モバイルeスポーツ②

モバイルで多様化するeスポーツの世界

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前回の記事で、今後のeスポーツがモバイル(スマホ)ゲームを中心に展開される可能性について解説しました。今回の記事では、その中でも特にモバイルeスポーツの将来性が大きいと考えられる、中国・東南アジア・日本にフォーカスしていきたいと思います。

 

中国

中国はモバイルeスポーツのプレイヤーを多く抱える国であると同時に、モバイルゲームの開発・運営について世界有数の実績を持っている国でもあります。中国のゲームデベロッパーによるモバイルゲームが日本でも数年前から評判になっていますが、中国のゲームで特に好調なのはモバイルeスポーツタイトルでしょう。「PUBG MOBILE」(テンセント)、「アリーナ・オブ・ヴァロア」(テンセント)、「モバイル・レジェンド」(moonton)などの中国企業が運営するモバイルeスポーツは世界各地で多くのプレイヤーを獲得しています。

 

中国がモバイルeスポーツ大国になった原因としては、急速なスマホの普及と、それに伴うテンセント社のチャットアプリWeChatのゲームプラットフォームとしての定着が挙げられます。WeChatが特に若年層で広く普及していたからこそ、「王者栄耀」などモバイルeスポーツは多くのプレイヤーを獲得したのです。世界中どこでも、スマホで最もインストールされるアプリはチャットアプリであり、多くのチャットアプリはゲームプラットフォームとしても展開されますが、中国ではそれとeスポーツとのつながりが特に強かったといえます。

 

東南アジア

2018年現在、モバイルeスポーツの最大市場は東南アジアであると考えられており、2018年のモバイルeスポーツ市場の半分を占めると推定されています。8月にインドネシアで行われたアジア競技大会ジャカルタ大会で、eスポーツがデモンストレーション種目となったことが話題になりましたが、2019年にフィリピンで行われる総合競技大会「東南アジア競技大会」ではeスポーツ、それもモバイルeスポーツである「モバイル・レジェンド」がメダル種目になることが決定しており、eスポーツ史上初の総合スポーツ大会における「正式メダル種目」となる見込みです。

 

東南アジアが最大のモバイルeスポーツ市場になった理由はさまざまありますが、そのひとつとして、2010年代前半からスマホの普及率が一気に上昇し、人々の中心的なコミュニケーション手段となったことが挙げられます。通信手段としてスマホが必需品になったところで、もとから東南アジアの人々が好きだったゲームがプレイできるようになり、モバイルeスポーツが普及したと考えられます。

 

もう一つは、中国の大手ゲーム会社の影響が大きいことです。上述した中国のモバイルeスポーツタイトルは、東南アジア各国、とりわけインドネシアの売上ランキングで上位を占めています。中国発モバイルゲームのeスポーツ大会も東南アジアと中国が中心となって運営されており、欧米の主流とは別の大きなeスポーツ文化圏が形成されているといえるでしょう。

 

 

日本

日本もモバイルゲームの開発・運営について世界有数の実績を誇りますが、そのeスポーツ化の動きも数年前から盛んになっています。特に、日本eスポーツ連合(JeSU)の結成に伴い、「パズドラ」や「モンスト」がeスポーツとして「公認」されたのはそれを大きく後押しするといえるでしょう。

 

もとからモバイルゲームの市場規模が大きかった日本ですが、上記のような流れで「モバイルeスポーツ」の存在感が高まってきたのは最近のことです。今年は「クラッシュ・ロワイヤル」や「PUBG MOBILE」などの海外発モバイルeスポーツタイトルの大規模な大会も開かれています。

 

中国や東南アジアの場合は、もともとはPCゲームのeスポーツがさかんだったのが、スマホの普及により「eスポーツが(PCから)スマホゲームに移行した」のですが、日本の場合はもとからモバイルの非競技系ゲーム中心だったところにeスポーツブームがやってきて「スマホゲームがeスポーツに移行した」といえるでしょう。

 

そういう意味では、日本のモバイルeスポーツについて注意すべきなのは、eスポーツのモバイル化というよりは非eスポーツゲームのeスポーツ化なのかもしれません。この動きの中から、日本の著名IPや、日本独自のゲーム作りの伝統を活かして世界でプレイされるタイトルが出てくるか注目したいところです。

 

 

3つの地域のモバイルeスポーツの状況について見てきましたが、eスポーツはモバイル化により、プレイヤー層、プレイ形態、そしてゲームそのものをさらに多様化する可能性があるでしょう。多様化するeスポーツは従来よりもさらに複雑になりつつありますが、企業のブランディングやプロモーションの手段としてはさらに幅広い活用が可能になるといえます。

 

【参考記事】

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