テレワーク or オフィス回帰

ITエンジニアが働く環境はどう変化していくのか

#エンジニアブログ

 

新型コロナウイルスの影響により、2020年から飛躍的に発展した「テレワーク」。通勤時間が不要な点や、ひとによっては一人で仕事に集中できるなどメリットが見られました。

 

その半面、最近は「テレワーク疲れ」や「燃え尽き症候群」といった言葉も耳にするようになりました。実際、テレワークからオフィスワークへ回帰する企業は多く、コロナ禍以前に戻っていくような印象さえあります。

 

2022年の今、人々の働く環境に何が起きているのでしょうか。ここでは、働き方にまつわる課題や、オフィスのあり方の変化を見ていくとともに、ITエンジニアの働く環境が、今後どのように変化していくかを考えていきます。

 

国内企業におけるテレワークの状況

 

 

まずは、国内の企業におけるテレワークの実施状況を、全業種の平均と、IT業界(情報通信業)のそれぞれ見ていきましょう。

 

国内企業全体のテレワーク実施率は14.3

 

三菱UFJリサーチ&コンサルティングが2021年に行った調査によると、国内企業のテレワーク実施率は14.3%でした。

 

内閣府の調査では、新型コロナウイルスが日本で流行する前の全国でのテレワーク実施率は10.3%とされており、それに比べれば実施率は増えたことになります。しかし、新型コロナウイルスの流行により、一時は約半数の企業がテレワークを実施していたことを考えると、多くの企業がオフィス回帰を選び、テレワークが定着しなかったことがわかります。

出典:テレワークの労務管理等に関する実態調査|三菱UFJリサーチ&コンサルティング

出典:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査|内閣府

 

IT業界のテレワーク実施率は全業種トップの56.3%

 

一方で、IT業界のテレワーク実施率は非常に高いものです。先ほどと同じく、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った調査結果を見ると、IT関連業(情報通信業)のテレワーク実施率は56.3%と大変高く、全業種の中でダントツのトップとなっています。

 

また、自宅でテレワークをする環境がない社員の救済措置としても注目されているサテライトオフィスや、場所や時間に関係なく仕事を行えるモバイル勤務においても、IT業界の実施率は他を圧倒しています。

 

これは、IT業界の電子化が元々進んでおり、テレワークに即座に対応できる土台があったためですが、それと同時にIT業界で働く人たちのITスキルの高さも、新たな試みを行いやすい理由になっていると考えられます。

 

海外IT企業におけるテレワークの状況

アメリカを中心とする世界のIT企業は、日本企業よりずっとテレワーク環境の構築が進んでいると考えられてきました。実際、アメリカでは2010年にテレワーク強化法が施行され、大多数の企業がテレワーク制度を整備しています。

 

しかし、実際のところ、新型コロナウイルスが猛威を振るう前のアメリカ企業において、テレワークに前向きな企業はそれほど多くなかったようです。実際、新型コロナウイルスの流行の落ち着きとともに、多くの企業でオフィス回帰が検討されています。

 

例えば、meta(旧Facebook)やTwitterが、積極的にテレワークを許可する方針である一方、MicrosoftやGoogleなどの大手IT企業は、オフィスワークとテレワークを組み合わせた「ハイブリッドワーク」へと舵を切っています。

 

コロナ禍で見えてきたテレワークの課題

 

オフィス回帰の流れが起こるのには理由があります。コロナ禍で多くの人と企業がテレワークを経験したことで、見えてきた課題とはどんなものでしょうか。

 

自然発生的なイノベーションが生まれにくい

 

日本の企業、海外の企業がともに懸念しているのが、自然発生的なイノベーションの減少です。これは、従業員同士が顔を合わせてコミュニケーションを取る機会が大幅に減ったことに起因します。

 

実際、コーヒーブレイクでの雑談や、喫煙室でのコミュニケーションが、仕事のヒントやアイデアに繋がった経験をしたことのある方は少なくないはずです。そして、そういった雑談が、テレワークで大きく減ったことを実感している方は多いことでしょう。

 

元々、同じオフィスで働いていた者同士でもコミュニケーション不足に陥るのですから、一度も会ったことのない者同士であれば、雑談をする機会はいよいよ少なくなります。今後もテレワークが続いた場合、実際に会ったことのない同僚や上司は確実に増えることになるため、雑談は一層少なくなるものと考えられます。

 

新人教育や、チームワークの醸成が難しい

 

直接顔を合わせてコミュニケーションする機会がなくなった影響を最も受けるのは、新入社員かもしれません。

 

パーソル総合研究所が、新入社員を対象に2020年に行った「在宅勤務の課題」調査では、48.6%が職場の先輩社員とのコミュニケーションの取りづらさを感じ、46.5%の人が研修・業務へのモチベーション低下を感じています。

 

これらのデータは、同じチームで仕事をする者同士が顔を合わさない中で、社内の一体感を醸成することが難しいことを物語っています。チームワークが育たなかった場合、企業が将来的に受ける損失は小さくないのかもしれません。

出典:2020年度新卒入社者のオンボーディング実態調査(コロナ禍影響編)|パーソル総合研究所

 

「仕事をし過ぎて体を壊す」「集中できない」ケースも

 

テレワークで仕事をし過ぎてしまう人もいます。これは、特にITエンジニアに顕著ですが、集中して作業を進めるがあまり、集中力の続く限り作業に没頭してしまうケースがあるようです。

 

一方で、集中できない人もいます。自宅の環境が仕事に向いていなかったり、「家にいるなら」と家事に取り組み、悩むケースです。本来、通勤時間がなくなるテレワークは時間の有効活用ができるのですが、仕事の仕方や性格によってはマイナスとなります。

 

その結果、深刻な健康被害や、燃え尽き症候群が起こり得ます。そして、企業は従業員のそうした変化に気づけないことに危機感を感じています。

 

ITエンジニアとこれからの働き方

 

テレワークや、モバイル勤務との相性がよいと考えられているIT業界ですが、その中でITエンジニアの働き方はどのように変化していくのでしょうか。これからの働き方の可能性を探ってみましょう。

 

ITエンジニアとテレワークの親和性は高い

 

IT業界や、ITエンジニアの仕事は、比較的新しい職種であることもあってペーパーレス化が進んでおり、他の多くの職種に比べるとスムーズにテレワークに移行できました。また、コロナ禍以前からリモートワークを行っていた企業も多く、上層部も含めてテレワークへの理解が進んでいたことも、テレワークの実施率の高さに繋がっていると思われます。

 

そもそも、エンジニア自身がITに強い人材であり、テレワークを実現するための各種サービスやアプリケーションへの理解も、他業種に比べると圧倒的に深いことも事実です。こうしたことから、ITエンジニアとテレワークの親和性の高さは疑いようがなく、今後もテレワークと上手に付き合っていける可能性は高いものと考えられます。

 

就業時間や残業時間の管理がカギになる

 

一方で、改善しなくてはならないこともあります。それが、就業時間の管理と、コミュニケーション面の問題です。

 

IT業界は、他業種に比べて早くからリモート業務の導入が始まっており、テレワークへの戸惑いは少なかったはずです。しかし、就業時間の管理が曖昧だったケースは少なくないようで、残業時間がテレワーク以前より増えてしまった事例もあるようです。

 

また、元々フレックスタイム制度などを取り入れていた企業は、出勤形態が自由な分、残業時間の扱いが曖昧なケースもあります。働きすぎによる健康被害や、燃え尽き症候群の発生を防ぐためには、こうしたことの管理が重要になるといえるでしょう。

 

リモートワークで完結しない職種はオフィス回帰すべきか

 

同じエンジニアでも、リモートワークが困難な職種もあります。例えば、セキュリティ上の問題で、自宅からお客様のテスト環境や本番環境に接続できないことが考えられます。自社の機密情報にアクセスできない場合もあるでしょう。

 

また、ハードウェアの保守が伴う場合、現物が手元になければ作業ができないため、完全なテレワークは困難です。セールスエンジニアやサービスエンジニアの場合は、お客様から対面でのミーティングを求められるケースもあり、それはコロナ禍の終息と共に増えていくでしょう。

 

こうした職種の場合でも、必要なときに出社し、それ以外の業務をテレワークとするハイブリッドワークの導入は可能です。そして、完全オフィスワークと、ハイブリッドワークのどちらの効率がよいかは、これから一定の時間をかけて探る必要があるものと思われます。

 

テレワークで社員同士のコミュニケーションを増やす工夫も必要

 

テレワークでは、ちょっとした雑談を含むコミュニケーションがほとんどなくなります。

 

筑波大学が行った調査によると、テレワークの導入により業務効率がよくなったと感じている人が59.5%いる一方で、「業務以外のことに関する情報交換が少なくなった」、「職場や同僚の様子がわかりにくくなった」と答えた人は、それぞれ70%を超えました。

 

こうした状況を打破するためには、業務の一部、もしくはすべてをオフィスに回帰させることがベストのように感じられますが、テレワークの方法を工夫する余地も残されています。

 

例えば、長らくオフィスがない状態で成長してきた「GitLab」は、普段関わりのない社員とのコーヒーチャット(コーヒーブレイクを兼ねたチャット)や、バーチャルでの食事会を推奨しています。また、同僚に直接会うための交通費も支給しています。

 

こうした工夫によって、テレワークのまま、社員同士のコミュニケーションを活発にし、企業を成長させることは十分に可能といえるでしょう。

出典:「テレワークによる社内コミュニケーションの変化」に関する調査結果|筑波大学 

 

ハイブリッドワークがコミュニケーションと健康の問題を解消する?

 

一方、Googleでは、週3日のテレワークと週2日のオフィスワークを組み合わせるといったハイブリッドワークを推奨しています。これは、社員同士が顔を合わせてコミュニケーションを取ることで生まれる、自然発生的なイノベーションに期待しているからでしょう。

 

Googleでは、ただハイブリッドワークを推奨するだけでなく、社員の希望に応じて自宅近くのオフィスへの転勤も許可しており、働きやすさを維持しながら、生産性を上げることを試みています。

 

また、週に数日のオフィスへの出勤は、運動不足の解消にも繋がるかもしれません。テレワークは自宅のPCの前ですべての仕事が完結するため、運動量が極端に減少します。週に数日とはいえ、オフィスへ出勤することは、体を動かすきっかけにもなります。

 

そういった面から捉えると、一定のコミュニケーションを維持し、極端な運動不足を解消できる可能性のあるハイブリッドワークは、今後の主流になるかもしれません。

 

まとめ:2022年はどの企業もトライ&エラーの最中

新型コロナウイルスの流行により、世界中の多くの企業がテレワークをスタートしたのは、2020年はじめのことでした。それから丸2年が経過し、テレワークを継続する企業もあれば、オフィスへ回帰する企業もあります。

 

多くの人と企業がテレワークを経験したことで、これまで漠然と繰り返されてきた仕事が見直されることとなりました。どういった働き方が、企業と従業員にとって最も快適で生産的なのか、今一度捉え直すよい機会になったといえるでしょう。

 

今は、どの企業もトライアル&エラーを繰り返している最中です。ある程度の正解が見えてくるのは、早ければ数年後、もしかすると10年以上先のことかもしれません。私たちも、テレワークとオフィスワークのどちらかに固執するのではなく、より良い働き方を柔軟に探っていきたいものです。

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