~「eスポーツ」×「野球振興」~

プロ野球界のeスポーツへの取り組み

これまでも紹介してきましたが、世界での流行を追うように日本国内でもeスポーツは日々規模を拡大しており、何かしらの形でeスポーツに関わり始める企業・団体も数多くなりました。

その業界・業種は様々ですが、ゲームというコンテンツに関連したハードウェアやデバイスのメーカー、あるいはネットワーク事業に関連した通信の分野からの参入が目立っており、社内にeスポーツチームや部活動を設立したというニュースも増えてきています。

 

そんな中、スポーツの分野からもeスポーツに参入する動きが高まっています。日本のプロ野球を統括する一般社団法人日本野球機構(以下、NPB)は2018年より野球ゲーム『実況パワフルプロ野球』(以下、『パワプロ』)の開発元であるコナミデジタルエンタテインメントと、同タイトルのプロリーグ「eBASEBALL プロリーグ」を共催。そして2019年には任天堂株式会社のアクションシューティングゲーム『スプラトゥーン2』を使用した「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」」と題した大会を主催。両大会ではどちらもプレイヤーがプロ野球12球団の代表選手としてチーム名を背負い、オリジナルのユニフォームで戦う姿が話題を呼びました。

 

一丸となってeスポーツに取り組む日本プロ野球界。この取り組みはどのように生まれたのか、NPB事業推進部の酒本昇尚(さかもと のりひさ)様にお話を伺いました。

 

 

──本日はよろしくお願いいたします。

 

酒本昇尚氏(以下、酒本):よろしくお願いします。

 

──2018年からスタートした「eBASEBALL プロリーグ」、そしてeスポーツに向けた取り組みも2シーズン目を終えました。そもそも、本取り組みはどのようなキッカケで始まったのでしょうか。

 

酒本:スポーツ界全体で見ても近年はプロ野球人気が高まっておりまして、観客動員数も毎年徐々に伸び、2019年には過去最多となる2,600万人超えを達成しました。ただこうした好調さの一方で、そのファン層の中心は30代から40代と年齢層が高くなっているのも事実です。インターネットが普及し娯楽に対する選択肢が広がっている若い層に向けて、どうやってプロ野球の魅力を発信していくか。これがプロ野球界全体へ取り組んで行くべき課題として、以前より挙げられていました。

 

そうした議論の中で兼ねてより「eスポーツ」が話題になっており、市場規模も年々拡大を続けていることで注目を集めていました。そんな中で以前より『パワプロ』では2017年の大会をNPB公認大会として開催する形で協力させて頂いており、2018年から「eBASEBALLプロリーグ」の取り組みに発展させて実施しようとなりました。

 

 

──2019年5月には『スプラトゥーン2』というタイトルでも同様の取り組み(「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」)を開催されていますね。野球ゲームの『パワプロ』と比べて、直接的に関係しているイメージがないタイトルだと思うのですが、何故このタイトルが採用されたのでしょうか。

 

酒本:『パワプロ』の大会である「eBASEBALL プロリーグ」は普段からプロ野球を見てくださっている層にかなり反響がありました。ただ、我々がeスポーツにチャレンジする元々の目的を考えると「普段あまりスポーツや野球に接点のなかった層へのアピール」ということがあり、野球以外のゲームタイトルで行う「NPB eスポーツシリーズ」との2本立てでやろうという考えになりました。

 

 

沢山あるゲームの中でも『スプラトゥーン2』というタイトルは暴力性や過激な表現がなく、そのお陰もあって女性や子供など年齢性別を問わず非常に幅広い層にプレイされていたことも選ばれた要因です。

 

やはり12球団の中からは「なぜ野球と関係ないゲームを?」という反響もあったのですが、「まずはやってみよう」というのが根本にあると言うことを理解して頂いて、実施に至りました。結果的に「eBASEBALLプロリーグ」とは視聴者層がかなり異なっており、効果があったのではないかなと実感しています。

 

 

──今もお話にありましたが、12球団からのeスポーツに対してのリアクションは如何だったのでしょうか。

 

酒本:そうですね。各球団の親会社・オーナー企業の業種・業態もさまざまなので、やはり色々な反響がありました。ただ「野球振興のために」というベースの考え方にはご理解を頂いており、2つの大会を実施できました。実際に野球の認知度の向上については大きな効果があったと感じており、これらのイベントから野球に興味を持ったという声も頂きました。『スプラトゥーン2』のゲーム内コラボ「フェス」では、「セ・リーグvsパ・リーグ」というイベントも実施したのですが、これで初めて2リーグの存在を知ったという方も多かったみたいです。

 

今では月に1回、12球団の担当者会議としてeスポーツに関する取り組みについて情報共有や議論を行わせて頂いております。だからこそ単発の大会で終わらないというのが大事だと思うので、今年の「eBASEBALL プロリーグ」でも代表選手の人数枠を3人から4人に増やし、名球会の協力もあって「レジェンドOBの起用」という要素を加えました。今回のように毎年発展させながら活動を続けていきたいですね。

 

──『スプラトゥーン2』や『パワプロ』からどこかの球団のファンになったという意見も耳にします。

 

酒本:「eBASEBALL プロリーグ」と「NPB eスポーツシリーズ」ではプレイヤーが実在の球団の代表選手として戦うので、そのゲームプレイヤーのファンの人が球団のファンになるというケースもあったみたいです。これは本当にやって良かったと思っているポイントです。

 

また、これらの活動を通してeスポーツから野球を知った皆さんに、最終的に「野球場にどう来ていただくか」ということも大事になってきます。今はeスポーツについては専用の会場で試合を行っていますが、今後は実際の球場で試合をするようなコラボも出来るかも知れません。プロ野球で使用される球場は3~4万人の収容規模が多いので、eスポーツに関する配信についての同時接続者数もそこを目指していきたいですね。

 

──当初から1年だけではなく、何年かやろうという長期的な計画であったという訳ですね。

 

酒本:はい。なので「eBASEBALL プロリーグ」では2年目となる2019年シーズンは「広げる」をテーマに、有料での優先観覧席を設けたり、オリジナルのグッズを作ったりと色々な試みにチャレンジしました。既に来年に向けても色々と検討しています。

 

──では最後に、今後のeスポーツという文化そのものに期待していることを教えてください。

 

酒本:繰り返しになりますが、我々としてはeスポーツを通じて「どう野球人気を高めていくか」ということに集約されます。ただ、eスポーツにはバーチャルならではの要素・魅力がありますよね。例えば今季の「eBASEBALL プロリーグ」で導入された「レジェンドOB」がまさにそれで、ゲーム内で現役プロ野球選手とOBの夢の対決が実現しました。また、ネットワークを通して世界中と繋がっているというのも興味深い要素です。こうした独自の要素を上手く活かして、将来的にはeスポーツが単体の興行として成立するようになっていけば素晴らしいと思いますし、そこへ向けて何が出来るかというのも探っていきたいと考えています。

 

そのためにも、まずは今取り組んでいる『パワプロ』と『スプラトゥーン2』という2つのタイトルに注力します。「eBASEBALL プロリーグ」は3年目の開催が決まりましたし、「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」は2020年5月末より新たなシーズンが始まります。これらをより多くの方に観て頂けるよう、務めていきたいですね。