世界でプレイされるeスポーツタイトルへ

海外展開に注力する日本産ゲーム

#eスポーツ

「巣ごもり需要」の影響は幅広い分野に及んでおり、インドア娯楽の代表格であるビデオゲームも例外ではありません。「ファミ通」の調査によれば日本の家庭用ゲーム市場は2年連続で3,600億円台の市場規模を記録しており、コロナ以前よりも高い水準で推移しています。

 

同じくファミ通調べによる「パッケージ版ゲームソフト販売ランキング」を見ると、上位にはRPGやパーティーゲームなど家庭用ゲーム機でカジュアルに楽しめるタイトルが並んでおり、日本ゲーム市場の中心となっていることが分かります。加えてゲーム対戦競技「eスポーツ」が人気になりつつある近年は対戦ゲームも注目を集めており、PC向け市場も少しずつ拡大しつつあるのが現在の日本ゲーム市場の流れと言えるでしょう

 

一方で海外では、家庭用ゲーム機よりもPCゲーム文化が根付いている国も多く、eスポーツの浸透が早かったこともあり、対戦ゲームが主流ジャンルのひとつとされています。近年eスポーツとして人気を獲得しているタイトルに海外生まれのものが多くなっているのも、こうした事情が影響していると考えられます。

 

こうしたeスポーツタイトルを取り巻く環境の中でも、世界的に親しまれている日本生まれの対戦ゲームは存在します。格闘ゲーム『ストリートファイター』シリーズなどがその代表と言えるでしょう。しかし、昨今日本でも海外を視野に入れた展開を行うタイトルが増えています。

 

今回は、海外展開を目指す日本産ゲームの取り組みについて紹介します。

 

 

アジアで人気拡大を目指す『ぷよぷよ』

 

セガが開発しているパズルゲームシリーズ『ぷよぷよ』はeスポーツに力を入れています。すでにリリースされている『ぷよぷよeスポーツ』は、『ぷよぷよ』のソロプレイモードを簡略化して練習・対戦機能に特化したタイトルです。国内の競技シーンではプロライセンス制度を導入した公式大会をいち早く開催しており、2022年度で5シーズン目と歴史を順調に積み重ねています。都道府県対抗eスポーツ選手権のタイトルとしても定着し、プロ選手の活動の場は広がっているゲームです。

 

また、『ぷよぷよ』は海外でも歴史あるパズルゲームとして知名度は高く、中には精力的に取り組んでいる海外ユーザーも存在します。過去にはアメリカで毎年開催される世界的な格闘ゲームの祭典「EVO」の会場にて有志によって行われるサイドトーナメントの種目に『ぷよぷよテトリス』が採用され、遠征で参加した日本のプロ選手が優勝を果たしました。

 

こうした有志による海外交流に加えて、公式でも海外向けの取り組みが行われており、前述の『ぷよぷよeスポーツ』は中国語版と韓国語版が発売されるなど、特にアジア圏のプレイヤーが参加しやすい環境が整えられています。2022年7月の公式大会は韓国と台湾のプレイヤーによる現地に向けたミラー配信(※)も行われました。日本から物理的な距離も近くオンラインでの対戦も行いやすい地域から、更に競技シーンやファン層を拡大していく可能性も見込まれているのではないでしょうか。

 

※ある配信の映像を別のチャンネルで同時に放映すること。近年は配信者などが大会を観戦しながらコメントする副音声的な配信方法として注目を集めている。

 

 

野球・ソフトボール振興を担う『パワプロ』

 

『パワプロ』の愛称で親しまれている『eBASEBALL パワフルプロ野球』を開発するコナミが、2022年7月に世界野球ソフトボール連盟(WBSC)と「eスポーツに関するパートナーシップ契約」の締結を発表しました。あわせて日本語と英語に対応した新規タイトル『WBSC eBASEBALLパワフルプロ野球(仮題)』の発売も予告されており、明確に海外を視野に入れた展開を打ち出しています。

 

『パワプロ』の大きな魅力と言えば日本のプロ野球チームに在籍する選手が実名で登場している点ですが、そのためターゲット層が完全に国内に限定されているという側面もあります。過去にはアメリカのメジャーリーグをモデルとする『パワメジャ』という作品が発売されたこともありますが、国際的にプレイされることも目指す新タイトルではどのようなチーム編成ができるゲームになるのか、注目が集まります。

 

 

今回のパートナーシップ締結は、まだ海外では知名度の高くない日本産ゲームが海外ユーザーの潜在的な関心層へとリーチしていく上で大きな力になると予想されます。WBSCとしてもこのパートナーシップを契機に野球・ソフトボール人口の拡大を目指すというコメントを発表しており、若年層に注目されているeスポーツのアピール力に期待を寄せています。

 

海外から国内への好影響にも期待

 

今回ご紹介した『ぷよぷよ』と『パワプロ』はどちらもゲームとしての歴史が長く、日本国内での知名度は十分ですが、それでも海外で大きなブームを生むことができるかは未知数です。日本へ入ってくる海外タイトルの場合もそれは同じで、既に類似するゲームが市民権を得ていたりプレイ人口が十分に確保されないことで対戦の醍醐味が味わえなかったりすると、海外では大きな人気があるタイトルでも、国内ではユーザーをあまり獲得できないケースも散見されます。

 

それでもこれらの作品に期待したい理由のひとつが『ぷよぷよ』と『パワプロ』には言語を問わない「分かりやすさ」があるからです。「画面の上から落ちてくるものを組み合わせて消す」というパズルゲームは「落ち物」と呼ばれるジャンルとして確立しており、『テトリス』に代表されるように海外でも馴染みのある人は少なくありません。視覚的にも対戦ルールや状況が明瞭になる工夫も凝らされており、言語の壁を超えやすい作品と言えるのではないでしょうか。

 

同様に『パワプロ』は野球を題材としたゲームであり、既に野球・ソフトボールが普及している地域ではスムーズに受け入れられる可能性が高いと考えられます。最終的には日本国内のように「野球という競技を知るきっかけとなるゲーム」という役割を海外でも期待されているはずですが、まずは野球ファン層に対してのアピールが重要になるのではないでしょうか。

 

eスポーツタイトルの規模はゲームのプレイ人口や視聴者数によって大きく左右される面があり、国際的なタイトルともなればスポンサーとなってくれる企業や団体の幅が大きく広がることも考慮すると、海外ユーザーの増加は同数の国内ユーザー増加よりも大きな影響力を持っていると考えられます。

 

世界中で多数の対戦ゲームがリリースされている昨今、新たな環境で人気タイトルの座を狙うのは決して容易なことではありませんが、明確にターゲットを絞って国際展開を行っている2タイトルや、こうした流れを追うタイトルの動向を期待して見守りたいと思います。

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