みんなで楽しむ「ウォッチパーティ」が人気を後押し

2022年のeスポーツシーンを振り返る

#eスポーツ

冬季五輪にサッカー男子ワールドカップと、スポーツの大規模な競技会が行われた2022年も残すところあと僅か。ゲームの対戦競技「eスポーツ」の分野でも、今年は3年ぶりに格闘ゲームの国際大会「EVO」がオフラインで開催されるなど、様々な出来事のある一年でした。

 

今回は国内eスポーツの視点から2022年を振り返ります。

 

 

「ウォッチパーティ」文化の成長

 

2022年のeスポーツシーンを代表するタイトルのひとつと言えば、4月の国際大会で日本代表チームの「ZETA DIVISION」が4位へ躍進し、FPSジャンルにおける歴史的な快挙として大きな話題となった『VALORANT』の名前が挙げられます。

 

6月にさいたまスーパーアリーナで開催された国内大会がeスポーツ大会として記録的な動員数を誇ったことは本コラムでも紹介した通りで、今年のeスポーツ人気を牽引する存在となりました。

 

『VALORANT』を開発・運営するライアットゲームズの発表によると同タイトルの国内公式大会は同時視聴者数が20万人を超えることも多く人気ぶりを象徴する数字となりましたが、これは各サイトにおける公式配信だけでなく「ミラー配信」を含む数字であることも注目のポイントです。

 

ミラー配信とは、元となる配信の映像や音声をそのまま使用して行う配信のことであり、eスポーツでは人気ストリーマーなどのインフルエンサーが配信上で大会などの映像を流しながら視聴者と同じタイミングで観戦してコメントやリアクションを行う“同時視聴”型の「ウォッチパーティ」がコンテンツとして確立しつつあります。

 

ミラー配信では、配信映像というコンテンツを利用するため公式への許諾申請やガイドラインへの準拠が必要となりますが、視聴者にとっては応援しているインフルエンサーと一緒に観戦しているような感覚で楽しめる魅力があり、ストリーマーとしても大会の観戦を配信コンテンツに出来るのは差別化が図れるメリットがあります。もちろん大会としても新たな視聴者を獲得するチャンスであり、各方面にとってメリットの多いコンテンツとして急激に成長しています。

 

誰かと映像配信を同時に楽しむ「ウォッチパーティ」はオンラインでの繋がりが強くなったここ数年の風潮を強く反映した文化であり、映画やドラマ、スポーツの配信サイトでも機能として導入され始めています。

 

インフルエンサーが広告塔として強い存在感を示している昨今のeスポーツ業界では、大会PRの一環として「著名なストリーマーに大会をウォッチパーティしてもらう」といった形の案件も増えており、新たな観戦スタイルとして既に定着しつつあると言えるでしょう。

 

競技タイトルは固定化の兆し

 

スポーツやライブでは徐々に「声出し応援」が再開されるなど、徐々にコロナ禍以前のスタイルを取り戻しつつあることも印象深かった2022年のエンターテイメント。

 

eスポーツでもオフライン大会やイベントが数多く行われ盛り上がりを見せましたが、その中身に目を向けると、競技種目として注目を浴びるタイトルは昨年からあまり大きな変化がなかったと言える状況でした。

 

例えば、国民体育大会と並行して2019年から開催されてきた「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」では、昨年の三重大会で採用された6種目のうち5種目が今年の栃木大会でも採用されました。高校生年代を対象とした全国的な大会「Stage:0」や「全国高校eスポーツ選手権」でも昨年と同じタイトルで競われており、新しいタイトルが入り込む余地が少なくなりつつあります。

 

 

同じタイトルで継続して大会が行われることで運営のノウハウが蓄積され、歴代大会を通じて選手同士の関係性が構築されていくドラマ性などの魅力も生み出されていきます。参加者にとっても長期に渡って開催される大会を目標にすることでモチベーションの維持に繋がるので、こちらもまたメリットが大きいが故に固定化の流れが進んでいると考えられます。

 

もちろん2022年にも新しい対戦ゲームは数多くリリースされており、メーカーが主導する公式大会やユーザーによるコミュニティ大会は大いに盛り上がりました。ただ、例に挙げたような一般参加型の複合大会では大会での使用に許諾を出すメーカーと大会運営の関係性も重要であり、今後は急激にタイトルが変化していくよりも固定化の流れが進んでいくのではないでしょうか。

 

海外や他ジャンルに目を向けても、冒頭で紹介した格闘ゲームの国際大会「EVO」のメイントーナメントで実施された競技種目は、オンライン開催だった昨年までと同様に『ストリートファイター』や『鉄拳』などお馴染みのタイトルが並んでおり、人気タイトルが不動の地位を築いている状況は変わりません。

 

ここ数年オンライン環境での需要に乗り人気を得たタイトルが、大会の継続開催、そしてウォッチパーティの広まりなどの要因で確固たる地位を築き始めたと言える2022年。ビジネスとしてもスポーツ・エンターテイメントとしても、新しい文化としても色々なニュースを取り上げて来ました。

 

2023年は新たに存在感を示して中心へと食い込んでいくタイトルが現れるのか、あるいは既に人気のタイトルで今年を超えるような盛り上がりが見られることがあるのか。まだまだポジティブな1年となることを期待して、見守って行きたいと思います。

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