DX補助金情報Vol.2
DXの補助金について、わかりやすく解説する本連載。第2回は、DX補助金にスポットを当てて、申請から採択、計画の実行、受給、そして報告までの一連の流れを解説します。
DX推進を目指す中小企業にとって、コスト面の大きな後押しになる補助金ですが「補助金の申請はハードルが高そう」「どこから始めればいいのか分からない」、そんな不安を抱える担当者さまも、少なくないでしょう。
複雑に感じる手続きも、ひとつひとつ順を追えば決して難しくはありません。DX補助金の申請ステップだけでなく、必要な準備や採択のポイントもあわせて紹介しているため、DXに関するシステムの導入を考える企業の担当者さまは、ぜひ参考にしてください。
DXの補助金は申請すればすぐに交付されるわけではなく、複数のステップを踏んだのち、受給に至ります。
申請~補助金の採択後までの大まかな流れは、次のとおりです。
【補助金の流れ】
①申請の準備
②公募への申請
③採択の結果通知・交付手続き
④補助対象の事業開始
⑤事業の実績報告
⑥支給額確定・補助金受給
⑦事業の定期報告
補助金の申請前準備から交付手続き、受給後の報告まで、全体の流れについて順を追って詳しく解説します。初めての方でも安心して取り組めるよう、各段階での注意点もあわせて見ていきましょう。
DX補助金を活用する第一歩は、自社に合った補助金を探すことから始まります。経済産業省や地方自治体の公募情報を確認し、事業規模や目的に適合するものを見つけましょう。補助金には応募条件があるため、事前に要件を読み込むことが重要です。
申請する補助金が決まったら、必要書類の準備に着手します。書類の作成には時間がかかるため、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。審査で有利になる加点項目を押さえられると、採択の際に有利です。
申請する補助金が決まったら、公募要領を熟読し、指定された書類一式を準備して提出します。申請書、事業計画書、見積書などが必要ですが、内容が不備なく揃っているかの確認が重要です。
とくに事業計画書は審査の中心となるため、目的・背景・効果を具体的かつわかりやすく記載しましょう。また、補助事業の費用をどのように確保するか、資金計画の現実性もチェックされます。
補助金は事後精算が基本なので、資金調達の見通しを明確に示すことが審査通過のポイントです。
③採択の結果通知・交付手続き
審査を経て採択されると、通知書が届きます。この時点ではまだ補助金は交付されません。正式な交付申請を行う必要があります。交付申請には、見積書など指定された書類の提出が求められます。
ここでの注意点は、事務局の指示に従い、適切な手続きを進めることです。準備を整え、指示されたスケジュール通りに動くことが、スムーズな補助金受給への近道となります。
また、交付決定前に事業を開始してしまうと補助対象外となるため、必ず交付決定後に着手しましょう。
交付決定が下りたら、計画に基づいて補助対象事業を開始します。事業の内容は交付申請時に提出した計画書通りに進める必要があり、勝手な変更は原則認められません。実施期間中の支出のみが補助対象になるため、期間管理にも注意が必要です。
また、補助金は後払い方式のため、自己資金や融資による一時的な立て替えが必須です。資金不足で事業が止まることのないよう、開始前に資金計画を万全に整えておくことが求められます。
DX事業の完了時には、実績報告書の提出が求められます。報告内容は、DXの取り組み状況や経費の内訳、支出証明など、事業成果と使用経費について詳細な報告が必要です。領収書や発注書、請求書などの書類もエビデンスとして必要となるため、事業の過程でしっかりと記録・保管しておきましょう。
また、期間中も定期的な中間報告が求められることがあり、期限内に報告がなかったり書類に不備があったりすると、補助金の交付が中止される恐れもあります。日頃から経費関連書類を整理し、いつでも提出できる状態にしておきましょう。
実績報告が承認されると、補助金の支給額が正式に確定します。その後、請求書を提出し、指定口座への振込を待つ流れです。
支給には通常2週間程度かかることが多いですが、内容に不備があるとさらに時間がかかる場合もあります。補助金の使途や金額が公募要領に沿っているかどうか、厳格な検査があるため、事業開始前から記録を徹底しておくことが重要です。
また、補助金は経営資金ではないため、他の資金との混同を避け、用途を明確にしておきましょう。
補助金を受け取った後も、多くの場合、事業状況の定期的な報告が求められます。定期報告は、補助事業の効果を継続的に測定し、補助金の適正な使途や継続的な成果確認を目的としたものです。報告内容には事業継続状況、計画達成度、システム活用状況、経営指標の変化などが含まれます。
報告の頻度や内容は補助金ごとに異なるため、公募要領に記載された指示に従って報告しましょう。提出が遅れたり不備があると、返金を求められる可能性もあるため注意が必要です。
また、報告用に使用した資料や証憑類は、事業終了後も5年間にわたり関連書類の保管が義務付けられているケースがあります。事後監査の対象となる可能性もあるため、適切に管理しましょう。
DX補助金をスムーズに申請し採択へつなげるためには、事前準備が重要です。申請前に確認しておきたい主な準備は、次のとおりです。
・経済産業省が出している「DXレポート」に目をとおす
・事業の内容に沿った補助金であるか確認する
・期限・申請要件といった公募要領を確認する
・一定以上の自己資金を用意する
やみくもに申請するのではなく、補助金の仕組みや要件、必要な資金の見通しなどを整理しておくことで、成功の確率が高まります。詳しく見ていきましょう。
DX補助金を活用する前に、まずは経済産業省が発行している「DXレポート」に目をとおしましょう。DXレポートは、日本企業のDXの現状や課題、推進すべき方向性が記載されており、DX化推進の基本的考え方を理解するための貴重な資料です。企業がDXを正しく理解し、実効性のある取り組みを行うための指針となります。
補助金が採択されたとしても、根本的なDXの方向性がずれていると事業に支障をきたす恐れがあります。申請前にレポートを確認し、自社のDX戦略が正しいか、補助金の目的と整合性が取れているかを見直しましょう。
DXに関連する補助金があるからといって、無理に申請してはいけません。自社の事業と補助金の目的が一致していないと審査通過は難しいうえ、たとえ採択されてもその後の事業運営が滞る可能性があるためです。
不要な設備投資や計画の無理な変更により、かえって資金繰りが悪化するリスクも考えられます。補助金に過度に依存せず、補助金がなくても取り組める計画を立て、その上で補助金が後押しとなる構成にすることが理想です。
補助金はあくまで事業推進の手段であり目的ではないという認識を持ち、持続可能な計画づくりを心がけましょう。
補助金には、提出期限や申請条件などが細かく定められた「公募要領」があります。公募要領には申請時の注意点、応募手順、期限、要件などが詳細に記載されています。これらを見落とすと申請自体が無効になる可能性があるため、事前確認が必要です。
特に注意すべきは申請の締切と、対象事業者や費用の要件です。申請期限は厳格で、期限後の申請は受け付けられません。記載ミスや条件の見落としがあると不採択の原因になります。申請前には必ず公募要領を読み込み、不明点は事務局に確認するなどして、ミスを未然に防ぎましょう。
DX補助金の活用で見落としがちなのが、十分な自己資金の準備です。補助金は原則として後払いのため、事業開始時に必要な資金は自己調達が必要です。補助対象経費は一時的に事業者が立て替え、その後に実績報告を経て支給される流れとなります。したがって、事前に十分な自己資金を確保しておくことが不可欠です。
また、申請段階でも資金確保の見通しが審査されます。資金調達の見通しがあいまいだと審査で不利になることもあるため、必要経費の見積もりと、資金確保計画を明確に立てておきましょう。
DXの取り組みに活用できる補助金は、国の制度に加え、都道府県や自治体ごとにも多数用意されています。ここでは、全国向けの制度と、代表的な自治体ごとの支援制度を一覧で紹介します。
補助対象や要件など、各制度の詳しい内容については「DX補助金とは?知っておきたい基本とDX関連の補助金・助成金一覧」の記事にて個別に解説していますので、気になる制度があればあわせてご覧ください。
【DX関連補助金】
補助金名 | 概要 |
IT導入補助金 | 業務効率化のためのITツールや機器導入を支援する補助金です。 |
事業再構築補助金 | 新分野進出や業態転換など、大規模な事業変革を支援します。 |
ものづくり補助金 | 生産性向上を目的とした設備投資やサービス開発を支援します。 |
中小企業省力化投資補助 | 省力化・自動化に向けた設備・システム導入を支援する制度です。 |
中小企業デジタル活用支援補助金
(愛知県名古屋市) |
中小企業のデジタル化を支援するため、販路開拓や業務効率化、賃上げなどの経営課題に取り組むDX関連費用の一部を補助しています。 |
堺市中小企業デジタル化促進補助金 (大阪府堺市) |
人手不足やコスト増への対応を図る中小企業を対象に、業務改善や生産性向上を目的としたデジタルツール導入費用の一部を補助しています。 |
〈Check! DX補助金とは?知っておきたい基本とDX関連の補助金・助成金一覧〉
補助金が採択されるには、ただ申請するだけでは不十分です。審査で評価されるポイントを理解し、戦略的な準備が重要となります。
・実現できる事業計画を立てる
・加点項目を意識する
・わかりやすい事業計画書を作る
これら、採択率を高めるために押さえておきたいポイントについて、ご紹介します。
DX補助金の採択は、提出する事業計画の「実現性」に大きく左右されます。数値目標や実施スケジュール、経費の内訳を明確に示し、客観的な根拠を添えて記載しましょう。
補助金の内容によりますが、たとえば「1年以内に業務の80%をデジタル化」「DXツール導入により年間工数を30%削減」といった具体的な成果目標があると、説得力が高まります。
審査員は申請者の事業を詳しく知らないため、市場ニーズが確認でき成功確率が高いと判断できる計画が評価されます。
市場調査データや既存の課題分析も交えることで「このDX事業は成功する」と思わせる、信頼性ある計画を構築しましょう。
DX補助金の申請では、「加点項目」を意識することで採択の可能性を高めることができます。たとえば「DX推進の専門人材の雇用」「セキュリティ認証の取得」「地域のデジタル化支援につながる取り組み」などが加点対象となるケースがあります。
加点対象に該当する場合は、申請時に追加書類の提出が必要になることもあります。そのため、公募要領の詳細な確認が欠かせません。また、減点項目が定められている場合もあるため、事前に審査基準を把握し、リスクを回避する準備も忘れずに行いましょう。
審査では多くの申請書類が一括でチェックされるため、事業計画書は「わかりやすさ」が重要です。審査員は多数の申請書を限られた時間で審査するため、一読で理解できる簡潔な記述が求められます。業界用語は避け、専門的な内容には解説を添え、誰が読んでも理解できるような構成を心がけましょう。
また、グラフや図を使って視覚的に整理することで、より明確に伝えることができます。「現状→課題→解決方法→事業内容・期待される効果」といったストーリーを意識すると、スムーズに読み進められる計画書になります。審査員の立場に立ち、わかりやすさを追求した計画書を作成しましょう。
Xの補助金は、専門家のサポートを受けなければ申請できないというわけではありません。しかし、申請の際には、専門的な知識や丁寧な書類作成が求められる場面も多く、専門家のサポートを受けることで成功率が高まる傾向であるのも事実です。
事業計画書の作成や申請書の不備チェックにおいては、第三者の目が入ることで書類の質の向上が可能です。特に、初めての申請や大規模DX投資検討の際は、専門家の知見が役立つでしょう。
ただし、補助金によっては申請者本人が書類作成を行う必要がある場合もあるため、公募要領を確認のうえ対応しましょう。
また、一部の補助金では口頭審査が実施されることもあります。DXの主な補助金として紹介した「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」では、2024年から口頭審査が追加されました。
口頭審査は、申請者自身が約15分間の面接で事業内容などを説明するものです。事業計画への理解を深め、スムーズに回答できるよう準備しておきましょう。
DX補助金の申請は、単に書類を提出すればとおるものではありません。制度の理解、事業との適合性、資金計画、事業計画書の完成度といった多くの要素が採択を左右します。
本記事では、DX補助金の申請から交付、実行、報告、受給までの全プロセスを具体的に解説しました。特に、申請前の情報収集と準備、加点項目の意識、そして「実現可能なDX戦略の提示」が成功の重要ポイントです。
これからDX補助金を申請したいと考えている方は、本マニュアルを参考に、早めの準備と正確な手続きで、採択のチャンスを掴んでください。