速度と正確性が“キー”になる

新たなeスポーツのひとつ「競技タイピング」に注目集まる

#eスポーツ

FPSやMOBA、格闘ゲームなど、多彩なジャンルで腕前が競われるeスポーツの世界。中には将棋のようなボードゲームをデジタル化したタイトルもあれば、競技プログラミングでの真剣勝負も存在します。

 

一般的にはゲーム対戦として認知が広まっている「eスポーツ」ですが、元々は電子機器を用いた競技や娯楽を意味する「エレクトロニック・スポーツ」の略であり、ゲームに限らず色々なジャンルが含まれる言葉です。

 

ゲーム対戦以外にも様々な大会が行われている中から、今回は身近でありながらあまり知られていない変わり種とも言えるeスポーツ「競技タイピング」について紹介いたします。

 

 

タイピングの中にも戦略性や駆け引きが

 

コンピューターにキーボードで文字を入力するタイピング。人によってその速度には違いがあり、タイピングゲームで練習した経験がある方も多いのではないでしょうか。

 

競技におけるタイピングも、基本的には私たちが普段行うものと操作自体は変わりませんが、競技に適した専用のソフトを用いて行われるのが特徴です。指定された数の単語・文章をどれだけ素早く入力できるか、だけでなく不要なキーを押さない「正確性」が重視されるルールも一般的で、どれだけ早く入力を完了させても正確性が95%以下だと失格になるレギュレーションも存在しています。

 

なかでも興味深いのは、既定の文字数を短時間で入力するためには指を素早く動かすのはもちろんのこと、入力順にも攻略法があるというポイント。例えば「つ」は「TSU」で入力するよりも「TU」で済ませる方がタッチ数も少なく、他にも「ちょっと」は「CHOTTO」でも入力可能ですが、それよりも「TYOTTO」なら左での人差し指を「T」キーに置いたまま入力できるのでミスをする可能性がグッと減るのです。

 

こうした日本語ならではの特徴はもうひとつあり、それが「ローマ字入力」と「かな入力」の違いです。同じ文章を入力するスピードを比較するなら、1回のタッチでひらがな1文字が入力できる「かな入力」が優位ではあるのですが、総タッチ数が少ないので1回のミスタッチが大きく正確性に響きます。

 

また「ローマ字入力」では、よく使用するキーは限られますが、対して「かな入力」は殆ど全てのキーを使うため指を動かす範囲がグッと広がるので習得難易度も高くなっています。完璧なパフォーマンスができれば「かな入力」の方が理論上は優位ではありますが、現実的な使いやすさを考えると競技タイピングでも「ローマ字入力」を選択する人が多数を占めています。

また、大会では1対1での対戦形式が採用されることも多く、駆け引きの要素が生まれます。相手にリードされている場合は多少ミスが増えるリスクを冒してでもスピードを優先し、相手の正確性が規定値を下回っている場合は正確性を重視して優位を確保するなど、常に相手のスコアも確認しながらのタイピングが求められるのです。

 

正確かつ素早い操作が要求され、よりスコアを高めるためには知識と戦略性も重要です。対戦では相手に応じた駆け引きも楽しめるとあれば、「競技タイピング」がeスポーツの種目のひとつと呼ばれるのも納得です。

 

 

国内シーンでは女性が活躍中

 

競技タイピングは大規模な大会も開かれており、2023年3月には東プレ株式会社のキーボードブランド「REALFORCE」が主催するタイピングの日本一決定戦「REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP」が行われました。

 

オンライン予選を勝ち抜いた選手による本戦には、国内のトッププレイヤーが集結し、トーナメント形式で頂点の座が争われました。1秒あたり15キー以上もの入力が行われるハイレベルな戦いを制したのは「miri」選手。実はmiri選手は過去3度、同大会で優勝を果たしており「絶対女王」の異名を取る女性プレイヤーで、大会ではmiri選手以外にも女性プレイヤーが本選に進出しており、男女差なく競い合える環境であることが示される結果となりました。

 

ゲーム対戦は子供から大人まで広く楽しめることもあり「eスポーツには年齢や性別が関係ない」と表現されることもありますが、ゲームにおいては競技レベルになるとプレイ人口の偏りもあり、出場選手はほぼ100%が若年層の男性と言える状況です。これだけ女性プレイヤーが活躍している競技タイピングにこそ「誰でも競い合える」という言葉は相応しいのかも知れません。

 

近年はスマートフォンが広く普及していることもあってタッチ操作のスワイプ入力も一般的になりつつありますが、やはりPCを用いた作業や仕事では、タイピングは欠かせない技能であり、競技レベルまで行かずとも習得することで普段の生活にも恩恵があるのも魅力です。

 

タイピングと言えば左右の人差し指を「F」と「J」に置く「ホームポジション」も知られていますが、競技ではポジションにはこだわらない自由なスタイルのプレイヤーも多く、個人の感性が重視されるのも面白い点と言えるでしょう。

 

何よりトッププレイヤーのタイピングは一文だけでもその凄さが伝わる異次元のスピードがあり、シンプルで分かりやすい観戦の楽しさを備えています。以前から競技シーンは展開されていたところに近年のeスポーツ人気を受けてさらに注目を集めつつある競技タイピング。PCゲームユーザーも増加傾向にある日本で、今後伸びてくるジャンルのひとつかも知れません。

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