日本でいえば仕事始めにあたる2019年1月4日、世界最大のPCゲームプラットフォームであるスチームにて、最も人気のあるゲームのひとつであるDota2に、中国の無名の開発会社Drodo Studioが作ったMODが追加されました。それが「Dotaオートチェス(Auto Chess)」で、2019年を代表するゲームジャンル「オートバトラー(Autobattler)」が日の目を見た瞬間でした。
MOD(モッド)というのはmodification(変更)から生まれた言葉で、オリジナルのPCゲームに主にファンが独自の改造を加えて本来とは異なる遊び方をしたり、あるいはまったく別のゲームを作ってしまうことです。「Dota オートチェス」は、世界最高レベルの賞金総額とeスポーツの象徴と呼ぶにふさわしい来歴で有名なゲーム「Dota2」のMODですが、Dota2とまったく異なるどころか、これまでに人々が見てきたどのようなゲームともまったく異なるゲームをプレイできるMODでした。
「Dota オートチェス」は発表後瞬く間に全世界を席巻し、2019年4月にはスチームの同時接続人口は10万から20万人ほどになり、同接ランキングではPUBG、Counter Strike: Global Offensive(CS:GO)、本家のDota2に続いて4位となりました。Dota2のプレイヤーが少ない日本でも、Dota2をまったくやったことのないプレイヤーを中心にこのゲームに夢中になっていきました。
そして6月には、Dota2のライバルである「リーグ・オブ・レジェンド」のライアットゲームズが、「Dota オートチェスにインスパイアされた」と公言する新ゲームモード「チームファイト・タクティクス」を発表します。さらに、Dota2の開発・運営元Valveも、「Dota オートチェス」をMODのままにしておかず「Dota Underloads」というタイトルで独立したゲームにすることを発表。その一方で、「Dota オートチェス」のもともとの開発元であるDrodo Studioは「フォートナイト」で有名なエピックゲームズと組んで「オートチェス」というタイトルのゲームとして開発していくことを発表しました。
つまり、日の目を見てから半年と経たないゲームジャンルに、「Dota2」のValve、「フォートナイト」のエピックゲームズ、そして「リーグ・オブ・レジェンド」のライアットゲームズと、3つのeスポーツを代表するビッグタイトルのパブリッシャーが「次の一手」として取り組むことになったのです。
オートバトラー――当初はジャンル名も「オートチェス」と呼ばれていましたが、これが上記の通り固有のゲームタイトルとなるため、英語圏では徐々に「オートバトラー」が定着しつつあります――は、一言で言えばチェスや将棋、または「シビライゼーション」のような「先を見据えてリソースを配分する」ストラテジーゲームと、マージャンやカードゲームのような確率と期待値を意識しながら手札を作るゲームとを融合させたものといえるでしょう。「オートバトラー」の名が示すとおり、作った手札を配置した後は、AIが自動で敵との戦闘を進めてくれるのですが、工夫を重ねて配置した手札がちゃんと相手に勝ってくれたときの喜びは他のゲームにはないものがあります。オートバトラーは非常に独特な魅力のあるゲームで、実際に体験してもらわなければわからないことが多いのですが、一度体験すれば多くの人がとりつかれるでしょう。
▲「チームファイト・タクティクス」のプレイ画面。引いた「駒」からいかに最強の「手」を作るか、「手」をどのように盤上に配置するか。オートバトラーでは「戦略」「確率思考」そして「運」が試される。
考えてみればeスポーツの世界には、この20年ほどの間に次々と新しいジャンルが登場し、しかもそれらのすべてが今も廃れることなく多くのプレイヤーに遊ばれ、各ゲームでプロゲーマーが活躍しています。2000年代のはじめ、「eスポーツ」という言葉が登場したばかりのころは「格闘ゲーム」「FPS」「リアルタイムストラテジー」が主要ジャンルでした。そこから、2000年代の中ごろに「リアルタイムストラテジー」のMODとして登場したDotaが、2010年前後に「MOBA」という確立されたeスポーツのジャンルとなります。2013年ごろには、それまでリアルなテーブルの上で行われていたカードゲームのエッセンスを引き継いでデジタル化した「ハースストーン」が登場し、カードゲームが “eスポーツ” に生まれ変わりました。
そしてつい2年ほど前に「バトルロイヤル」というゲームジャンルが登場して世界を席巻したばかりなのに、今年に入って「オートバトラー」が登場し、またも斬新なジャンルが世界を動かしています。また、バトルロイヤルの「PUBG」が登場したときと同じく、今回もムーブメントの震源地は決して有名ではない小さな開発会社でした。一方で、初期からあるジャンルも廃れるどころか、それぞれ独自の進化を今も続けています。まだまだeスポーツの世界は「黎明期」であり、掘られていない鉱山があちこちにひそんでいるということなのかもしれません。
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