なぜ“30歳で引退”が当たり前に?
年齢がeスポーツのパフォーマンスに及ぼす影響とは

#eスポーツ

先日、アメリカのeスポーツチーム「Faze Clan」の『Counter-Strike』部門でコーチを務める「NEO」氏のインタビューが公開され、その内容の一部がeスポーツ界で大きな反響を呼びました。

 

話題となったのは「eスポーツ選手のパフォーマンスと年齢の関係」について。NEOコーチはFPSタイトルである『Counter-Strike』において年齢の影響が大きくなる要因は反射神経やエイム力ではなく「集中力」であるとの見解を示し、「若い頃は1日に10時間集中して練習するのは簡単だが、年を取ると集中力の維持がするのが難しくなる」と集中力の低下がパフォーマンスに及ぼす影響を述べました。

 

FPSジャンルで活躍するプロ選手やコーチもこれに同意するSNS投稿を行っており、業界では「eスポーツ選手が活躍できる年齢」についての議論も盛んになりつつあります。今回は様々な視点から年齢とパフォーマンスの関係について考えてみます。

 

運動能力や反応速度は20代がピークも、低下は緩やか

 

人間は年齢に応じて低下していく能力がいくつもあり、フィジカルスポーツにおいては運動能力の衰えを理由に競技を引退する選手が多く見られます。それでも1試合に10km以上もの運動量を要求されるサッカーのような競技でも30代後半の選手が活躍している現状を踏まえると、eスポーツで現役としてプレイするために体力や運動能力がハードルとなるのはより高い年齢になってからと考えるのが自然でしょう。

 

しかし冒頭でも紹介したようなFPSジャンルでは20代後半からベテラン選手と捉えられ、30歳を超えて現役で活躍する選手は非常に珍しいと言えるのが現状です。その要因として一般的に挙げられているのが反射神経の低下で、瞬間の判断や操作が勝敗に影響する対戦ゲームではパフォーマンス低下に繋がると考えられています。

 

確かにさまざまな研究によって反射神経、つまり目で見た情報を元に行動を起こすまでの「反応速度」は20歳前後をピークに徐々に低下していくことが明らかになっています。しかしその低下幅は緩やかで、トレーニングによってある程度は維持される能力でもあるとされていることを踏まえると、優れた反応力を持っているeスポーツ選手の全員が30歳前後で引退を余儀なくされるほどにパフォーマンスが低下するとは言い切れないでしょう。

 

視力、特に動体視力についても同様で、こちらも20歳前後がピークでありますが急激に低下するものではなく、特に顕著な衰えが認められるのは60歳付近からとされています。

 

もちろんこうした能力の変化については個人差があるため、中には20代中盤からパフォーマンスに大きな影響を感じるプレイヤーも存在する可能性はあり、傍目には分からない程度の変化でも本人が理想とするパフォーマンスとの乖離を感じれば引退のきっかけとなることも理解できます。しかし、多くの選手が30歳を前に第一線を離れてしまうFPSの世界はやはり特殊な状況と言えるのではないでしょうか。

 

そうした状況を作り出していると考えられる要因が、冒頭でも紹介した集中力の低下です。脳に関する研究によれば、集中力は脳の認知機能や複雑な処理を行う能力が深く関係しているとされ、男性ホルモンの「テストステロン」の分泌量に大きく影響を受けています。ホルモンの分泌量が低下すると集中力だけではなく記憶力や判断力、そしてモチベーションなどの精神面にも影響をきたすようです。

 

 

一般的にテストステロンはやはり20歳ごろをピークに分泌量が低下していくとされており、NEO氏が指摘するように選手がキャリアを重ねるうちに長時間の練習に対して上手く向き合えなくなっていくことに繋がるのでしょう。

 

ここでポイントになるのがフィジカルスポーツとeスポーツの違いです。テストステロンの分泌量は筋力トレーニングやタンパク質の摂取である程度まで増加させられることが分かっており、スポーツ選手は高い分泌量を保ちやすい職業ですが、不規則な生活リズムや運動不足が問題となりやすいeスポーツ選手はその正反対にあると言っても過言ではありません。

 

そうしたテストステロン不足に陥りやすい環境でありながら、eスポーツの練習にはフィジカルスポーツと違って体力的・運動能力的負担が少ないため長時間の練習が可能で、プロともなると1日に10時間以上の練習も当たり前になっているようです。

 

特にFPSは個人戦ではなくチーム戦で競われるタイトルがほとんどのため、30代のプレイヤーはこうした背景から自分の若い頃、あるいは若いチームメイトとのギャップを感じてしまい、比較的早い年齢でチーム活動が難しくなり引退してしまうと考えることもできるのではないでしょうか。

 

他のeスポーツタイトルに目を向けてみると、格闘ゲームでは若年層プレイヤーの台頭も盛んではありながら、“ウメハラ”こと梅原大吾選手をはじめ40歳前後のプロ選手が数多くトップで活躍しており、パズルゲームやスポーツゲームもベテランプレイヤーの存在感が強いと言えます。

 

これらのジャンルも決して反応速度や動体視力が求められない競技ではありませんが、個人戦が基本のため無理のない範囲での活動が可能なことが長期に渡る活躍に繋がっているのかも知れません。

 

また、eスポーツ以外の分野では将棋や麻雀などの競技では高齢で活躍するプロ選手も多い事情を考えると、じっくりと考えられる時間が担保されている状況では年齢による集中力や思考力の低下は大きな壁にはなっていないと考えられます。

 

また、将棋などのマインドスポーツは真新しいタイトルが次々リリースされるeスポーツに比べてベースとなるゲーム性が確立されており、キャリアを経験として生かしやすいこともベテラン選手が活躍しやすい要因のひとつと言えるかもしれません。

 

 

一方、eスポーツで扱われるタイトルはジャンル内で競合するタイトルとの差別化を図るため多数の要素を盛り込んだ複雑なゲームが増えており、ユーザーを飽きさせないようコンテンツ追加などのアップデートも頻繁に行われるケースが多くなっています。

 

変化が激しくなるほど練習時間も求められるようになると考えると、年齢を重ねたプレイヤーが10代から20代前半の選手が中心のシーンで活躍していくことの大変さは増しているとも言えるでしょう。

 

こうして様々な要因を検討してみると、eスポーツにおいては20代前後がトップパフォーマンスを出しやすい年齢であることは間違いないと思われますが、決してベテランのプレイヤーに活躍の余地がない訳ではありません。

 

NEO氏もインタビューにおいて「経験豊富な選手は代わりを見つけるのが難しい」「経験豊富な選手と若い選手をミックスさせるべき」とチーム編成についての持論を述べており、選手の移り変わりが激しいFPSジャンルにおいても経験値は代替しがたいものであることが分かります。

 

ベテランプレイヤーは選手を引退してコーチなど指導者の道を選ぶケースが増えていますが、年齢によってどのような行動が難しくなり、どのような点はまだまだ通用するのかをはっきり認識することで、プロスポーツにおける「スーパーサブ」のような活躍の道を探ることもできるのではないでしょうか。

 

その人に適したスタイルで現役を長く続けられるようになることが、eスポーツにおける「選手寿命の短さ」という課題の解決に繋がっていくかもしれません。

 

掲載日:2024年11月12日

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