コロナ禍でのインドア需要によるゲーム業界の好調にも後押しされ、ますます勢いを拡大しているゲーム対戦競技「eスポーツ」。その影響はゲームコンテンツからイメージされる若者層に留まらず、高齢者にも広がり始めています。
2022年3月に予定されている健康で長生きを支援する「介護予防 総合展」でも高齢者向けの「eスポーツ・健康ゲーム ゾーン」が新設される運びとなりました。
高齢者にとって、そして介護業界にとってeスポーツはどのような存在となりつつあるのか。本取り組みについて展示会の主催者であるブティックス株式会社から、担当者の岩田さんにお話を聞きました。
──本日はよろしくお願いいたします。まず「介護予防 総合展」についてご紹介いただけますでしょうか。
岩田さん(以下、岩田) はい。「介護予防総合展」は別名を「ヘルスケアJAPAN」とも言いまして、「東京ケアウィーク ‘22」というイベント内で実施されるBtoBの商談・受注のための展示会です。
「東京ケアウィーク」の趣旨からご説明いたしますと、こちらは超高齢社会を迎えた現代の社会課題解決のための商談型展示会です。この大きな傘の下に6つの展示会がございまして、介護や先端技術、まちづくりや在宅医療など多岐に渡るジャンルで商品やサービスが出展されます。中でも「介護予防総合展」は、その名の通り介護状態にならないよう予防することを目的とした製品や技術の集まる展示会になっています。
展示会は一般の方は入場不可となっておりまして、介護施設やリハビリ施設、自治体の方などが来場者されて出展社の方と商談することができます。
──介護や医療に関する展示会にeスポーツのコーナーが出展されるのですね。
岩田 その通りです。データを見ますと現在の日本は要介護の認定件数が増加傾向にあり、介護予防や介護度の改善が急務と言える状況になっております。寿命は伸びているにも関わらず寝たきりなどで長生きされるケースが増え、介護や支援を必要としない「健康寿命」とのギャップが10歳近くあるのが現状です。
そんな中でeスポーツは脳トレや認知症予防の効果が研究でも明らかになっており、既にゲームを高齢者向けのレクリエーションとして取り入れている自治体や施設もあるほど注目を浴びています。ゲームと言えば若い方の向けのイメージがありますが、高齢者の方にもどんどんやっていただきたいと思いまして今回の出展ゾーンの新設に至った、というのが経緯になります。
──実際にイベント内の「eスポーツゾーン」はどのようなブースになる予定なのでしょうか。
岩田 介護施設に取り入れることによる効果や既に実証済みの効果について紹介したり、実際にゲームをプレイしていただいたりすることも可能です。まだ導入されていない施設や自治体の方に「ゲームは高齢者の方でも楽しくできるんですよ」という体験をしていただける内容を考えております。
──ゲームの中にも色々なジャンルがあるかと思いますが、どのようなタイトルが高齢者向けとして受け入れられているのでしょうか。
岩田 今回の企画に向けて既に導入されている事例について調査いたしましたところ、よく目にしたのは『太鼓の達人』や『グランツーリスモ』、『ぷよぷよ』といったタイトルですね。中にはお孫さんと一緒に遊んだり、自分では操作しなくてもゲームを知っていることで共通の話題になったりするため、『フォートナイト』など、若い方に人気のジャンルも意外とプレイされているようです。
──複雑なゲームでも受け入れられているケースがあるのですね。
岩田 実は現在65歳くらいの方は日本にゲーム文化が入ってきたころに若者だった、いわば最初のゲーム世代という認識をお持ちの方もいらっしゃるようなんです。インベーダーゲームなどが流行した時期を経験しているので、若い方が考えるほど拒否感はなく、むしろやってみたいと考えている方も少なくないようです。
ゲームメーカーさんの視点で見ても実はブルーオーシャンなのではないかとも感じられます。「ご高齢者には難しいのではないか、興味がないのではないか」と判断するのではなく、そこに新たな投げかけを行っていく可能性もあるのではないかなと。現時点では高齢者向けのマーケットはまだまだ手つかずという印象もあります。
──高齢者への広まりが、ゲームメーカーに及ぼすメリットも見逃せない状況になってきているのですね。
岩田 特に自治体で積極的に取り組まれている事例が幾つもありまして、例えば静岡県では先に挙げたようなタイトルを用いて参加者にゲームのプレイ方法を指導する「健康eスポーツ教室」が行われています。他の都道府県でも高齢者向けのeスポーツ教室などの開催も広がりつつあり、かなり自治体も前向きに後押しされているなと感じます。こうした取り組みがeスポーツの認知度を高めていくひとつの方策になるのではないでしょうか。
また、今回の展示では関東経済産業局という経産省の地方ブロック機関による特別セミナーやパネルディスカッションも企画しており、自治体 × 企業の介護予防の取り組みについて、事例紹介も行われる予定です。実際に来場される自治体の方が聴講されて「うちでもやってみよう」と考えて頂けるのではないかと期待しています。
──これまでとは異なる層へeスポーツが広がることで、新たなスポンサー層の拡大や選手の雇用確保など、業界全体への好影響も考えられます。
岩田 プレイヤーの方の働き方と言う意味では日本アクティビティ協会が制定している「健康ゲーム指導士」という民間資格も生まれています。現在は資格を持つ方が1,000名程いらっしゃって、高齢者施設や自治体でのレクリエーションの指導などにあたっています。
──岩田さんは展示会でeスポーツを取り扱われるのは今回が初めてでしょうか。
岩田 そうなんです。私自身ゲームには疎くて、ゲーム好きな息子に教えてもらって少し遊ぶくらいでした。事例を調べてみるうちに、むしろ「高齢者こそやるべきなのでは」と思える面も多かったですね。
──今後はこうしたイベントも増えていく可能性も充分に考えられますね。
岩田 実はコロナ禍では他の世代の方々と同様に高齢者の方の楽しみも減ってしまっており、精神的に抑圧感を覚えることも少なくなかったのではないでしょうか。eスポーツであれば体力の衰えを気にせず楽しめますし、ひとりで遊ぶだけでなく誰かと対戦することで交流も生まれます。「これからの認知症予防」として非常に興味深く、良い取り組みだなと感じております。
──盛り上がるeスポーツ界の中でも新鮮なお話をお聞きすることができました。
岩田 対象となる高齢者の方にとっても、提供されるサプライヤーの方にとっても、双方にメリットのある新しい市場で、社会的意義もあると感じております。
──本日はありがとうございました。
岩田 ありがとうございました。2022年の3月9日から11日まで東京ビッグサイトの南展示棟にて開催予定の「介護予防 総合展」には例年、多くの自治体や施設の経営者の方が来場されます。是非、高齢者マーケットにご興味のあるゲーム制作会社の方は、本展へのご出展をご検討いただければ幸いです。