ゲーマーの選択肢に資格の活用を

資格の学校TACが忍ism Gamingと「シカチャレ」に取り組む狙いとは

#eスポーツ

競技シーンの最前線で戦うプロeスポーツ選手が、日商簿記や行政書士といった資格の取得にチャレンジする。そんな新たな取り組み「シカチャレ」が2022年11月にスタートしました。

 

本取り組みを実施するのはプロeスポーツチーム「忍ism Gaming」を運営する株式会社忍ismと、資格取得に向けた教育サービスを展開しているTAC株式会社。2022年10月のスポンサー契約の締結を機に生まれた「eスポーツ×資格」という組み合わせには、どのような意図や可能性が秘められているのか。

 

 

今回はTAC株式会社マーケティング事業部の松本隆氏にインタビュー取材を行い、その背景を伺いました。

 

──まずはTAC社が忍ism Gamingとスポンサー契約を締結するに至った経緯から教えてください。

 

松本隆氏(以下、松本) eスポーツ業界が拡大傾向にあるのは以前から感じておりました。中でも花形の職業であるプロゲーマーやストリーマーは好きなことを仕事にする生き方として、弊社の理念のひとつである「自立した人生を歩んでいく」ことへの共感もあり、サポートしていきたいと考えたことが始まりです。

 

eスポーツ業界はプロスポーツである以上は弱肉強食の構造であり、勝ち続けられるごく一部の選手以外は常にリスクを抱えている状態でもあります。リスクヘッジという観点から弊社の主力商品である“資格取得”を提案することによって、全力で好きなことに取り組める環境をサポートできるのではないかと考え、今回のスポンサードに至りました

 

そんなeスポーツ業界の中でも忍ismさんにパートナー企業として協力をお願いした理由は、チームとして若手を教育していく理念をしっかり持っていることにシンパシーを感じたからに他なりません。

 

──忍ism Gamingの選手育成に大きな魅力を感じたということでしょうか。

 

松本 はい。実は私自身、以前から格闘ゲーム『ストリートファイター』のプロリーグが好きでよく観戦しているのですが、現在リーグに出場しているヤマグチ選手は中学生の頃から忍ismさんの選手育成企画によって指導を受けてきた選手なんです。

 

ヤマグチ選手は20歳にしてトッププロとして将来を嘱望される選手であり、他にも育成企画からプロ選手を育て上げています。これはチームの代表である百地夫妻の「若手を育て業界を盛り上げる」という強い想いと、長期間に渡る一貫した教育方針が無ければ実現しなかったと思っています。

 

忍ismさんは他にもオフライン・オンラインともに大会を主催・運営されており、チャンネル運営やスタジオ経営など、スポンサー活動を通したアクティベーションの部分にも幅広く対応されています。eスポーツ業界を俯瞰して見ると、強さ以外のブランディングについて徹底的に配慮されているチームとしては、忍ismが抜きんでていると感じました。

 

──eスポーツ業界へのスポンサードは「若年層に向けてのアピール」という狙いがあるケースも多いですが、TAC社にとっては如何でしょうか。

 

松本 もちろんそういう意図もございます。コロナ禍の影響もあって最近の大学生はそれ以前よりも大きな行動変容が起こっており、eスポーツを通じた認知の拡大もテーマのひとつです。

 

──そうした背景を持ちながらスタートした、トッププレイヤーが資格取得にチャレンジする取り組み「シカチャレ」には、どんな狙いがあるのでしょうか。

 

松本 大きく分けて2つの狙いがあります。一つ目は「少しで構わないので、弊社の商品である“資格そのもの”を知ってほしい」という狙いです。

 

今回「シカチャレ」に参加されているのは先ほど紹介したヤマグチ選手と、『スマッシュブラザーズ』シリーズで活躍するあばだんご選手、そしてマネージャーのチョコブランカさんです。皆さん「色んな資格があることは知っているけど、具体的な内容は詳しく知らない」というスタートラインでした。

 

恐らくeスポーツファンの皆さんも、就職活動・転職・キャリアアップなどに「資格取得」が効果的で役に立つことはなんとなくご認識されていても、どのような種類の資格が、どのように役に立つのかご存じで無い方も多いと思われますが、それは勿体ないことなんです。資格を取得するのはそれ相応に時間や努力が必要になりますが、資格について知るのはとっても簡単で、例えば「簿記というのはこういう資格で、こういった場面で役に立つ」など触りの部分だけでも頭の片隅に置いておくだけで、人生の選択肢が広がっていきます。

 

少しでも知って欲しい。その想いから発信力・拡散力があり、視聴者と同じ視点を持つトッププレイヤーの方々にお願いすることにしました。

 

──確かに、資格という言葉自体は身近ですが、取得していない資格の実情は積極的に知ろうとしないと分からないですよね。

 

松本 そうなんです。そして、ニつ目は「トッププレイヤーほど、ゲームと資格の勉強の共通点を高い次元で体現できるのでは」という仮説を確かめるためです。eスポーツで高い成果を挙げる選手の多くは「目標に対する課題設定と、いかに効率よくその課題をこなすか」を極めて高いレベルで実現し、結果に繋げていると考えています。

 

実は資格の勉強も同じで、時間やお金という限られたリソースを効率よく使って最短で合格することが“良い資格の勉強”だとされています。資格取得の場合は「合格」という明確な目標があるので、「結果(勝つこと)に拘る」e スポーツに近い位置にあるとも言えます。

 

これらの共通点から「トップ層のeスポーツプレイヤーは資格の勉強についても、効率重視で最短で結果を出せる」という仮説を立て、あばだんご選手とヤマグチ選手という現役のトッププロに立証していただければと思っています。そうしてゲーマーの皆様をはじめ、進路選択に悩む学生の方からキャリアアップを考えている社会人の方々まで、少しでも資格の勉強を身近に感じてもらえればと、切に願っています。

 

──選手の挑戦する資格が日商簿記と行政書士に決まったのは、どのような理由なのでしょうか。

 

松本 選手の意向を最大限尊重しております。あばだんご選手は資産運用への関心が高く将来的に財務諸表を読めるように入門資格として「簿記検定」を選ばれました。

 

そしてヤマグチ選手はプレイヤーとしては勿論のこと、長期に渡ってeスポーツ業界に寄与していきたいということでしたので、まずはTACでの受講相談を経て、法律系の「ビジネス実務法務」を入り口に、より広範囲な内容を学習する「行政書士」へステップアップすることになりました。

 

 

──若くしてそこまで長期的なビジョンをお持ちのヤマグチ選手はすごいですね。

 

松本 ヤマグチ選手は大会でのコメントも大人顔負けだなと感じていたのですが、実際に話してみても印象通りの穏やかな好青年でした(笑)。おふたりとも勉強もできる方ですので、心配はしていません。

 

──昨今は高学歴のeスポーツ選手も増えており、そうした経歴を生かす例として良いモデルケースになるのではないでしょうか。

 

松本 そうですね。eスポーツ選手が目に見える職業として確立しつつあるからこそ、ゲームに専念するための道筋が必要になってくると思います。

 

──プロeスポーツ選手は30歳前後で引退を迎えるケースも少なくありませんが、セカンドキャリアとして資格取得の有用性をどのように捉えていらっしゃるのでしょうか。

 

松本 まず、少しレイヤーを上げて「スポーツ選手のセカンドキャリア」という観点から述べさせていただきますと、選手としての次のステップは指導者になるわけですが、それを実現できるのは一握りの選手でしかなく、ほとんどの選手は別のキャリアを模索する必要に迫られているのが実情です。

 

e スポーツ業界については、まだ業界が出来てから日が浅い部分がありますので、表面化していないところもありますが、今後業界が成熟・拡大していくにつれて全員が抱える課題として顕在化していくのではないかと推測しています。

 

──確かに、eスポーツ選手はスポーツ選手と違って配信者というセカンドキャリアも選択されますが、そちらも非常に狭き門になっています。

 

松本 そうなんです。そして、eスポーツ業界から離れるとなった場合、プロゲーマーから一般企業への転身は実際問題として数年間のビハインドがあることは避けて通れません。ある程度の専門性や知識を身につけてから社会に合流していくほうが、選手自身にとっても採用する企業側にとっても好ましい結果に繋がるのではないかと考えており、そのために“資格”は非常に有用なツールだと思います。

 

加えて、レイヤーをeスポーツ業界だけに戻してその特徴を見てみると、やはり「今からプレイヤー以外の仕事が沢山発生する」という点も付け加える必要があります。

 

──eスポーツ業界から離れずに、資格を生かしていける可能性が広がっている。ということですか。

 

松本 はい。今後はプロゲーマーを抱える企業・チームの誕生が進み、大会運営や弊社のような別業界のスポンサーとの交渉もあるでしょう。企業買収や統廃合など、取り巻く人の数や利害関係者の種類が拡大していくと考えられます。

 

今後、業界が成熟していく過程において、業界内規の整備やコンプライアンスの遵守など、より専門的な領域の仕事がeスポーツ業界内に発生すると考えられ、資格を持った人材の活躍が見込まれます。

 

この場合は、引退後のセカンドキャリアとして業界に貢献したい選手は勿論のこと、プロゲーマーと士業のハイブリット型選手も含まれるようになるでしょう。選手のセカンドキャリアのみならず、業界の成長に合わせて資格取得者の活躍するフィールドが拡大し、有資格者の有用性が高まっていくと考えております。

 

──資格に有用性があるのはもちろんのこと、今後さらなる発展が見込まれるeスポーツ業界だからこその需要もあるということですね。そうなると、やはり専門の講座を受けられるのは大きなメリットですね。

 

松本 現代は効率性が重視される環境でもあると認識しております。今回の「シカチャレ」は発表に対しても好意的なリアクションも多く、ニーズもあるとは考えていますが、まだまだ手探りな部分もあり、徐々に認知を高めていく段階にあると思っています。

 

これは私個人の展望になりますが、今後は忍ismさんと協力してeスポーツ選手のセカンドキャリアを考える枠組みを作り、業界のセーフティーネットになり、様々な他業界との懸け橋になっていけたら理想かなと考えております。

 

──そのためにも、まずは「シカチャレ」での資格取得が順調に進むことを楽しみにしております。

 

松本 ありがとうございます。この「シカチャレ」を通して“資格”がご自身の選択肢や可能性を広げるひとつの手段になるということを、お伝えできればと思っています。

 

そして、資格を取ってみようかなと思ったとき、私たちTACが皆様の後押しをさせていただけたら嬉しいです。資格に興味はあるけど、どの資格が自分に必要なのかわからない、という方も多くいらっしゃると思います。TACではそういったご相談もお受けしていますので、少しでも資格に興味を持っていただけたなら、お近くの校舎やお電話などからお気軽にご相談ください!

 

──本日はありがとうございました。

 

松本 ありがとうございました。

 

【シカチャレ!第1話】プロゲーマー資格獲得チャレンジ 資格相談・受講相談編(YouTube)

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