eスポーツの「メッカ」になった街

高校野球の「メッカ」甲子園球場など、世界にはさまざまな競技の「象徴的な場所」が存在し、ファンにとっての憧れとなっている場合があります。まだ歴史の浅いeスポーツにもそのような場所はすでに存在します。また、そのような場所を目指している街も多くありますので、いくつかご紹介しましょう。

 

カトヴィツェ市(ポーランド)

ポーランドのカトヴィツェ市は、eスポーツのメッカと呼ばれる都市のひとつであり、またeスポーツによる町おこしの最も顕著な成功例だと考えられています。街の象徴であるスポデクという競技場は、高校球児にとっての甲子園球場と同じような形で、eスポーツの代表的タイトルである「Counter-Strike: Global Offensive」(CS: GO)の全世界のプレイヤーにとっての憧れの地となっています。

 

毎年カトヴィツェで行われる、「CS: GO」をはじめとしたいくつかのeスポーツタイトルの総合大会であるIntel Extreme Mastersのために、世界中からプレイヤーと観客が集まります。2019年大会ではその数は17万4,000人というすさまじい数にのぼりました。にもかかわらず、カトヴィツェ空港に直接就航する国際線はあまりありません。不便な場所といえばそうなのですが、逆にこのことはカトヴィツェが「eスポーツの街」として特異的に発展したことの表れでもあります。

 

特に若者が多いわけでもないカトヴィツェが「eスポーツのメッカ」に変貌したのは、2014年に市長のイニシアティブで市がIntel Extreme Mastersの主催者であるインテルと締結した、eスポーツ大会開催についての協定のためだといえます。市長も住民も “eスポーツ” に特に思い入れがあったわけではないことを考えると、非常に大胆な決断でしたが(実際議会では相当反対されたようですが)、短期間で大きな成果を出したといえます。

 

テキサス州北部(アメリカ)

ダラス市とフォートワース市を中心とする米テキサス州の北部もeスポーツのメッカとして発展することが期待されています。直接的な理由としては、この地域に、Infinite(インフィニット)、compLexity(コンプレキシティ)、そしてOpTic(オプティック)という米国でも特に有力な3つのeスポーツチームが集結していることが挙げられます。

 

3つもの有力チームが集結しているのは「単なる偶然」ということで、compLexityの創立者ジェイソン・レイクとInfiniteの創立者クリス・チェイニーの意見は一致しているようです。(参照) ただ、これらのチームが受けている投資の状況を見ていると、新しいことに積極的に投資しようとする機運がこの地域にあるのではないかということが想像されます。

 

eスポーツの発展を受けて、かつてこの地域の大規模展示会スペースであったアーリントン・コンベンション・センターが2018年、eスポーツ専用施設として生まれ変わりました。その規模は北米最大ということで、近い将来本格的に「eスポーツのメッカ」としての地位を確立するのではないかという気がしています。

 

 

金沢市(日本)

日本の金沢市も、eスポーツの街として積極的に名乗りあげています。市の公式Webサイトにも 「eスポーツ金沢モデル」というページが存在し、その取り組みをアピールしています。「eスポーツ文化の聖地金沢をめざします」と宣言しているので、まさに「メッカ」になろうとしているのでしょう。

 

まだ「メッカ」といえるほどの状況ではありませんが、行政としてここまで積極的にeスポーツに取り組む姿勢を見せている自治体は日本ではまだ珍しいといえます。

 

カトヴィツェやテキサス北部の例からも分かるとおり、eスポーツのメッカとなった街には、何か特別なリソースや、交通の便のアドバンテージなどがあったわけではありません。昔からゲーム好きが集まる、特にゲームの盛んな街だったということでもありません。そういうものがなくとも、「eスポーツ」という新しい領域に積極的に投資することで、ある程度は偶然かもしれませんが、成果を出すことができたのです。

 

そういう意味では「他の街に先駆けて取り組む」という姿勢を打ち出した金沢市のeスポーツの「聖地」としての今後にも期待が持てるのではないかと考えています。

 

【参考記事】

Small towns are building esports meccas

A tale of three teams: How North Texas became the hottest spot for esports outside of LA