全員“助っ人”のチームも実現可能?

eスポーツの「外国人枠」とチーム・選手の国籍事情を考える

#eスポーツ

スポーツの世界ではよく「助っ人外国人」という言葉が使われますが、日本のプロ野球やJリーグの歴史を振り返ってみると、高い実力を持った外国籍選手の活躍が日本の競技レベルの引き上げの一助となってきたことは疑う余地もないでしょう。

 

ゲーム対戦競技であるeスポーツの世界における外国籍選手ついては、こちらもやはり外国籍選手が日本国内の競技シーンで活躍する例が目立ちます。しかし発展途上のeスポーツ界では外国籍選手を巡る制度には特殊な事情も多く、まだまだ変革の余地を残しているとも考えられます。

 

 

今回は、オンラインで世界中のプレイヤーと繋がっているeスポーツならではの“国”事情について考えます。

 

海外選手の活躍がシーンのレベルアップに繋がる

 

現在、日本で親しまれているeスポーツタイトルの中で、最も外国籍選手の活躍が目立つタイトルのひとつが『League of  Legends(LoL)』です。同タイトルの公式リーグではスタメン5人のうち2人まで外国籍を持つ選手を起用可能なルールになっており、日本に限らず北米やヨーロッパでも地元選手3人&外国籍選手2人の構成となっているチームが非常に多く見られます。

 

このような「外国人枠」の人数制限はスポーツでもよく見られる制度ですが、『LoL』公式リーグでは更に一定の要件を満たすことで、その地域の「居住者」として認定される制度があり、認定された選手は外国籍として扱われなくなります。今ではこの制度を活用して国外出身の選手がチームの過半数となる3人出場しているチームもあり、理論上は5人全員を日本出身ではないプレイヤーで揃えることも可能になっています。

 

ここでは『LoL』の例を紹介しましたが、他にも国際的に人気のあるeスポーツタイトルではさまざまな国から日本シーンへ参加する選手が増えつつあります。ハイレベルな技術や経験を持つ外国籍選手が加入すれば、そのチームの戦力アップに繋がることはもちろん、リーグ全体で見ても競技レベルの向上に繋がるため、選手たちの成長にも大きな効果があると考えられます。

 

しかし、その人数があまりにも多くなると国内出身選手の出場機会を奪ってしまう可能性もあり、単純にメリットしかないとは言い切れません。ファンにとっても地元出身の選手が少ないよりは多い方が感情移入しやすいはずで、シーン全体のことを考慮すると外国籍選手の数は「ほどほど」であることが望ましいのではないでしょうか。

 

ここでスポーツの例を見てみると、ラグビーの国内リーグでは、外国籍選手を「日本での居住期間」「他国での代表歴の有無」などの3カテゴリに分けて、それぞれで異なる規定を設けています。

 

 

他にもプロ野球では日本の教育機関からドラフト会議を経てプロ入りすれば、日本人選手と同じ扱いになる仕組みがあり、Jリーグでは東南アジア諸国のサッカー発展のため、パートナーシップを締結した国の選手は外国人枠にカウントしない「提携国枠」など、それぞれの競技のシステムや事情に応じた制度が組まれています。

 

日本チームが欧州リーグに参戦。その逆のパターンも

 

eスポーツは選手だけでなくチーム単位でも国籍に柔軟な面があります。

 

例えばFPSタイトル『VALORANT』で日本チームとしてアジア圏のリーグに参加している「ZETA DIVISION」と、イギリスチームとして欧州リーグに参加している「FNATIC」というチームがありますが、実はバトルロイヤルタイトル『Apex Legends』のプロリーグにおいては参加するリーグが逆になっている時がありました。

 

『Apex Legends』の「ZETA DIVISION」はロシア・ベラルーシ籍の選手が在籍しており、ヨーロッパリーグに参戦。逆にイギリスの名門「FNATIC」は日本人3名でチームを構成しアジアリーグに参戦と、どちらも所属選手の国籍に基づいた地域での出場となったことでこのような逆転現象が起こりました。

 

もちろん参加チームの規定を満たしての参加なのでルール的には問題がなく、少人数ならチームの運営企業が拠点を置く地域でなくても選手のマネジメントが可能であることから、グローバルな展開を行うチームも増えつつあります。

 

1チーム当たりの人数も、強豪国も、そして国内シーンの環境もタイトルによって異なるeスポーツ。それぞれの事情に合わせた臨機応変な国籍事情にも注目してみてはいかがでしょうか。

 

初見の方からすれば「どこの国のチームなの?」と混乱を招く要素ではあるものの、レベルの高い地域の選手を獲得したいと考えて国外地域にチャレンジするチームもあり、国際的にファンを増やしていくためのブランディングの一環としても有効です。国際展開のハードルが低いのもeスポーツならではと言えるかもしれません。

 

ただ、これまで紹介したように海外からの選手単体やチームでの積極的な参加が目立つ日本eスポーツ界ですが、逆に日本出身の選手が海外へと挑戦するケースはまだあまり多くありません。その大きな要因のひとつが言語面の問題であり、実力的には十分であっても連携が重要なチームゲームでは個人でよりレベルの高い海外リーグへの挑戦は難しい状況で、日本人としてFPS『Overwatch』の世界トップリーグ出場を果たしたta1yo選手は英語が堪能であることで挑戦が実現したとも言われています。

 

ただ、同タイトルでは有力選手の大多数がPCゲームの盛んな韓国出身のプレイヤーであり、リーグの中には韓国籍選手のみで構成されているチームも存在しています。

昨今の日本eスポーツシーンの成長には、日本と地理的に近い韓国シーンの影響を大きく受けているとの分析もあります。通信のラグも小さいため、韓国の強豪チームとオンライン練習がしやすかったり、また、北米など他地域に比べて実力のある韓国人選手を助っ人として招聘しやすかったりと、世界有数のeスポーツ大国が隣にあることのメリットは非常に大きいと考えられます。

 

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