「フランチャイズ制」を採用するeスポーツ

「フランチャイズ」という言葉は、日本では飲食店やコンビニなどのチェーン展開の形式を表す言葉として主に使われています。そのため、「看板を借りる」という意味の言葉というイメージを持っている方が多いかもしれませんが、もともとは広く「権利」「特権」という意味の言葉です。

 

さて、フランチャイズという言葉はスポーツビジネスの世界でも広く使われる言葉で、その場合の意味は飲食店やコンビニについて使う場合とはかなり異なる意味になります。スポーツでは、大会運営者が各チームに与えた「独占権」のことをフランチャイズといいます。フランチャイズを獲得したチームは、大会(リーグ)に長期的に参加する権利を持ち、成績不振だったからといってそれを失うことはありません。また、フランチャイズにはある地域を「独占」する権利が含まれている場合も多く、チームはその地域を本拠地とし、その地域の住民をファンとして抱え込むことができます。

 

アメリカでは、4大スポーツ(野球、バスケットボール、アメフト、ホッケー)の全てが厳格なフランチャイズ制のもと運営されているため、フランチャイズ制自体がアメリカ的なスポーツ経営の象徴として語られることがあります。

 

ファン目線から見たときのフランチャイズ制の最大の特徴は「降格がない」ことでしょう。フランチャイズ制でないリーグ、つまりたとえば欧州サッカーやJリーグでは、基本的に「1部リーグ」と「2部以下のリーグ」が存在し、シーズンごとに「1部リーグの最下層」と「2部リーグの上位層」とが参加する「入れ替え戦」を行い、2部リーグのチームが勝てば晴れて「1部昇格」となります。「入れ替え戦」は、特に下位リーグのチームとそのファンからすればサクセスストーリーのハイライトになりえるので、興行的に非常に盛り上がります。新しく発足したチームでも、下位リーグと入れ替え戦を勝ち抜くことによって1部リーグの晴れ舞台で戦う権利を与えられるというのは大きな夢があります。

 

一方、フランチャイズ制を採用したリーグではこの「入れ替え戦」がなく、毎シーズン同じチームがリーグを戦うことになります。新規参入者への扉は閉ざされますが、フランチャイズを獲得した既存チームは目先のシーズンの成績にとらわれすぎず、降格により出場権を失うリスクもなく長期的な観点で選手育成を含めたチーム経営をすることができます。ファンとしても、入れ替え戦の「盛り上がり」を失う一方で、長期間にわたって愛着を育みながら特定のチーム(多くの場合地元チーム)を応援することができるようになります。

 

 

さて、eスポーツの世界でもフランチャイズ制を採用するリーグが現れはじめたことが注目されています。「リーグ・オブ・レジェンド」は2017年に中国のリーグがフランチャイズ制を採用したことを皮切りに、2018年は北米、2019年からは欧州でもフランチャイズ制が導入されました。さらに日本のリーグも「入れ替え戦」を廃止して出場チームを固定し、実質的なフランチャイズ制に踏み切りました。特に中国ではフランチャイズチームに中国の各都市を割り当て、ホーム・アウエー方式で各地のスタジアムで試合を行う形式としたため、eスポーツの世界ではまだまだ珍しい「地域密着型」のチームができつつあります。

 

北米でのフランチャイズ制導入に際しては、国際大会での実績もある名門チームのイモータルズ(Immortals)がフランチャイズを獲得できず、「リーグ・オブ・レジェンド」のチームを解散せざるを得なくなるという事態が発生しました。(イモータルズ自体は現在も北米の各ゲームに参加する名門クラブであり続けています。)

 

さらに顕著なフランチャイズ制を敷いたのが、ブリザード社のタイトル「オーバーウォッチ」の「オーバーウォッチ・リーグ」です。これまで見てきた北米のスポーツも、「リーグ・オブ・レジェンド」も、それぞれの国内・地域内でフランチャイズを割り振っているのですが、「オーバーウォッチ・リーグ」は全世界を対象にフランチャイズを割り振り、世界の各都市の代表が「レギュラーシーズン」を争うという壮大なリーグになっています。

 

「オーバーウォッチ・リーグ」は現在20のチームが参加し、「大西洋ディビジョン」と「太平洋ディビジョン」の10チームずつ2つに分かれてレギュラーシーズンを戦っています。20のうちアメリカのチームが11、中国が4、カナダが2、韓国、イギリス、フランスが1ずつと、現在は6カ国からの参加ですが、今後フランチャイズの枠を拡大しさらに多様なリーグとなる可能性があります。また、eスポーツのリーグとしては非常に珍しく、全チームがチーム名に都市や地域の名前を冠しており、地域とのつながりをもつチーム運営が求められています。

 

上記のようなeスポーツのフランチャイズ制採用の動きは、大会の運営者やチームが「長期的な視点」で運営する見通しを立てていることを示しています。大会運営者は、フランチャイズの希望者に巨額のフランチャイズ料支払と、短期で経営不能になる可能性がないことの証明、つまりまっとうな事業計画の提出などを求めます。それをクリアし、その上で選手の育成やファンとの交流などにも長期に渡り大量のリソースを割かねばなりません。それだけのことをしてでも、eスポーツのフランチャイズを獲得したいというチームが世界中で現れているということは、eスポーツ興行によるリターンが長期的かつ安定的なものになると多くの関係者がとらえ始めたということでしょう。