躍進するベトナムのeスポーツ

ベトナムという国についてどのようなイメージをお持ちでしょうか。フォーや生春巻などの料理を思い浮かべる人が多いかもしれません。最近では日本に居住して働くベトナムの人も増えてきたので、身近な存在になったともいえます。実は今、ベトナムはeスポーツ大国として世界に頭角を現そうとしています。

 

 

前回少し言及しましたが、ベトナムは他の多くの新興国と同じく、アスリートの育成という点ではこれまで目立った成果がありません。ベトナムがオリンピックでとったメダルの数は、これまでの累計で金メダル1、銀メダル3の4枚です。過去開催されたすべてのオリンピックの累計でこの数字です。また、オリンピックはもちろん、アジア競技会などの大規模国際スポーツ大会もベトナムではほとんど開催されたことがありません。これだけ見ると、ベトナムはアスリートの育成や応援にあまり興味がないのだろうという印象を持ちます。

 

ところが、eスポーツに目を移してみると違った状況が見えてきます。2019年には、eスポーツの中でも特に競技人口の多いタイトル「リーグ・オブ・レジェンド」と「アリーナ・オブ・ヴァロア」の最大規模の国際大会が相次いでベトナムで開かれます。

 

「リーグ・オブ・レジェンド」はeスポーツの代表的なタイトルとされており、競技人口も世界最大で1億人のアクティブプレイヤー(月に1回以上プレイするプレイヤー)がいるといわれています。今年ベトナムで開催されるのは「ミッドシーズン・インビテーショナル」という、年に2回ある国際大会の一つで、昨年は全世界で6,000万人以上が視聴した一大イベントです。今回はベトナム単独での開催でなく、台湾との共催という形ですが、ほとんどの試合はベトナムで行われます。

 

「アリーナ・オブ・ヴァロア」はいまや世界最大のゲーム会社となった中国のテンセント社が自ら開発運営を行うゲームで、中国では「王者栄耀」、日本では「伝説対決」というタイトルでも知られ、中国を中心に全世界で億単位の登録ユーザーがいるといわれています。今回ベトナムで行われる大会はこのゲームの「ワールドカップ」であり、最大の大会のひとつです。

 

日本でも、両ゲームにはれっきとした国内リーグとプロゲーマーが存在し、関係者やファンは日本で国際大会が開催されることを待望していますが、今のところ実現の目処は立っていません。日本さえも(?)さしおいてベトナムが先に国際大会を開催することになったのです。

 

これらの世界でもトップクラスのeスポーツタイトルの最大の国際大会がベトナムで開かれるのは、もちろんベトナムのeスポーツ産業が今非常に盛り上がっていることが背景にあります。「リーグ・オブ・レジェンド」では、北京で開かれた2017年の世界大会でギガバイト・マリーンズというベトナム代表のチームが、世界大会優勝の経験もあるヨーロッパの代表チームを撃破し、そのときに彼らが取った戦略のあまりの奇抜さとあいまって全世界に衝撃を与えました。同大会におけるチームの最終順位こそ9位だったものの、eスポーツの世界におけるベトナムの存在感は一挙に高まりました。

 

その後、チームの中心選手であったリヴァイ選手(『進撃の巨人』の登場人物からプレイヤー名をとったようです)はアメリカのリーグでプレイしたり、さらに今年になってからは中国のリーグに参加したりと、ベトナム人としてはおそらく初めての、世界をまたにかけて活躍するプレイヤーになっています。おそらく、ベトナムの若者たちが今もっとも憧れる存在になっているでしょう。

 

「アリーナ・オブ・ヴァロア」では2018年の「インターナショナル・チャンピオンシップ」でベトナム代表の「チーム・フラッシュ」が準優勝したほか、「オーバークロッカーズ」が8位以内に入り、両チーム合わせて賞金17万ドルをつかみ取る健闘をしました。「アリーナ・オブ・ヴァロア」の国内リーグも大変な盛況で、YouTubeでのライブにおける最大同時視聴者数は10万人を越えます。

 

 

これらのベトナムのeスポーツにおける躍進は、やはり若年人口の厚さとIT技術の急速な進歩が背景にあります。ベトナムの人口は2016年の時点で9,500万人で、その6割近くにあたる約5,200万人が35歳未満です。日本の35歳未満人口が3割ほどであることを考えると、圧倒的に若い国であるといえます。前回も言及したとおり、eスポーツは世界的に「若者」が中心のカルチャーであり、若者の数が発展に直結します。

 

さらに、ベトナムは経済成長著しい東南アジア諸国の中でも近年のGDP成長率が高く、ITを成長のエンジンとしている国であることが重要です。ベトナム政府が国の方針としてIT産業を最重要視していることもあって、2015年から2018年のインターネット関連サービスの成長率は年平均38%も成長し、ベトナムのインターネット普及率は世界で20番目にまでなりました。さらに、政府は2025年までに、インフラ整備や法整備を推し進めることで、GDPの25%をIT産業にする計画を打ち出しています。

 

韓国や台湾など、国のサイズの割にeスポーツで圧倒的なパフォーマンスを出している国々の共通点として、IT産業が国の主力産業となっていることが挙げられますが、ベトナムもその国々の一つに加わる可能性が高いといえます。数年後には、リヴァイ選手の後に続くスタープレイヤーたちがさまざまなタイトルで、世界各国で活躍する光景を目にすることになるかもしれません。

 

【参考記事】

Vietnam to Host $500K Arena of Valor World Cup in Late June

Arena of Valor 2019 World Cup to be Held in Vietnam

Digital industry to contribute a quarter of Vietnam’s GDP by 2025