~10周年を迎えて“独り立ち”した『LoL』のキャラクターたち~

『LoL』はeスポーツの枠組みを超え、さらなる発展を目指すのか

Riot Gamesが開発・運営するPC向けオンライン対戦ゲーム『リーグ・オブ・レジェンド(以下、LoL)』が、2019年10月27日をもってサービス開始から10周年を迎えました。

 

 

『LoL』は、いわゆる“MOBA”と呼ばれるゲームジャンルにおいて世界的な人気を集めており、2019年9月の公式発表によれば1日のピーク時の平均同時接続者数は800万人にものぼります。この数字はPCゲームプラットフォーム“Steam”の人気上位10タイトルが束になっても敵わないほどの人数が、日々『LoL』をプレイしているということを意味しています。

名実ともに世界最大級のプレイ人口を誇る『LoL』が、2019年10月16日に実施した10周年記念公式生放送“Riot Pls”にて、『LoL』の世界観を引き継ぐ新作タイトルを5本立て続けに発表しました。

そこで本稿では、『LoL』における“キャラクターの二次利用”とも言える試みが、今後どのような影響を与えるのかを考察し、本作の10年間の歩みやプレイヤーから人気を集めた理由などを振り返ってみたいと思います。

 

 

『LoL』の10年間の歩みと熱狂度高まる競技シーン

本題に入る前に、まずは『LoL』の10年間の歴史と競技シーンの盛り上がりに関しておさらいをしてみましょう。

『LoL』は、2006年にアメリカで設立されたゲーム会社・Riot Gamesが開発したMOBA系ゲームです。

 

 ▲”Riot Pls”で取り上げられた、オープンベータ版『LoL』の様子

 

MOBA(マルチ・プレイヤー・オンライン・バトルアリーナ)というジャンルの定義には諸説あるのですが、プレイヤーたちが2チーム(『LoL』の場合は5人対5人)に分かれて様々な特性を持つキャラクターを1体ずつ操り、箱庭上のフィールド内で成長と戦闘を繰り返しながら、相手本陣にあるオブジェクト(建造物)を破壊することが目的(勝利条件)というのが大筋のルールという点で概ね共通しています。

 

これはMOBAの祖とされるタイトル『DotA Allstars(以下、DotA)』にも見られたゲームデザインで、『LoL』もMOBA――ひいては“DotAライク”なゲームと言えます。『DotA』の著名なクリエイターであるSteve “Guinsoo” Feak氏が『LoL』の開発に最初期から関わっていることからも、その点は明らかです。

 

2009年にリリースされた『LoL』は、わずか3年で7,000万人以上の登録者数を集め、2012年時点で全プレイヤーを合計して月間10億時間ものプレイタイムが費やされるほどのビッグタイトルへと急成長を遂げます。

 

また、その競技性の高さから各地でプロチームも誕生。現在では全世界14地域でプロリーグが発足し、2018年に開催された世界大会“Worlds 2018”のユニーク視聴者数は9,960万人まで到達するなど、世界的な盛り上がりも見せています。

 

 

お隣の中国では、国内で最も人気のあるスポーツリーグ“NBA(北米プロバスケットボール)”よりも、『LoL』のストリーミング配信視聴者数の方が上回っているというデータからもその注目度の高さがうかがえます。

日本国内においても、2014年4月にRiot Gamesの現地法人が設立され、国内公式プロリーグである“League of Legends Japan League(LJL)”が発足しました。2017年3月には待望の日本サーバーが正式運用開始となり、昨今では学生向けプログラム“LeagueU”主催のもと“全日本学生LoL選手権”が開催されるほどの市民権を得ています。

 

 

これほどのユーザーを魅了する『LoL』の魅力は一体どこにあるのでしょうか。次の段にて詳しいゲーム性の紹介を交えながら、本作の人気の理由を解説してみましょう。

 

 

長期運営に見る『LoL』の魅力と“キャラ愛”創出の取り組み

『LoL』を含めMOBA系ゲームの魅力は、大きく分けて“RPG的な戦略性”と“RTS的な戦略性”の2点であると考えられます。

 

まず“RPG的な戦略性”として挙げられるのが、試合中の育成・成長要素です。プレイヤーが操るキャラクターは毎試合ごとにレベル1の状態からスタートし、フィールド内の中立モンスターや相手プレイヤーのキャラクターを倒すことで徐々にレベルが上がっていき、ステータスなどが成長していきます。そして、経験値とともに手に入る“お金”を使って様々な効果を持つアイテムが購入できます。

 

これらのキャラクター育成を1試合の間にいかに効率よく行い、相手を上回るかというのが勝敗を分けるポイントとなります。

 

次に“RTS的な戦略性”というのは、『DotA』がかつて大ヒットしたRTS(リアルタイムストラテジー)ゲーム『Warcraft III』のMod(おもにユーザー開発の非公式拡張データ)として開発されたという経緯にも起因するところです。プレイヤーは味方のチームメンバーと協力しながら相手陣内にあるオブジェクトを破壊していき、相手の本陣を制圧(核となるオブジェクトの破壊)することが勝利条件となります。

 

敵キャラクターを倒すだけでは必ずしも勝利への道は拓けないというのがMOBAの醍醐味であり、ときには重要なオブジェクトを防衛するために集団戦(両チームの複数のプレイヤーが集まり、戦闘が行われること)が勃発したり、群れを成して行動する相手チームを出し抜いて少数でオブジェクトを攻め落としたりと、無数の駆け引きが生まれます。

 

加えて、チームの方針に合わせて各々が適したキャラクターを選択し、役割分担に応じた仕事が求められる協力プレイという要素があります。そして、相手が選択したキャラクターとの相性に応じて戦術やアイテム構成を切り替えていく“メタゲーム”的な要素などが合わさり、同じ展開の試合が2回と訪れないほどの奥深さが演出されるのです。

 

ちなみに『LoL』には、特性の異なるプレイアブルキャラクター(以下、チャンピオン)が総勢140体以上登場します。それぞれがアクティブとパッシブを合わせ5種のスキルを所持しており、それらを絡めたチャンピオン同士の戦闘はときにアクションゲーム的ですらあります。

 

 

大勢いるチャンピオンたちがコンセプトやゲームバランスから逸脱していないかを、常に開発チームが目を光らせ、約2週間に1回のペースで調整パッチが当てられるというのが『LoL』の特色のひとつです。いわゆる“空気”と化したチャンピオンや凶悪さ故にヘイトの対象と化したチャンピオンが存在したとしても、即座に、もしくは段階的に是正されるというのはプレイヤーにとって安心材料なのです。

 

 

こうしたプレイヤーから各チャンピオンが見捨てられにくい環境作りこそが、プレイヤーたちにチャンピオンへの愛着を持たせやすい土壌を育んだとも考えられます。

実際Riot Gamesは『LoL』を基本プレイ無料(F2P)タイトルとして、その収益の多くをチャンピオンの見た目を変更するスキンやアイコンなどの装飾アイテムへの課金で賄いながら、10年に及ぶ長期運営を達成しました。

 

『LoL』では、こうしたチャンピオン自体の魅力を創出するための取り組みが多種多様に施され、しばしばプレイヤー間で話題に上がることもあります。不定期に公開される、美麗な3DCGを用いた“Cinematic”ムービーもその中のひとつです。

 

 

▲2019年10月15日に公開された “セナ:闇の抱擁│チャンピオンアニメーテッドトレーラー”
新チャンピオン・セナの単なる紹介に留まらず、登場人物同士の関係性までをも深堀りした内容になっている

 

▲過去には、イベントシナリオ上の流れでガングプランク(画像のチャンピオン)が“死亡”扱いとなり、すべてのゲームモードで使用不可となったことも。こうしたメタネタと悪ノリにも全力投球なのがRiotクオリティ

 

そして昨今では、複数のチャンピオンらが集まり結成した(という設定の)仮想音楽グループ”K/DA”や“True Damage”が始動するなど、キャラクターがゲームから飛び出して独り歩きするほどの事態へと発展しました。ファンからの後押しを受けた彼らは単なるゲーム内の記号という立場から解き放たれ、次なるフェーズへと羽ばたこうとしています。

 

▲2018年に始動した仮想K-POPグループ“K/DA”のオフィシャルミュージックビデオ。YouTubeでの再生回数は1ヵ月で1億回を突破し、iTunesカテゴリー別ダウンロードランキングでも全米1位を獲得

 

 

キャラクターの二次利用”は『LoL』のコンテンツとしての発展の追い風となるか

いまやゲームの枠を飛び越え、独り歩きし始めた『LoL』のキャラクターたち。

Riot Gamesが、MOBAとしての『LoL』から派生した別ジャンルのゲームを多数開発することに踏み切った理由の一端には、恐らくチャンピオンを含めた世界観が広くゲーマーたちに受け入れられたことも関係しているでしょう。

 

▲“Riot Pls”で発表されたスピンオフ作品のひとつである『Project F』。“ルーンテラ”の世界が舞台のアクションアドベンチャー的な雰囲気を匂わせる

 

 

▲『Project L』は、2D対戦格闘ゲームとなる模様

 

 

▲『LoL』チャンピオンたちによるカードゲーム、『レジェンド・オブ・ルーンテラ』

 

 

▲『LoL』とは異なる世界観を発端とするタクティカルFPS、『Project A』も公開に。競技性の高さを突き詰めながらも、キャラクターベースのカジュアルさを残すシューターを目指している

 

また、Riot Gamesが2019年12月5日に発表したパブリッシングレーベル“Riot Forge”からも、サードパーティデベロッパー各社と協力して『LoL』の世界観に基づいた完結型のゲームを打ち出す予定とのことで、自社開発に留まらず『LoL』ユニバースのさらなる拡大を目指そうという姿勢がゲームファンからの注目を集めています。

 

こうした、言わば“キャラクターの二次利用”とも言うべき試みは、『LoL』のコンテンツとしての発展という観点において大きな意味を成すと考えられます。

 

eスポーツ、ひいてはスポーツ全般のシーンを盛り上げるうえで、シーンを見守るファンの存在は必要不可欠です。それもコアなファン以上に、いわゆる“にわかファン”をいかに引き込むかが重要であることは、2019年に“ラグビーワールドカップ”で沸き立った日本国民としては我が事のようにうなずけるところです。

 

翻って(少なくとも日本の)eスポーツシーンでは、画面上の情報を直感的に伝えるハードルの高さから“にわかファン”獲得に二の足を踏んでいる実情があります。eスポーツプロ選手たちが競技シーンで繰り広げるマクロ・ミクロは、時として一般のプレイヤーには理解しがたい行動を生むこともあり、たとえ日々『LoL』をプレイしているプレイヤーにとっても解説がないと「何が起きているのかわからない」というケースは多いです。

 

 

そうした中で、“二次利用”された『LoL』のキャラクターたちは、ひょっとしたらMOBAから別のゲームジャンルの競技シーンへと、さらにはeスポーツという枠組みから脱して、広く一般的なコンテンツとして世間に周知される日が近いかもしれません。

 

例えば、格闘ゲームの知識が全くないという人でも、『LoL』の経験があれば『Project L』の画面上で戦う“ダリウス”は近距離戦が得意で、相手の“アーリ”は遠距離タイプなのだろうと推測できます。さらに深読みすれば、逃げ回る“アーリ”に対して“ダリウス”は“捕縛による引き寄せ”という奥の手を持っているのではないか……などと、瞬時に駆け引きの領域まで想像することすら可能でしょう。

 

▲画面左側のキャラクターが”アーリ”、右側が”ダリウス”

 

正式な『Project L』で両キャラクターがどのような性能となるのかはさておき、これまで紹介してきたRiot Gamesの試みはひょっとしたら、“eスポーツ”と一緒くたにされている状況から、”eスポーツ”という枠組みにはとらわれない世界中で一般的なコンテンツへの成長までに繋がるかもしれません。

 

総人口1億人とも言われる『LoL』のプレイヤーたちが、これら派生作品の波に乗り、また、これらの試みでeスポーツ・MOBAプレイヤー以外のゲーマーおよび一般層に『LoL』、『LoL』のチャンピオンが認知されていくことになれば、その先にはどんな未来が待っているのか。『LoL』のコンテンツとしての更なる発展を期待して止みません。

 

 

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