テレビとeスポーツ

YouTube、Netflix、Amazon Prime Videoなどなど、ネットの動画ストリーミングサイトで観られるコンテンツが年を追うごとに充実してきていますが、それでも従来型テレビの影響力は顕在です。デロイトトーマツコンサルティングが2017年10月に行った調査によると、ニュース・情報を取得する際に利用するメディアはいずれの世代でも「テレビ(ニュース番組)」がトップだったそうです。ネット上でも、Twitterの「トレンド」に入る言葉の多くがその時間にやっているテレビ番組に関するものですし、ネットが主戦場のはずのスマホゲームもテレビCMを大量に打っています。世代が下になるほど「テレビ離れ」している傾向は見られるものの、全体としてはネットメディアが従来型テレビを影響力で追い抜くのはまだまだ先の話になりそうです。

 

さて、日本においてeスポーツが長らくマイナーであった背景として「テレビでやってないから」という理由がよく上がります。今回はeスポーツ大国であるアメリカと韓国におけるテレビとeスポーツの関係を見ながら、日本のテレビとeスポーツの今後を考えてみましょう。

 

アメリカのテレビとeスポーツ

アメリカでは、ケーブルを引っ張って配信会社に月額料金を支払う「ケーブルテレビ」が主流です。

 

日本ではケーブルテレビといえば、スポーツファンや映画愛好家などの趣味に熱心な一部の層が専門チャンネルを観るためのものというイメージが強いと思います。アメリカのケーブルテレビも専門チャンネルを放送しているという点では同じですが、日本と異なるのはその普及率の高さとチャンネル数の多さです。2012年の時点で全世帯の80%がケーブルテレビに加入し、チャンネル数は数十から百におよびます。

 

何十ものケーブルテレビの番組の中で、ディズニー傘下のスポーツ専門チャンネルESPN(Entertainment and Sports Programming Network)は特に人気があるもののひとつです。EPSNに加入すればアメリカの四大スポーツリーグのうちの3つ、MLB(野球)、NFL(アメフト)、NBA(バスケ)を視聴することができます。このESPNで2016年、eスポーツの試合中継が開始されたことが話題になりました。ESPNでは現在「リーグ・オブ・レジェンド」や「オーバーウォッチ」などのゲームタイトルの最大規模のプロリーグが放送されています。

 

つまりいまのアメリカにはeスポーツの中継をメジャーなチャンネルで観る環境が存在するわけです。すると当然、これまでeスポーツに興味のなかった上の世代もeスポーツの存在を認識するようになります。eスポーツやプロゲーマーといったものが「得体の知れない何か」である状況が変わっていきます。それがアメリカのプロゲーマーの社会的認知や地位の高まりに大きな影響を与えているのではないでしょうか。

 

 

韓国のテレビとeスポーツ

次はお隣のeスポーツ大国、韓国に目を向けましょう。韓流ドラマやK-POPのファンの方は知っているかもしれませんが、韓国もアメリカと同じくケーブルテレビ大国であり、加入費用は比較的安く、2011年の時点で全世帯の80%が加入しており、50ほどのチャンネルが視聴可能です。そのうちの一つが2000年に放送を開始したOGN(OnGameNet)で、現時点では世界的にも珍しいeスポーツの「専門テレビ局」です。このOGNが、2000年というeスポーツの黎明期から、当時のeスポーツの代表格だった「スタークラフト」の試合の中継を韓国全土で盛り上げたことが、現在のeスポーツ大国韓国を作っているともいえるでしょう。

 

調査会社ニールセンによると、韓国のeスポーツファンのうち、ネットのストリーミングサイトで視聴すると答えた人が56%であるのに対し、OGNをはじめケーブルテレビで視聴すると答えた人は71%です。従来のテレビのほうがネットよりも強いのです。

 

メジャーなeスポーツはPC一台で「プレイ」と「観戦」の両方が可能なことが強みの一つです。やはりニールセンの調査ですがゲーム配信専門サイト「Twitch」の米国の利用者のテレビ視聴率が顕著に低いのも、eスポーツファンは特に「PCさえあればテレビは要らない」と考える傾向にあるからでしょう。日本でもおそらく似た傾向があるのではないでしょうか。(筆者自身もTwitch利用者でテレビが自宅にありません。)韓国ではむしろeスポーツをPCでプレイして、観戦はテレビで行うという少し不思議なeスポーツファンの行動が見られるのです。ネットの動画ストリーミングサイトが登場するずっと前からeスポーツのテレビ中継が存在していた韓国のeスポーツファンには「eスポーツはテレビで観る」習慣が今も残っているということかもしれません。

 

韓国にはもう20年近くも継続的に、テレビにeスポーツの公式試合が届けられ多くの一般家庭でそれを視聴するという状況があります。子供たちの将来の夢の上位に「プロゲーマー」が挙がり、国を挙げてeスポーツを盛り上げていこうという雰囲気があるのはそのためでしょう。

 

日本のテレビとeスポーツのこれから

eスポーツ大国2国の「テレビとeスポーツ」事情を見てきました。一方日本では、多チャンネルのケーブルテレビは主流ではなく、少数のキー局が圧倒的な影響力を誇っています。キー局は専門的な番組よりも比較的最大公約数的な関心を集める番組を制作するので、eスポーツのプロの公式試合の中継がそこで流れるというのは現状では想像しにくいです。しかし日本でも、eスポーツブームを背景としてテレビ東京系列の「有吉ぃぃeeeee!」やフジテレビ系列の「いいすぽ!」のような番組が登場し、日本テレビもマルチゲーミングチーム「AXIZ」を発足してeスポーツ事業に参入するという動きが起こっています。テレビでプロゲーマーの顔を見る機会も多くなってきました。こういった動きはeスポーツに興味のない層に影響を与え、やはり「得体の知れない何か」だったプロゲーマーのベールを外し、彼らの社会的な認知が高まっていくことにつながるのではないでしょうか。

 

 

以上3カ国の事情を見てきましたが、ケーブルにせよ地上波にせよ、テレビは家族の集まる場で観られることが多いという特性上、広い世代に対して物事を周知することになります。eスポーツ大国である米国や韓国では、やはりテレビがeスポーツの認知向上に一定以上寄与していると言えます。日本にも同様の波が訪れるか注目したいところです。

 

【参考記事】

Nielsen Report Finds that a Majority of Korean Esports Fans Watch Games on TV

eSports fans on Twitch aren’t into watching TV, says Nielsen study

Why ESPN Is So Serious About Covering Esports

ESPN secures Overwatch League broadcast rights, continuing esports’ mainstream surge

League of Legends to be broadcast on ESPN+

テレビの影響力はまだまだ強い、一方「新聞離れ」は急速に