もうひとつの「ゲーム×競技」

人気が高まるタイムアタック競技「RTA」とは

#eスポーツ

対戦ゲームを用いた競技が「eスポーツ」と呼ばれ、人気と注目を集めている昨今。その規模は拡大を続けており、ゲーム界でも非常に大きな存在感を放っています。

 

しかし、ゲームのジャンルは対戦ゲームばかりではありません。アクションやRPG、シミュレーションなど対戦要素を持たないジャンルも未だに確固たる人気を誇っており、対戦ゲームはあまりプレイしなくとも、いずれかのジャンルになら馴染みがあるという方も多いのではないでしょうか。

 

そうしたソロプレイ向けのタイトルで盛り上がりを見せているのが、ゲームをクリアするまでのタイムを競う遊び方「RTA」です。海外から生まれたRTAコミュニティは日本でも拡大しており、国内向けに行われるイベント「RTA in Japan」の配信は10万人以上の視聴者を誇る一大コンテンツに成長しています。

 

今回は日本でも勢いが増しつつあるRTAの魅力と可能性について紹介いたします。

 

RTAの魅力は「自由さと親しみやすさ」

 

RTAとは「リアルタイムアタック(Real Time Attack)」の略で、海外では「Speed Run」とも呼ばれます。単にゲームをクリアするのではなく「どれだけ短い時間でクリアできるか」に焦点を当てており、ローディング時間などプレイ外のタイムも含めて計測する点が特徴です。

 

ゲームスタートからクリアとみなされる条件を満たすまでの時間を競う方式が一般的で、ゲーム内の目標をどの程度達成するかなど細かい条件によって同じタイトルをプレイする場合でもカテゴリが分けられています。全ての要素を回収してのクリアを目指す「100%」と達成度を問わない「any%」の2カテゴリが代表的であり、これはゲーム内で現在の進捗率が表示される仕様に由来する表現だと言われています。

 

 

RTAに挑戦するプレイヤーはタイムを計測する陸上競技に見立てて「走者」と呼ばれており、いずれのカテゴリでも走者はスムーズにクリアするためゲームの内容を記憶し、その上で最適な操作を行うことが求められます。中にはゲーム内に存在するバグを巧みに利用して正規の手順とは全く異なる方法でクリアまで到達する手法もあり、バグ使用の可否もレギュレーションのひとつとして浸透しています。

 

普通ならゲームでは問題となり得るバグの存在までもルールに組み込んでしまえる自由さがRTA文化の特徴であり、そんな自由なルールの中でも走者は記録更新を目指してプレイの腕を磨いています。この自由さと熟練度の高いプレイング、そしてバグと仕様を巧みに使った奇想天外な手法によって、RTAのチャレンジは見慣れたはずのタイトルにも新鮮な楽しみを生み出しており、多くの視聴者に愛される魅力となっているのです。

 

加えて、ゲームジャンルを問わない幅広さもRTAが急速に浸透している要因のひとつ。基準となる始点と終点さえ決めることができればRPGやアクションゲームに限らず、パズルゲームや格闘ゲームのソロモ―ド、無料のブラウザゲームでもRTAが可能です。そのような背景からジャンルやタイトルの新旧を問わず、実に多種多様なジャンルで記録への挑戦が行われています。むしろタイム短縮の研究が進んでいるレトロゲームの方が好まれる傾向もあり、最新のタイトルと変わらない熱量で楽しまれているのも面白い傾向と言えるでしょう。

 

大きなRTAイベントは数日に渡って多数のタイトルがプレイされる形式が通例となっていますので、ゲーム好きな人であれば「遊んだことのあるゲームがプレイされる」ケースが自然と多くなり、誰もが親しみやすい構造が、近年のRTA人気の広がりに一役買っていると言えるでしょう。

 

ストリーマーを中心に、更なる広がりに期待

 

eスポーツと同様にゲームを用いて競いあい、その姿を見守るファンも増加しているRTAジャンル。その走者は日夜タイム短縮のために研究を続け、記録更新を目指して猛練習を積んでいます。ゲームに対する情熱はもちろんのこと、プレイのために身に着けた技術の傑出度でもRTAのトッププレイヤーは対戦ゲームで活躍する選手と比較しても遜色ないと言えるでしょう。

 

既に海外では賞金付きの大会も開かれており、ゲーム関連のイベントとしては業界でもRTAの影響力は大きくなりつつあります。ただ、多数のタイトルとレギュレーションが共存していることで競技人口は分散しており、基本的には小さなコミュニティの集合体として大きなイベントが開催されています。大会を継続して開催できるほどの大規模なコミュニティは珍しく、賞金を前提として活動するプロ選手のような存在は成立しづらいと考えられます。

 

加えて、RTAコミュニティではチャリティーの精神が浸透していることも紹介しておかなければいけません。RTAが発展したアメリカでは寄付の文化が根強く、世界最大とされるアメリカのRTAイベント「Games Done Quick」では例年、視聴者から集められた数億円にも上る寄付金が「国境なき医師団」へ募金されています。冒頭で紹介した国内イベントの「RTA in Japan」もチャリティーとして開催されており、日本でもその精神は受け継がれています。

 

 

 

そんなRTA界で中心となっているのが、普段からゲーム配信をメインとして活動しているストリーマーの存在です。普段の練習風景などRTAにまつわるプレイを配信上で披露することで収益化している彼らは、疑似的に「RTAジャンルで生活している」状況を成立させていると言えるでしょう。

 

このようにRTAを取り巻く環境は対戦ゲームとは少し異なっており、eスポーツと同様にプロスポーツ化が進んでいくとは少し考えづらい状況です。それでも年々人気と注目が集まっていることは視聴者数やドネート額といった数字に表れており、2021年8月に行われた「RTA in Japan Summer 2021」では同時接続数18万人、寄付総額が1255万といずれも国内で過去最高の数字を記録しました。今後もこうした独自の方向性を保ったまま、発展を続けていくのではないでしょうか。

 

対戦ゲームにはハードルの高さを感じる方でも、知っているタイトルの多いRTAから「ゲームを観戦する」習慣に親しむことで間接的にeスポーツ文化への好影響に繋がる可能性も考えられます。逆に普段からeスポーツ観戦に親しんでいる方でも、一風変わったRTAの世界を覗いてみることでまた新しい見方が生まれるかも知れません。

 

 

 

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