高い技術を持ったプロ選手の活躍で賑わうeスポーツシーン。そんな選手たちが活動する場となるのがプロeスポーツチームであり、そのチームを運営面から支えているのがオーナーという立場です。
オーナーと聞くと企業などの団体、あるいはそのトップとなる人物のことが連想されるかもしれませんが、eスポーツチームは野球やサッカーなどのフィジカルスポーツチームに比べると選手やスタッフの数が少ないこともあり、個人オーナーによって設立・運営されることもあるのが大きな特徴です。
そんな個人オーナー事情にも少しずつ変化が起こっており、これまではプロスポーツ選手が参画する例が多く見られたものの、近年はゲーム配信で活躍するストリーマーがeスポーツチームを持つケースも見られるようになっています。オーナーの発信力・影響力が大きな影響を持つeスポーツ界ならではの事情をチェックしてみましょう。
著名人によるプロeスポーツチームへの出資は特に海外で早くから始まっており、2018年にはサッカードイツ代表として活躍したメスト・エジル氏が「M10 Esports」を設立。エジル氏自身がゲーム好きでかなりの腕前の持ち主であることも話題を呼びました。
その後も2022年には陸上競技の短距離走で活躍したウサイン・ボルト氏がアイルランドに拠点を置くチーム「WYLDE」の共同オーナーに就任するなど、スポーツ界からeスポーツ界へ出資や共同オーナー化によって参入する例は増えています。
特にeスポーツへの参画が盛んと言えるのがサッカー界で、現役選手からOBまで多数の著名人が参入。元アルゼンチン代表のセルヒオ・アグエロ氏が設立し、リオネル・メッシ選手が共同経営者として参加している「KRÜ Esports」や、ジェラール・ピケ選手がオーナーを務める「KOI」が複数のタイトルで好成績を収めており、話題性だけでなく実力でもeスポーツシーンを盛り上げています。
これだけ数多くの著名人の参入が相次いでいる背景には、近年特にeスポーツ分野が成長性の高い業界として注目を集め、投資先として評価されていることが理由として考えられます。もちろんビジネスとしての側面に加え、エジル氏のように自身がゲームをプレイしていてeスポーツにも関心が高い選手であることも理由のひとつでしょう。
海外ではプロスポーツ選手がオフシーズンなどにゲーム配信をすることも珍しくなく、ゲームという文化が幅広い層に浸透していることで生まれた繋がりと言えるのかもしれません。
スポーツ選手など著名人がオーナーを務めるチームは知名度を上げやすく、ファン獲得の第一歩となったりスポンサーが集まりやすくなったりと、チームにさまざまな恩恵があると考えられます。そうしたケースの発展形と言えるのが、「ゲーム配信者が運営するeスポーツチーム」の存在です。
日本での先駆け的存在となっているのはFPSタイトルの『Call of Duty』シリーズで人気を博した配信者である「ボドカ」氏による「RIDDLE ORDER」で、自身が立ち上げたコミュニティチームを発展させる形でPCメーカーとのスポンサー契約を締結し2020年にプロ化。現在も複数のタイトルで活躍を続け、2024年にはついに『VALORANT』の国内プロシーンでチャンピオンに輝いています。
その後も海外では配信プラットフォーム「Twitch」のフォロワー280万人を誇るカナダの人気ストリーマー「Disguised Toast」氏がチーム「Disguised」を設立し、人気FPS『VALORANT』などのタイトルへと参入。国内でもゲーム実況で人気を集める「加藤純一」氏による「MURASH GAMING」が発足するなど、トップストリーマーがチーム運営を行うケースが見られるようになっています。
もちろんeスポーツの試合においては選手の力量がすべてであり、チームの運営母体がどんな組織・個人であるかというのは対戦面には影響を及ぼしません。ただ、ストリーマーがオーナーとなることで自チームの選手と一緒に配信をしたり、チームの試合を観戦する配信を行ったりと、活動する上でコンテンツになることも考えられ、スポーツ選手以上に個人オーナーを務めることの相乗効果が期待できるのではないでしょうか。
特にファン獲得の観点での効果は大きく、eスポーツ選手は一部のトップ選手や発信力の高い選手は自力でファンを獲得できることもありますが、実力ある選手であってもそれこそ同じゲームをプレイしているストリーマーに比べて知名度が上がらないことも珍しくありません。
最近は人気ストリーマーにチームを応援しながら試合を観戦してもらうウォッチパーティやパブリックビューイングなどを実施してストリーマー越しにファン獲得を狙うという施策も見られますが、ストリーマーがオーナーを務めるチームなら、ストリーマーのファンがそのままチームのファンになってくれる可能性も十分に考えられるでしょう。
こうした「配信者チームならでは」のメリットはいくつか考えられますが、それなら今後どんどんストリーマーのチームが増えるかと聞かれれば、そうとも言い切れません。冒頭でも紹介したようにeスポーツチームは比較的少人数で成立するため参入障壁は低くなっているものの、それでもチームの活動拠点を準備して人数分の給料を支払うとなると個人にとっては相当な負担となるはずです。
現在オーナーとして活躍している配信者がそうであるように、チームを運営していけるだけの収入やスポンサーからのバックアップが見込める、極々一握りのトップストリーマーでなければ難しい事例と言えるでしょう。
ただ、こうした成功例が存在することでゲームやeスポーツに関連性のある著名人にとっては新たなチャンスとして認識される可能性もあり、今後さらに個人でのeスポーツシーン参入という事例は広がりを見せていくのかもしれません。
掲載日:2024年8月13日