モバイルeスポーツ①

eスポーツの主役はPCからモバイルに移るのか?

これまで長い間、そして現在も、eスポーツの主流はPCゲームでした。安定した通信、複雑で細やかな入力、ゲームの可塑性。それらすべてを可能にするゲームデバイスがPCだけだったからです。3番目の「ゲームの可塑性」という点について注釈すると、現在eスポーツとして著名な 「Dota2」(およびそこから派生した「リーグ・オブ・レジェンド」)や 「カウンターストライク」シリーズはもともと異なるゲームの “MOD” として作られたものでした。MODとは有志によって作られるオリジナルゲームの改変プログラムのことで、PC以外では成立しえないゲーム文化です。

 

MOD文化の影響や、デバイスとしてのPCの強みのうえに成立していたeスポーツの世界ですが、2010年代も中頃になると変化が生じます。安定した通信はスマートフォンでも十分可能になりました。入力系統については、eスポーツが一般化するに伴って複雑な入力が要求されるゲームが好まれなくなり、「操作が簡単でも競技性が高い」という方向が目指されるようになりました。そして、これまで有志が「MOD」という形で行ってきたことをゲーム企業が直接(MOD開発者を自社で雇う流れも含めて)行うようになりました。

 

 

そうした流れの中で現在注目を浴びているのが「モバイル端末によるeスポーツ」です。ゲーム市場というくくりでみれば、モバイルゲームの市場規模はすでにPCの2倍以上になっています。すでに多くの人が「ゲームはモバイルでやるもの」という環境に慣れた中、スマホによるeスポーツの大会もすでにPCに負けないレベルで大規模なものが多く開かれています。

 

たとえば、「クラッシュ・オブ・クラン」で有名なスーパーセル社が2016年にリリースした「クラッシュ・ロワイヤル」や、中国テンセント社が長年中国のモバイルゲームストアで売上1位をキープし続けているタイトル「王者栄耀」がそれぞれ賞金総額1億円規模の大会を開催しています。また、もともとはPCゲームであるPUBGこと「プレイヤーアンノウンズ・バトルグラウンド」も、PCの大会とは別にモバイル版のみの大会を開催しています。国産タイトルの「モンスターストライク」や「パズル&ドラゴンズ」も、サービス当初は必ずしもeスポーツを意識したわけではなかったかもしれませんが、近年ではプロライセンスを持つプロゲーマーも存在する重要なモバイルeスポーツタイトルのひとつに挙げられます。

 

モバイルeスポーツのタイトルは、PCのものに比べて操作が簡単で、画面が小さいため画面内に一度に表示する情報も限られており、またプレイ時間も1ゲームが数分で終わるものが多いという特徴があります。この特徴が、若者がスマホを持って学校やカフェなどに集まって気軽にプレイすることを可能としており、このプレイスタイルがモバイルeスポーツタイトルの普及に寄与するというサイクルを生み出しています。モバイルはすでに世界のゲームデバイスの主役ですが、さらに幅広いジャンルのゲームがモバイルeスポーツ化することにより、eスポーツの世界でもPCとの力関係が逆転するときがくるかもしれません。

 

 

さて、ここまで見てきたeスポーツのモバイル化ですが、実は全世界的な現象というよりは一部地域において顕著な現象です。その地域とは、中国、東南アジア、そして日本です。また別の機会に、これらの地域にフォーカスしてこの現象についてさらに掘り下げてみたいと思います。