eスポーツと審判

#eスポーツ

スポーツにおける審判の役割の重さについては説明するまでもないでしょう。審判は一つ一つのプレイにおいてそれがフェア(有効)だったかファウル(反則)だったかを判定しなければなりません。反則などの問題が起こったときには、それに対して適正な処分を下さねばなりません。

 

ただしスポーツの審判の仕事は、初めから「人間の限界」を超えているところがあります。「ボールが落ちたのはフィールド内だったか」「ランナーは一塁手よりも先にベースをタッチしていたか」などの数ミリメートルや数ミリ秒の単位で問題になることについて、遠くから即時に肉眼で100パーセント正確に判定することは人間には不可能です。よってスポーツでは「誤審」がしばしば問題になり、ビデオ判定の導入や、人工知能による審判の是非、また「誤審の楽しみ方」などさまざまなことが議論されています。

 

さて、「eスポーツは『審判』という面で従来のスポーツより優れている」と(密かに)思っているeスポーツファンは多くいます。確かにeスポーツで審判が「即時に肉眼で」細かいことを確認して裁定を出さねばならないようなケースはあまりなく、審判とプレイヤーのもめごともあまり起きません。何しろeスポーツでは試合進行中の「今のダメージは何ポイントだった」とか、「今のショットは当たっていなかった」とかいう判定はすべてコンピューターがやってくれます。ファウルはゲームのプログラミング上そもそもできないようになっているので、少なくともゲーム内では「入力可能なことはすべてフェア」ということになります。(ただし例外として、バグ利用の禁止、つまりゲームのバグを自チームに有利なように利用してはいけないというルールがあります。)実際eスポーツを見慣れた人がサッカーなどを観ると「よくこんなに頻繁に審判ともめられるな」と(密かに)思わずにはいられないというのはあります。

 

 

しかし、本当にeスポーツが「審判」という面で従来のスポーツより優れているといえるのでしょうか。

 

eスポーツの「審判」には、試合中の処理を行うコンピューターと、試合にまつわるさまざまな裁定を行う人間の審判の両者がいます。それぞれ仕事はまったく違いますが、両者が組み合わさってeスポーツの「審判」として機能していると考えられます。

 

コンピューターの審判はどのような判定を行っているのでしょうか。eスポーツはコンピューター上で行われるため、「無数の数値の変化を、プログラムに従って正確に管理できる」というコンピューターの強みが活きています。eスポーツでは一つ一つの局面に「現在の敵味方そしてモブキャラの残りHPや攻撃力」「次のイベントが発生するまでの残り時間」「ランダム要素の乱数の状況」などなど、数十種類から数百種類の「数値ステータス」が存在します。もちろんコンピューターがそのすべてを管理し、記録し、プレイヤーの入力に応じて数値を変えています。そして「数値ステータス」はプログラムに沿って処理されますが、プログラムに間違いがあれば、つまりバグがあれば、本来の仕様と異なる間違った結果が出力されてしまいます。判定をコンピューターが務めていると考えれば、バグの発生はeスポーツにおける「誤審」といえるでしょう。

 

一方で、eスポーツの人間の審判は、キーボードやマウスなどの機器は適正なものか、チートツールは使っていないかなど、審判というより「規定に沿っていることの監視」の比重が大きいのですが、何か問題が起こった際の試合の処理をどうするかという点で裁定を下さねばならないときがあります。

 

両者が組み合わさってeスポーツの審判といえます。前述の通りeスポーツではサッカーや野球でよくみるような審判とのもめごとはあまり起きませんが、代わりに次の2つの問題が起こります。

 

1 トラブルが起きた場合に「再試合」か「そのまま続行」の二択になる

従来のスポーツでは、ファウルなどがあった場合に「途中からやり直す」ことができます。サッカーであれば、審判が指定した地点にボールを置いてプレイを再開します。数値ステータスの処理という観点からいえば、そのときの「時間」を記録してアディショナルタイムにまわせば事足ります。一方で、一つ一つの局面に何百もの「数値ステータス」が存在するeスポーツでは、問題があったときの「やり直し」が極めて難しいのです。全ての数値ステータスをやり直したい時点のものに正確に戻さなければプレイヤーの納得する「やり直し」環境にはなりませんし、そもそも不可能な場合がほとんどです。よってeスポーツでは、トラブルが起こって試合を中断した際に「最初からやり直す」か「問題を無視してそのまま続行する」のどちらかになってしまう場合が多いのです。

 

ところで、eスポーツの試合はどのようなときに中断されるかというと、上述の通りファウルが原則的にない代わりに、バグつまりコンピューターによる「誤審」で中断することが多いです。

 

ゲームや主催者の方針によって違いはありますが、基本的にバグつまり「誤審」によってゲームが本来と異なる状況になった場合、プレイヤーがゲームにポーズをかけて(人間の)審判の裁定をあおぎます。ここで審判は実際にバグがあったかどうかを判断し、あった場合にはさらに「ゲームをそのまま続行するか、再試合とするか」を決めるのです。「続行」の場合はバグの不利益を被ったチームから不満がでますし、しかもその試合は「バグ試合」の汚名を着せられ、「名勝負」として記憶されることはありません。「再試合」とした場合にはそれまでに有利をとっていたチームから不満がでます。そのためeスポーツでは「誤審」のためにプレイヤーが審判に「チャレンジ」した場合、審判がそれを認めるにせよ認めないにせよ、下さねばならない裁定が非常に重くなりますし、勝負を台無しにしてしまいかねません。

 

バグ以外でも、機材のトラブルや、観客の乱入(実際にありました)のためにまったく意図しない入力をしてしまうようなことが起こりますが、どのケースでも、やり直しのための環境再現が難しいeスポーツでは多くの場合「再試合」か「続行」かということになってしまいがちです。

 

ただ、2017年にライアットゲームズが導入した「クロノブレーク」という技術はこの状況に一石を投じるかもしれません。「クロノブレーク」を使えばゲームをトラブルが起こる直前の状況に巻き戻し、何百種類ものステータスを問題が起きる直前と同じにし、完全に状況を再現して再開することができます。既にいくつもの試合で「クロノブレーク」が行われ無効試合となることを免れてきました。ただ2019年時点では、この技術は「リーグ・オブ・レジェンド」の試合以外では使われていないようです。

 

2 永遠に気づかれない「誤審」が多い(かもしれない)

先ほども述べたとおり、ゲームにバグはつきものです。上記のようにバグのために試合が中断されるのは、そもそもプレイヤーが「バグに気づいた場合」です。コンピューターの中では何百という数値ステータスが処理されており、その全てが仕様どおりに動いているか確認するのは不可能です。

 

たとえば「ある攻撃をして設計上は100のダメージを与えるところ、バグで99のダメージしか与えておらず、HP1で敵が生き残る」などということも起こりえますが、プロといえども試合中にそれがバグだと気づくことはありません。観客も同じです。そもそもゲーム画面に表示されるのは数値ステータスのごく一部にすぎませんから、サーバーのデータにアクセスできる人でなければ検証できる要素さえごくわずかです。バグ、つまり「誤審」があったとしても永遠に気づかれないようなものである場合が多いのです。録画を高精度に確認することで多くの誤審が発覚する従来のスポーツと大きく違う点です。

 

eスポーツでは多くの数値要素があまりに複雑にからみあっているため、その処理はコンピューターに一任するしかありません。そして「何かおかしい」と感づくレベルのものでなければ、プレイヤーはコンピューターの「裁定」に疑問を持つことはありません。よってeスポーツは「永遠に気づかれない誤審」が大量に発生している「かもしれない」という仕組みを抱えているのです。

 

 

このことはeスポーツに限らず生活の多くの部分をコンピューターという「ブラックボックス」にゆだねている現代の私たちの生活にも言えることで、大変示唆的です。

 

以上、eスポーツの「審判」が抱える2つの問題について述べてきました。eスポーツの試合はコンピューターが多くを裁定しているため、サッカーや野球などの観戦と比べて中断や試合中のトラブルが少なく、フラストレーションが小さいと感じているeスポーツファンは多いです。ただやはり物事には二面性があり、eスポーツはトラブルが発生したときのリカバリーの難しさがあり、また「コンピューターに多くをゆだねてしまい人間はそれをいちいち検証しない(できない)」という問題があるということは意識しておきたいと思います。

 

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