「国別対抗戦」は実現が難しい?

eスポーツ界の“ワールドカップ事情”を考える

#eスポーツ

2022年、カタールで行われた4年に1度のサッカーの祭典「FIFAワールドカップ」は、アルゼンチンの優勝で幕を閉じました。日本代表の躍進に沸いた日本国内はもちろん、初戦でアルゼンチンから大金星をあげたサウジアラビアでは試合の翌日が休日となったニュースも話題になり、改めてワールドカップが世界的な一大イベントであることを認識する大会になったのではないでしょうか。

 

 

2023年も野球の世界一を決める「WBC」や、前回の日本開催が記憶に新しいラグビーワールドカップなど、スポーツの国際大会が予定されています。普段は見られないドリームチームを結成した代表選手たちが国の威信をかけて競い合う大会はファンにとっても特別で、新たなファン獲得のためアピールするチャンスでもあります。

 

ならば、成長真っただ中のeスポーツにとっても「ワールドカップ」は大きなチャンスだと考えられますが、確かに国別対抗戦という形式も行われてはいるものの、そこまで定着していないのが現状です。

 

その理由はどんな部分にあるのか、eスポーツ界の“ワールドカップ事情”を見ながら、今後の可能性を考えてみます。

 

継続開催への高いハードル

これまでサッカーのように各国の代表選手が集まるワールドカップが行われたタイトルとしては、バトルロイヤルゲーム『PUBG』の「PUBG Nations Cup」や、シューティングゲーム『Overwatch』の「Overwatch World Cup」が代表例として挙げられます。

 

「Overwatch World Cup」はゲームがリリースされた2016年から開催され、2017年に同タイトルのプロリーグがスタートしたことで大会の競技性と注目度が大きくアップ。歴代の日本代表選手からは現在も選手やストリーマーとして大きな人気を持つスタープレイヤーを輩出した一大イベントへと成長しました。新型コロナ等の影響もあって2019年を最後に開催されていませんでしたが、2022年に続編となる『Overwatch 2』がリリースされたこともあり、2023年の復活に大きな期待がかかっています。

 

対して「PUBG Nations Cup」は2019年に初開催されると、コロナ禍での地域別オンライン開催を挟みつつも2022年まで継続的に開催。東京都内ではパブリックビューイングが行われるなど、ファンにとっては一年の楽しみとして定着しつつあります。

 

このように一部のタイトルでは人気コンテンツとなっている国別対抗戦ですが、各国代表が一堂に会しての大会となるとかなり大掛かりであり、定期的に実現できるのは運営能力と収益の目途が立つごく一部の超人気タイトルに限られるのではないでしょうか。

 

また、そうした規模の制約に加えて「世界大会ならではの魅力」を演出する難しさも課題です。先に挙げた2タイトルのようなチーム戦で争われるタイトルとは異なり、格闘ゲームのように個人戦がメインとなるタイトルでは国別対抗戦と世界大会とでどうしても対戦カードに変化が起きづらく、団体戦にするなどの工夫が求められます。

 

過去にサッカーゲーム『ウイニングイレブン』で行われた世界大会では、使用するチームを自由に選択できるルールだったことで各国代表の選手ほぼ全員が同じチームを選択したこともありました。もちろん同じチームを使った方が平等に個人の力量差が表れると考えられますが、一方で「日本代表の選手が日本代表チームを操作する」や「戦力的に劣るチームが強いチームに勝つ番狂わせ」と言った面白さが伝わりやすい現象は起こりづらくなってしまいます。

 

世界一を決める大会というのはどんなタイトルでも盛り上がるものですが、プロeスポーツチームの環境の整備が進んだこともあり、「どの国が一番か」を争う国際大会よりも、国籍を問わず「どのチームが一番か」を争う世界大会が、現在のeスポーツ界では主流と言えるでしょう。

 

複合種目の合同大会やスポーツ大会の種目に期待感

そんな中、近年は少しずつ新たな展開も生まれています。例えば、既存のスポーツ競技大会に「eスポーツ」が種目として採用されることによる国別対抗戦の実現です。

 

急速に若者の人気を集めるeスポーツはスポーツ界にとっても注目の的であり、競技の一環として大会に取り込もうという動きが複数見られます。アジア・オリンピック評議会が4年に1度開催している「アジア競技大会」では2018年にeスポーツが「デモンストレーション競技」として採用され複数のタイトルで大会が開かれると、2022年大会で正式種目に昇格。つまり、eスポーツでメダルを獲得すると各国の通算メダル獲得数にカウントされるようになったのです。大会は新型コロナウイルスの影響で2023年9月に延期となっていますが、既に採用される8タイトルも発表されており、これから各国の代表選手が選抜されていくと予想されます。

 

 

加えて、2023年6月には国際オリンピック委員会による「第1回オリンピックeスポーツウィーク」がシンガポールで開催されることも発表されています。こちらは大会だけでなく技術展示などを含む総合的なイベントになるとのことですが、こちらはアジアに限らず全世界から選手の集まる大会になると見られており、未発表の採用タイトルの行方に注目が集まっています。

 

他にもeスポーツ内で複数タイトルをセットにした国別対抗戦を開催する動きもあり、2022年も「ワールドeスポーツチャンピオンシップ」や「グローバルeスポーツゲーム2022」と言った大会が行われ、日本からも日本eスポーツ連合が選手を派遣するという形で代表選手が参加しました。

 

大会が増えることはそれだけ競技の世界が活発になることを意味するので嬉しいことではあるのですが、eスポーツ界の国際大会事情が発展途上ということもあって現在は大会が乱立しつつあるようにも感じられ、どの大会にどんな特徴があるのかなどの立ち位置もはっきりしていません。

 

とは言え、最初に例として挙げたサッカー界の状況を考えても、単独で行われる国別対抗戦のワールドカップはもちろん、オリンピックの一種目として行わるサッカー競技は23歳以下の選手だけが参加できる大会として価値が見出されており、加えて各国リーグの王者が集まるチャンピオンズリーグも大きな人気を得ているように、複数の国際大会がそれぞれの役割を持って並び立っていくことは可能だと考えられます。

 

現在はeスポーツの大型国際大会と言えばアメリカで行われる格闘ゲームの祭典「EVO」や、世界的人気タイトル『League of Legends』の世界大会「Worlds」の名前が挙げられますが、将来的にはeスポーツを知らない人にも「この大会がeスポーツのワールドカップだ」と説明できるような大規模複合大会が生まれてくれば、更なる人気拡大にもつなげられるのではないでしょうか。

 

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