日本でもアメリカでも、多くの人にとって「学校」はスポーツに接するきっかけを提供してくれる場所でもあります。学校におけるスポーツ教育は19世紀イギリス、主に貴族の子弟が通うパブリック・スクールで、教育者たちがスポーツのもつ教育効果に着目したところから始まったと言われています。日本の教育現場でも、明治維新の直後にはスポーツ教育が当時のいわゆる「お雇い外国人」によって導入され、今に続いています。
スポーツのもつ教育効果とはすなわち、体力づくり、チームワーク精神の醸成、向上心の刺激などのことです。スポーツにこのような「教育的効果」が期待される学校教育の場に、eスポーツが入り込む余地はあるのでしょうか? 日本でこれからどうなるかはわかりませんが、アメリカを見る限りでは答えは「イエス」のようです。”eスポーツ先進国” と呼ばれるアメリカではeスポーツが教育現場へ浸透しつつあります。
米国では475もの大学がeスポーツをクラブとして公認し、70の大学がeスポーツで実績のある学生に奨学金を出しています。高校では、「ハイスクール・eスポーツリーグ」という統括団体に800の高校から15,000人の生徒が登録しています。さらに今年から、PlayVS(プレイバーサス)というスタートアップ企業が、高校生のあらゆるスポーツ活動を統括している全米州立高校協会と組み、公共セクター主催の公式大会を開催しています。
また、学校の外でも、全世界的な熱狂を起こしているバトルロワイヤルゲーム “Fortnite” の「レッスン」を子供に受けさせる親が増えています。ピアノや水泳を習わせるのとほとんど同じ感覚です。異なるのは、遠隔地にいる先生が、オンライン通話を通じて自宅にいる生徒を指導するケースが多いという点でしょうか。ゲームの先生と生徒をつなぐマッチングサービスも年々充実しており、その中のひとつ、その名もずばり “Gamer Sensei” というサービスでは15のゲームに600人ほどの “Sensei” が登録をしており、生徒はプロフィールを見ながら先生を選ぶことができます。余談ですが、”sensei” という言葉は “senpai(先輩)” などと同じく、アニメ経由で海外でも浸透した日本語のひとつです。
上記のように、アメリカにおけるeスポーツの学校教育や教育分野でのサービス展開は目覚しいものがあります。ただ、アメリカでも現時点での主要なeスポーツ参加者は「白人またはアジア系の男性」がほとんどで、特に女性にとって排他的なコミュニティという印象を持つ人が多くいます。また、ゲームに対して「肥満の原因」「暴力的で性差別的な表現ばかり」などのネガティブなイメージが先行する人も少なくありません。
それに対して、eスポーツのもつ、これまでのスポーツにはない重要な “教育効果” を強調していこうとする動きもまた広く見られます。その ”教育効果” とはeスポーツの「プレイヤーの多様性」です。肉体的な強さがあまり関係ないeスポーツには、運動がものすごく苦手な生徒や、障がいをもつ生徒も「アスリート」として参加することができます。男女の性差に関わらずチームメイトになったり、対戦相手になったりできるのも重要な点です。現在の多様性重視のアメリカでは、これらの論点は非常に強い説得力を持つものになっています。
以上のような事情を背景に、アメリカではeスポーツがいち早く教育現場に取り入れられています。今後はアメリカのみならず他国にも同様の動きが広がることで、今まで以上にプレイヤーの裾野が広がり、既存スポーツでは見られないような多様性のあるプレイヤーやチームが登場するかもしれません。このことが、さらなる競技人口の拡大を促すことになるのではないでしょうか。
【参考記事】
Why We Need To Embrace eSports In Education
Esports encourge skills development in education
Gamers Are the New High School Athletes: The Rise of Esports
掲載日:2018年11月1日