただ、それらが実証できていない現状であると認識しておりますので、実証事業としてしっかり取り組み、社会的意義を追求し、実装して行きたいと考えています。

 

──今後も複数の軸を据えてeスポーツに取り組んでいく、ということでしょうか。

 

井尻 そうですね。先日のeスポーツキャンプのようなイベントは府外からの参加者を呼び込むものでしたが、11月末には市内に常設のeスポーツ施設「eスタジアム泉佐野」が完成しますので、こちらでは市民の皆さんに対する普及促進や社会的意義の実証実験が軸になると考えています。もちろん、どちらかに完全に切り分けることは難しいとは思いますが。

 

──改めて、先日の高校生を対象とする「eスポーツキャンプ」を振り返って、どのような感想をお持ちですか。

 

井尻 普段は学校に通えないお子さんでも「このキャンプにだけは是非参加したい」と参加してくれたケースがあったり、「女性でもフェアに競える場で良かった」という声もありましたので、素直に実施して良かったと思っています。私としては、行政の目的は、突き詰めると、人々の幸福追求の一助ではないかと考えていて、人の幸福の一つは、人同士の交流にあると思っています。参加者のSNSの発信や、イベント開催時の参加者の言動を観察していて、そういうところに少しは、届く部分があったのではないかなと。

 

△40名以上の参加者が各地から集まったeスポーツキャンプ

 

──勝敗に関係ない部分でのeスポーツの魅力を実感したということですね。

 

井尻 行政としては「青少年の健全育成」の観点から、「健全に育つ」という面に寄与できたのかなと思います。何より「仲間がいる」ということは青少年の健全育成にとって大きなファクターになると思いますので、3泊4日という時間をオフラインで、仲間と共に過ごしたことは皆さんの今後にいい影響があったのではないでしょうか。「青少年の健全育成」については南海さんのお話でもよく出るキーワードですので、それが実現できていたのは良かったです。

 

──より高いレベルを対象にした「eスポーツキャンプPlus」の実施予定も発表されていましたが、やはり今後の取り組みの柱になって行くのでしょうか。

 

井尻 まずは、専用のeスポーツ施設である「eスタジアム泉佐野」をゲームの入口に、より競技的に取り組みたい方には「eスポーツキャンプ」を、更に上を目指すなら「Plus」に参加していただく流れを考えています。eスポーツは他のスポーツのようなピラミッド構造がまだ出来上がっていないと聞いています。レイヤーとしては3段階でもまだまだ足りないとは思いますが、裾野の拡大という観点でも貢献していきたいですね。

 

──そのピラミッドの頂点として、プロの大会を誘致する可能性などもあるのでしょうか。

 

井尻 明確にビジョンに入っている訳ではありません。ですが、市で継続して取り組むことで「eスポーツと言えば泉佐野市だよね」と認識され、行政が関与せずとも自然と大きな国際大会も開催されるような土地になれば、とは思いますね。

 

──ゲームは人気の移り変わりが激しく、eスポーツに長期的に取り組む上で「どのタイトルを扱うか」が難しくなるのではないでしょうか。

 

井尻 そこは南海さんもウェルプレイド・ライゼストさんも頭を悩ませていた部分ですが、この分野で、本市よりも造詣が深い南海さんとウェルプレイド・ライゼストさんの意見を尊重したいと考えています。また、本市の考え方として3年間は実証事業としてやろうと思っているので「やってダメだったら変えていけばいいじゃないか」というスタンスで、問題が出てくるたびに修正していけば良いと考えています。

 

「銃撃戦のゲームで良いのか」という意見も確かにありましたが、官民連携でやって行く上で「eスポーツキャンプ」と「Plus」についてはeスポーツの魅力を最大限活用する「MICEのコンテンツとして」という姿勢で南海さんとウェルプレイド・ライゼストさんのご意見を頂戴しながら、また、参加者や社会の反応も確認しながら丁寧に進めて行きたいです。市内の施設で開催するイベントについては、また別の基準を持って、ひとつの境界線を作るような形で動いて行ければと思います。

 

──では市内に開業予定の施設「eスタジアム泉佐野」についてはどのような運営を考えているのでしょうか。

 

井尻 まだ詰め切れてはいない段階ですが、「どこを狙っていくか」では教育現場の協力が大きなポイントになると考えています。教育現場からは、多種多様な意見は頂くと思います。まずは、施設において、参加自由型で小中学生向けのプログラムを実施して、反応や効果を確認し、良い成果が出たら広げていくというやり方もあると思っています。

 

△「eスタジアム泉佐野」の施設内イメージ

 

あとは、やはり本市としても人口割合では高齢者が多くなっていますので、高齢者層に向けた取り組みも想定されますね。

 

──ちなみに、井尻様ご自身はeスポーツに携わられて、以前と考え方や見方は変わりましたか。

 

井尻 最初は机上で考えていたので、行政がやるからには「高齢者に向けたフレイル予防」など、社会的な役割を中心に据える方向で考えていたのですが、実際にeスポーツを見聞きすると、そこに偏りすぎるとeスポーツの魅力を発揮できないのではないかと思うようになりました。やはり実際にeスポーツをプレイしている人が魅力を感じているところ、求めているところにリーチしないと失敗するのではないかと。

 

取り組みを続けていくと細かい修正点は沢山出てくると思いますが、eスポーツキャンプに参加された方々の表情を見ていると、「eスポーツを通じて、共感を得る・仲間が出来ること」ということが求められているポイントのひとつだと思います。

 

──意義にこだわってコンテンツの魅力を損なってしまわないように、ということでしょうか。

 

井尻 そうです。「eスタジアム泉佐野」を高齢者の方が利用される場合でも、絶対的なフレイル予防の効果が出なくとも、ゲームをプレイする機会を通じて、日常的に接している方以外の方々と交流をシンプルに喜んでくださったら、一定の役割は達成されていて、そこを入口に継続して取り組みたい場合は民間のサービスを選んでいただく選択肢もあると思います。

 

──なるほど。泉佐野市の「eスポーツ先進都市」構想には既に委託事業者が参加していますが、それ以外にもeスポーツに携わる企業やサービスが参加するようになることがひとつの理想ということなんですね。

 

井尻 そうですね。なので、関心をお持ちの方は是非参加していただきたいです。

 

──ありがとうございます。最後に、eスポーツという文化の今後へ向けて展望をお願いいたします。

 

井尻 文明と文化とは違っていて、我が国において、文明化は、ほぼ達成されていて、今後は、自分たちで文化を作り上げていかなければいけないと思っています。事業者さんとの話し合いでも「文化にしていきたい」という言葉は何度も出ていますので、本市の目的を超えてそういうところにも寄与していきたいと考えています。

 

──本日はありがとうございました。

 

井尻 ありがとうございました。

 

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