高校支援からeスポーツを「文化としての定着」へ

パートナーズ制度をスタートした横須賀市観光課のeスポーツへの取り組みに迫る

#eスポーツ

若年層への人気や高齢者のフレイル*1予防効果などを目的として、ゲームが幅広い年代に親しまれることから、自治体が取り入れるケースも増えているeスポーツ。そんな中でも、高校eスポーツ部の立ち上げを支援するなど地域に根差した取り組みを継続しているのが神奈川県の横須賀市です。

 

2019年に「Yokosuka e-Sports Project」としてeスポーツ部設立支援や大会の開催など地域におけるeスポーツ振興に注力を開始。2023年5月には新たに産学民官連携を推進する「Yokosuka e-Sports Partners制度」を発表し、次なるステップへと進み始めています。

 

今回は横須賀市文化スポーツ観光部観光課からeスポーツ分野を担当している小山田さん、関山さんのおふたりにインタビューでお話を伺いました。

*1フレイル:年齢に伴って筋力や心身の活力が低下した病態

 

──ます簡単に自己紹介をお願いします。

 

小山田 横須賀市観光課の小山田です。webデザイナーとして横須賀市役所とサブカルチャーとのコラボ施策を行ってきまして、4年前からは職員として従事しています。私はeスポーツだけでなくゲームやアニメも大好きで、自分自身がゲームなどを通じて仕事に通じるスキルが上がった実感があり、eスポーツをキーワードにデジタル教育などを支えられる土壌があればと、横須賀市のeスポーツ施策を進めています。

 

関山 観光課の関山と申します。私は小山田が施策を進めて行く中で合流した形で、私自身はゲームをたまにやる程度でしたが、この4年ほどの取り組みの中でeスポーツの可能性を強く感じています。

 

──横須賀市のeスポーツに関する取り組みについて、教えてください。

 

関山 eスポーツプロジェクトは単にeスポーツのイベントをやるのではなく「文化としての定着や地域コミュニティの活性化」を目指し、4つの柱で進めています。

 

1つ目が関係者や企業の方にご登壇いただいてeスポーツに関する理解を深めるためのセミナー。2つ目はNTTグループさんと協力して進めているICT教育施設で、学童は常に定員に近い形で参加いただいています。

 

3つ目が取り組みのスタート時から大きな柱になっている高校支援で、PCの無料貸し出しやネットワークの敷設支援、指導プログラム支援によってeスポーツ部の活動をサポートしています。現在は市内の14校中10校でeスポーツ部が活動しています。4つ目が高校生を対象としたeスポーツ大会「YOKOSUKA e-Sports CUP」の実施で、2020年から徐々に参加者数も増えて大きく成長しています。

 

 

──市内殆どの高校にeスポーツ部がある状況は他に例を見ない状況ですね。

 

関山 高校だけではなくプロeスポーツチームの誘致も行っています。遊休施設となっていた上下水道局の旧待機用宿舎をリフォームした施設にプロeスポーツチーム「BC SWELL」さんが入居し、地元の方との交流会や移住例としてのメディア露出などで地域貢献をしてくれています。

 

──こうしたeスポーツに積極的な姿勢はどのような背景でスタートしたのでしょうか?

 

関山 元々はサブカルチャーを活用した観光事業に取り組む中でPCメーカーさんなど関連企業様とのお付き合いが生まれたことがきっかけです。他の企業様にも多数賛同いただいて、ここまでの活動が実現しました。取り組む理由はいくつかありますが、子供の可能性を広げることが大きな目的です。

 

小山田 扱うゲームタイトルをPCゲームに限っているのも子供の将来の選択肢を広げる目的と繋がっています。PCならゲームに限らずプログラミングや動画編集、3Dモデリングなどの付属した知識を得られますし、取り組み開始当時はまだまだコンシューマ機でのゲーム文化が根強い日本でゲーミングPCを広めたいというメーカーさんとも目的が一致しました。

 

──2019年から取り組まれているということで、これだけ長期に渡って取り組みを続けている自治体も珍しいと思います。

 

関山 2人体制では限界もあってアプローチできていない領域もあるのが今後の課題ですが、eスポーツに前向きに取り組んでいる自治体としてメディアに取り上げていただくことも増えています。eスポーツの導入期として新しいフェーズに入ったように感じていますし、将来的にはeスポーツの聖地として横須賀市をアピールしていきたいと思います。

 

 

──「文化としての定着」を目標に掲げているのはどのような理由からでしょうか。

 

小山田 イベントによる集客はドサッと来てドサッと帰ってしまう、一過性の盛り上がりですよね。私もゲームショウなどのイベントに行くのは好きですが、その開催地が好きになるかと言えばそうではありません。当市には良くも悪くもそういったイベント会場はありませんが、eスポーツで「横須賀市出身の強い選手がいる」となれば、地元で応援する土壌が出来るだろうと思います。ゲームよりはスポーツビジネスに近い形で、今は高校生がメインですが中学校・小学校にも広げていくことが「文化としての定着」に繋がると考えています。

 

──2023年5月には新たに市内外の事業者や教育機関などの民間団体との連携を強化していく「Yokosuka e-Sports Partners制度」を発表されました。

 

小山田 パートナーズ制度を発表してから、有難いことに沢山の反響を頂いています。この「Yokosuka e-Sports Partners制度」は市内外の事業者や教育機関などの民間団体のほか、プロeスポーツチームと連携して、新しい価値の創出や革新的なアイデアを生み出すコミュニティ形成を目指しています。今後も横須賀市で「こういうことをやりたい、こういう使命があってこんなことを提供できる」とビジョンをお持ちの方に興味を持っていただけたら、熱意を持っている方と上手くマッチングして良い事業になって行くのではないかと思います。「eスポーツ分野でこういうサービスや取り組みの提供がしたい」という具体的な目的をお持ちの企業・団体様に是非お声がけいただきたいと思っています。

 

──ここまでの活動を振り返っての手応え、あるいは感じている課題などがあれば教えてください。

 

小山田 高校向けの施策で手一杯になっていて、他のターゲットに向けて観光課が本腰を入れて取り組んでいくのは不可能なのが現状です。例えば高齢者向けeスポーツなども理解を深めるためには必要ですし、他の部署でもeスポーツを活用してくのが理想ではあるのですが、やはりゲームのことが分からないとハードルが高いので、なかなか広がりが持てていないのが課題ですね。

 

関山 取り組みを続けてきて学校の先生を含めてマインドの変化はすごく手応えとして感じています。eスポーツについて勉強する先生が増えたり、eスポーツを通じてリーダーシップを発揮する生徒の姿が見られたりするのは嬉しいですね。eスポーツがきっかけとなる良いストーリーだと感じます。

 

小山田 eスポーツの大会運営や配信映像のスイッチングなど、現場を見学する機会も増やしていきたいですね。ゲームが好きなら付随する仕事にも興味があるのではと思いますし、派生した領域にも興味を持ってもらうため、機会を提供したいです。

 

関山 コロナ禍では体育祭の代わりにeスポーツで、という取り組みを行っていた学校もありますが、そうした機会が一部の生徒にとっては輝けるアピールの場になることもあるんです。話を聞いていると学校内でも配信の上手い生徒が認知されるようになっている例などもあるようです。

 

──学校現場でeスポーツが浸透している証拠ですね。一方で、人気になるゲームには銃撃戦をモチーフとする作品が多く、自治体で扱うことについては難しさを感じることも多いのではないでしょうか。

 

小山田 どんなゲームを扱うかについては事前に伺いを立てていますが、説明の際には「お金をかけて見てもらえないゲームのイベントをやっても仕方がない」と伝えています。少しでもプロモーションにならないと、それこそ税金をかける意味がないですから。これまで他のサブカルチャー分野でのコラボにおける実績も判断材料にはなったのかなと思います。

 

関山 庁内の全員がeスポーツについて理解している訳ではないですが、数字として「人気がある」とは認知していると思います。eスポーツとは何ぞや、という話になるとスポーツという言葉を使うことに抵抗がある方など、様々な考え方があると思いますが、徐々に企業版ふるさと納税を頂けるケースも増えてきたり、ブランドイメージの構築に良い影響もあり、早い段階から取り組めていてよかったと感じます。

 

小山田 そうですね。例えば複数人でプレイするタイトルなら、ゲームで遊んでいるだけに見えてもチームビルディングのプロセスが経験できて、子供の成長に繋がります。どんなゲームであれ、プラスの魅せ方をして説得していくよう心がけています。

 

──そういった理解も含めて、今後さらに「文化としての定着」を目指すうえで何が必要になると考えていますか。

 

小山田 いまは大手企業さんの協賛があって大会運営などを行っていますが、今後は地元の小さい事業者さんとの協力であったり、市内の商店街のモニターで大会が流れていたり、地元の人が高校生を応援していくような土壌づくりを進めて行きたいです。

 

最終的なゴールは皆がeスポーツを理解して応援していくことで、市外の企業さんが横須賀市にビジネスチャンスを感じてもらい、事業化していけるのが理想ですね。そのためにもまずは地元の事業者の取り込みを進めて行きたいです。

 

関山 おらが町の、という言葉もあるように地元から活躍するプロ選手が出てくれば良いですね。「彼は横須賀市の何中学校卒業だよ」と言われるように。そのためにも全体的な底上げは必要になってくると思います。

 

小山田 横須賀市にはプロサッカーチーム「横浜F・マリノス」の練習場が久里浜にあるのですが、eスポーツチームもそうしたホームタウンの考え方が広まって行けば観光振興やプロモーションに繋がっていくでしょう。

 

──結果が全てではありませんが、大会で横須賀市の学校が成果を残す例が増えてくると追い風になりそうですね。

 

小山田 そうですね。強化支援としては高校にPCを配備するだけではなく、市内の優秀な生徒を選抜して自宅のPC環境の整備やコーチングを受けられる「スカラーシップ制度」の構築に向けた準備も進めています。

 

関山 トップ選手が技術を学んで母校に持ち帰り、部員に還元する流れが出来てくると良いですね。今は学校内のPC台数よりも部員が増えると練習時間が確保できない問題もあり、実際にプレイしていない時間に座学に取り組める環境も必要になってきています。

 

学校で一生懸命練習しても、自宅に練習環境がないケースも多いですね。これは個人的な感想ですが、eスポーツでもスポーツと同様に強くなっていくためには相応にコストがかかる、という感覚はまだ浸透していないのかも知れません。

 

──レベルの高い高校や環境の充実している高校が増えると、eスポーツのために横須賀市の高校へ進学したいという中学生も増えてくるでしょうね。

 

関山 実は既に増えているらしいです。やはり中学生にも一生懸命eスポーツに取り組んでいる学校の努力は伝わっているようですから、更に活発になってくると嬉しいですね。

 

──今後の更なる発展にも注目していきたいと思います。

 

小山田 既に第4回「YOKOSUKA e-Sports CUP」の開催も決まっています。

 

 

横須賀市以外からも参加できるので沢山の方に出場していただきたいですし、協賛団体も募集しています。国内で『VALORANT』の大会は貴重になってきていますので、eスポーツに興味のある方には上手くご活用いただきたいです。

 

──ありがとうございました!

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