「個人成績」で楽しむeスポーツ

多くのスポーツでは、チームとしての勝敗、大会実績とは別に「個人成績」というものが存在します。野球ならば打率や防御率、サッカーならば得点数やPK決定率などです。野球でいえば選手個人の打率や防御率とチームの勝率に関連性がない場合も多いですが(先日引退したイチロー選手がMLB年間最多安打を記録した2004年、所属チームのマリナーズの順位はリーグ最下位でした)、個々の選手の特徴や調子の良し悪しをとらえる上では非常に重要な指標です。

 

さて、eスポーツタイトルにおいても、チームとしての勝敗とは別にプレイヤーの個別のパフォーマンスである「個人成績」と言うべき指標が存在します。

 

eスポーツのプロの試合を観戦するときも、チームそのものの勝敗・順位とは別に、あるプレイヤーが個人成績をどこまで伸ばすか、個人成績の指標別に見たときに上位の選手が多いチームはどこなのかといったことは観戦の楽しみのひとつになります。また、「個人成績」を見ることでプレイヤーの実力をより複合的に判断することができます。「プレイヤーAはアシストスコアが高いが、K/DはプレイヤーBのほうが上なので、チームを離れて1vs1で戦えばプレイヤーBが勝つんじゃないか?」などということを考えたりすることができます。この点で従来のスポーツと同じです。

 

 

以下では、eスポーツの主要ジャンルのひとつFPS(ファースト・パーソン・シューター)を例にとり、主な個人成績の指標とそこから見えてくるプレイヤーの特徴について述べていきます。

 

■K/D (キルレシオ)

Kはキル数、Dはデス数のことです。キル数つまり「敵を倒した回数」とデス数つまり「敵に倒された回数」を並べて表示し、必要に応じて割り算するシンプルな指標です。FPSではやはり「相手を倒す」こと、そして「相手に倒されないこと」が勝利に直結しやすいため、重要視されている指標です。

 

基本的にはキル数が多く、デス数が少ないプレイヤー、つまりキル数をデス数で割り算して得られる数字が大きいプレイヤーが優秀と考えられます。(キル数をキル数とデス数の合計で割る計算方法もありますが、考え方はほぼ同じです。)

 

よってキル数はできるだけ多く、デス数はできるだけ少ないほうがよいというのが基本です。一方でK/Dにこだわるあまり、デスを徹底的に避け、リスクを排除したプレイを心がけて取れるときだけキルをとる、というプレイスタイルを取るプレイヤーがたまにいます。もちろん、それも立派な戦略ですが、ゲーマーの間では「根暗で積極性に欠ける奴」というレッテルを貼られがちです。(ただの嫉妬かもしれませんが。)

 

いずれにせよ、K/Dはプレイヤーの個人技の高低を端的に示すものです。

 

■SPM(=Score Per Minute)

SPMは、ゲームの「スコア」を分で割った数値です。上記の通りキル数/デス数はキルが発生すれば増え、デスが発生すれば割り算で減るという指標ですが、FPSのスコアは基本的に減りません。スコアはキルを取ったときや、重要なオブジェクトを制覇するのに貢献したとき、つまり「うまくやった」ときに加算されますが、敵に倒されるなどの「ヘマをした」からといって減ることはありません。この点がK/Dと違います。

 

なお、単にスコアでなくScore Per Minute(1分あたりのスコア)として指標化されているのは、試合時間が各試合によって異なるため、単純な合計スコアでは比較のための指標として使えないので、分あたりの平均にしているのです。

 

SPMは常に積極的に動くプレイヤーで高くなります。よってSPMが高いプレイヤーは、アクティブに、リスクをとってプレイしているといえるでしょう。

 

とはいえ「リスクをとる」というのは必ずしも良いことではありません。自分のスコアと引き換えに敵に倒されてしまい、それが試合そのものの負けにつながることもあるでしょう。また、「スコアには加算されないが重要な仕事」というのがFPSではいくらでもあります。(「デスしないこと」も含みます。)SPMばかりが高いプレイヤーはそれを軽視していると見られることもあります。

 

 

■与ダメージ

「相手に与えたダメージの合計」です。スコアと同様、長引いた試合ではそれだけで多くなる傾向があるので、分あたりで比較したり、またチーム全体の与ダメージの中での割合で比較したりします。

 

敵を倒したときに「キル」を獲得し、それをキル数に加算できるのは、原則として敵に「最後の一撃」を加えたプレイヤーです。あなたが敵の100のHP(ヒットポイント)のうち99を削っても、最後の1ポイントを別のプレイヤーにとられた場合、キルはそのプレイヤーのものになります。その場合でも「アシスト」があなたに加算されますが、キルに比べてスコアが低い場合が多いです。

 

上の場合のように、必ずしもキルやスコアに直結しなくとも、相手に大量のダメージを与え、それが味方のキルやスコア、そしてチームの勝利につながった場合、そのゲームで重要な役割を果たしたといえます。そのため「与ダメージ量」も活躍の度合いを測る指標になります。

 

とはいえ、与ダメージ量が多いにもかかわらずそれが自分や味方のキル、また勝利につながっていない場合、非効率的なダメージの出し方をしている可能性もあるでしょう。逆に、与ダメージ量が少ないにも関わらずキルをやたらとっている場合には、味方の「手柄を横取り」していないか(必ずしも悪いこととはいえませんが、チームプレイでは味方の「ご機嫌」にも配慮することで勝利につながる場合があります)と反省する必要があるかもしれません。

 

■観戦の指標として、プレイスキルの指標として

3つの指標を簡単に紹介しましたが、FPSだけでも他にもさまざまな指標がありますし、他のジャンルにも同様に個人成績が存在します。

 

個人成績の指標とそこから見えてくるプレイヤーの特徴を理解することにより、eスポーツの観戦や楽しみ方がより深いものになります。また、個人成績はプレイヤースキルの上達にも重要な役割を果たします。

 

プレイの上達のためには自分のプレイを客観的に分析し、改善点を見つける姿勢が欠かせませんが、「個人成績」の各指標の特徴をよく理解し、分析することがその近道になります。とはいえ、チーム競技ですので、個人成績ばかりにこだわり、チームプレイの精神を忘れてしまうのは考え物です。