「Tier 1」を知れば環境が見える?
あらゆる業界・分野ではその領域の中でのみ通用する、あるいは特別な意味を持つ“用語”が存在します。
eスポーツの世界でもゲーム内で登場する単語や、対戦環境から生まれた言葉まで様々なフレーズが飛び交っており、そのひとつが「Tier(ティア)」です。
「Tier」は「階層」を意味する英語で、製造業などのビジネスの世界では完成品メーカーを「Tier 0」、そのメーカーと直接取引する部品やシステムの供給企業を「Tier 1」、さらにその素材部品を扱う企業を「Tier 2」と、製造の階層構造を表すための言葉として用いられていることを知っている方も多いかもしれません。
ゲーム・eスポーツの世界で「Tier」はどのような意味を持つのでしょうか。
eスポーツシーンに限らず、対戦要素のあるゲームを遊んでいると耳に入る「Tier」の使われ方は「強さのランク付け」を表現するものです。
元々はゲームの中でアイテムのレアリティを「Tier 1」「Tier 2」と段階表記していたものが転じてキャラクターなど他の要素にも使われるようになったとされており、最も強い評価を「Tier 1」、続く評価を「Tier 2」……とする表現が現在では広く使われています。
1,2,3という数字を使った表現以外にも「Tier S」を頂点にA,B,C……とアルファベットで表記されることもありますが、意味は変わりません。強さを評価する「Tier」は基本的にゲーム側から示されることはなくユーザーの総意によって組み上げられていくもので、「Tierが高い」ほど誰が見ても高く評価しているということになります。
プロ選手など実力あるプレイヤーは自分が考えるキャラクターのパワーを「Tier表」にまとめて情報発信をすることもあり、見比べてみると個々人で考え方の違いが見られたり、あるいは一貫して最高のTierに評価されている強力な存在がいたりと、その時点におけるメタの把握に役立ちます。
特にカードゲームのようなメタ把握とその対策が重要なジャンルでは、環境ごとのTierの移り変わりが大きな攻略のポイントとなります。トッププレイヤー同士で情報交換をして環境のチェックをすることも多く、強さのTierを読み間違えないことが大きなポイントになるでしょう。
こうした「強さの目安」として「Tier」が使われているジャンルは他にもあり、代表的な例がラグビーです。スポーツにおけるナショナルチームの強さは通常、公式な大会・試合の結果に応じて変動する世界ランキングが大きな目安となりますが、ラグビーでは一部の強豪国を「Tier 1」、W杯常連国レベルが「Tier 2」、そしてW杯出場を目指す国が「Tier 3」と続いていくカテゴリ分けが存在しています。
このカテゴリは大会の結果に応じて変わることはなく、長年の歴史における伝統と実績によって築き上げられたものです。テストマッチ(ラグビーの国際試合の呼称)も、同じTierに属する国と組まれるなど競技の中のシステムとして浸透しており、そうした事情を知っている人からすれば親しみやすい「Tier」の使われ方と言えるかもしれません。
eスポーツにおいては強さのカテゴリ分けとして浸透している「Tier」ですが、実は冒頭で紹介した階層構造のような表現としても使われるケースも存在します。
そのような使われ方をするのがリーグ戦やトーナメントといった大会の規模や格式の表現で、オフィシャルなトップリーグを頂点の「Tier 1」とし、その下に続くセミプロやアマチュアの競技シーンを段階的に数えられます。
中にはTier 2シーンで優秀な成績を収めたチームがTier 1へと昇格するシステムが採用されていることもあり、サッカーにおけるJ1リーグをTier 1、J2リーグをTier 2と表現していると考えると分かりやすいでしょう。
eスポーツシーンにおいても環境が整備されてきたことで「Tier 2リーグで活躍してTier 1のチームに加入した」という事例も多くなってきており、決して収益に優れてはいなくとも育成や人材発掘のためには低いTierの大会や競技シーンを維持していくことの重要性が注目されつつあります。
スポーツと同様に上位カテゴリほど実力ある選手が参加する傾向にあるため、強さによるカテゴリ分けと同様に「Tierが高いほど強い」と捉えても決して大きな齟齬は生まれませんが、時には構造の表現でも使われることも頭に入れておきたいポイントです。
最近では「Tier」表現がすっかり浸透し、キャラクターの見た目が気に入った時に「ビジュアルがTier 1だ」と言ってみたり、ゲームと関係のない「好きなお菓子Tierランキング」を作ってみたりと、とても良い状態のことを「Tierが高い」「ハイティア」とスラング的に表現することもゲーマーの間では珍しくありません。
ゲームやeスポーツを知っている人同士ならふとした会話で登場することもあるほど汎用性が高く、そのゲームの環境を知るには最適な「Tier」。場面に応じた意味を汲み取れるようになれば、皆さんのeスポーツ知識もひとつ上の「Tier」になった証拠と言えるでしょう。