高齢者・障がい者も楽しめる「ごちゃまぜ」の世界を目指す | 一般社団法人「UDe-スポーツ協会」インタビュー

#eスポーツ

「誰でも楽しめる」と形容されることも多いeスポーツを、本当の意味で「誰もが」楽しめるように。そんなビジョンのもと、ゲームに馴染みのない高齢者や操作が難しい障がいを持つ方でも簡単にプレイできるよう生み出されたのが、シンプルなデバイスと専用のゲームタイトルが特徴の「UDe-スポーツ」です。

 

今回はそんなUDe-スポーツを手がけ、熊本県合志市で一般社団法人「UDe-スポーツ協会」を設立した株式会社ハッピーブレインの皆さんにインタビューを実施。誰もが楽しめるeスポーツが誕生した経緯や、サービスの特徴、そして今後への展望を聞きました。

 

 

――最初に簡単な自己紹介をお願いします。

 

池田 株式会社ハッピーブレイン、並びに一般社団法人「UDe-スポーツ協会」代表の池田竜太と申します。

 元々は理学療法士というリハビリに関わる仕事を14年ほど続けていましたが、コロナ禍での失業を機に、ゲームにまつわる仕事に携わるようになりました。

 

――ゲーム・eスポーツの分野に携わるようになった経緯はどのようなものでしたか?

 

池田 始めは高齢者の方に向けた取り組みで、『太鼓の達人』や『ぷよぷよ』、『グランツーリスモ』と言った既に広くeスポーツとして親しまれているタイトルをプレイしてもらいながら「認知症予防に効果があるのか」「子供との交流になるのか」と検証する取り組みを自治体と一緒に行っていました。

 

 そうした機会を通じて、障がいを持つ方や高齢者の方にとっては、コントローラーでの操作やルールの複雑さがハードルになっていると感じました。「誰もができるゲームがあったら良いのに」と思うようになったのですが、調べてもそういったゲームは見当たりませんでした。そこで思い切って「自分たちで開発してみよう」と、生まれたのが「UDe-スポーツ」です。現在は多くの施設や自治体に導入いただけるよう普及活動を行っています。

 

――ありがとうございます。矢元さんもお願いします。

 

矢元 ハッピーブレイン、そしてUDe-スポーツ協会に所属をしております矢元洋介と申します。池田と同じく理学療法士の資格を持っていまして、10年ほど総合病院でリハビリの仕事をしておりました。

 

 臨床の現場では、意欲や目的・目標を持って運動に取り組めることが回復に繋がっているという実感がありましたが、同時に持続性や継続性を持ち続けるのは難しい問題で、「意欲につながるものがあればいいな」と、ずっと思っていました。

 

 そこで池田から声をかけてもらってUDe-スポーツに携わらせていただくようになり、今も現場で高齢者や障がいのある方にeスポーツを通して社会参加を促すお手伝いをしております。

 

――「UDe-スポーツ」についても改めてご説明いただけますか?

 

池田 UDe-スポーツは「ユニバーサルデザイン(Universal Design)」と「eスポーツ」から生まれた造語で、その名前の通り、子どもから高齢者、そして障がいのある方まで、広く参加できることを目指しています。弊社ともう1社とで共同開発した「UDe-スポーツ」を広く普及拡大していくため、2022年に一般社団法人を設立しました。

 

 特徴としては赤、青、黄色、緑の4色の大きなボタンだけで操作できること、そして本体のオンライン機能により、どこにいても対戦できることが挙げられます。2022年5月からスタートして、当初は専用のゲームタイトルが5種類だったんですが、そこから3ヶ月に1本のペースで新作を出し、現在では約24本のタイトルをプレイできるようになっています。

 

 

――「誰でも参加できる」ことを目指してオリジナルのデバイスとゲームタイトルを開発されたとのことですが、前例のないことで非常に難しさもあったのではないかと想像されます。例えば現場からは、どのようなニーズがあったのかなど、開発において重視していた点はありますか?

 

池田 今でこそさまざまな施設に導入していただいていますが、当時はそもそも”ニーズが存在していなかった”んです。

 

 最初に私たちも「誰でも遊びやすいゲームがあったらプレイしてみたいですか」と、調査を行ったのですが、返答としては「ゲームやeスポーツは若者や子供向けのものでしょう」「うちは障がい者向け・高齢者向けの施設だから難しいと思う」と言ったリアクションで、そもそも「誰でも参加できるゲーム」と聞いてもイメージが沸きにくいという印象を受けました。

 

――「ゲーム」という響きだけでハードルが高いものだという認識を持たれていたと。

 

池田 僕も10年間デイサービスで働いていましたので、高齢者がゲーム用のコントローラーで操作するのが難しいというのは理解していました。実は、僕自信もゲームをプレイするのはあまり得意ではないんですよ(笑)。僕ですら苦手意識があるのに80歳、90歳の方にとっては、なおさらハードルが高だろう感じました。それでも、「ボタンを押すだけのシンプルな手の動きなら、できるんじゃないか」と考えて、さまざまな仮定を立てながら試作品を開発し、少しずつテストを重ねていきました。

 

 

――丁寧なアプローチが必要になったということですね。

 

池田 加えて、そういった施設では法律上の制約によって、市販の家庭用ゲーム機器を常設しておくことは難しいんです。なので、施設としてもeスポーツ機器を導入するというイメージも持ちづらかったと思います。

 

――そこから実際の導入に至るまでテスト段階などもあったと思われますが、実際に現場からの反響はいかがでしたか。

 

池田 最初は言葉で「皆さんもできるゲームですよ」と説明しても、なかなかイメージしてもらえません。そこで、実際にプレイしていただこうと、試作段階のものを知り合いの施設に持って行き、体験してもらうことから始めました。

 

 ボタンの連打や色を判別して適切なボタンを押すような操作を体験してもらい、施設の方や高齢者の方々からのリアクションを見たり、感想を聞いたりしました。そうして、「これなら出来そうだな」「もっとこんなルールの方が良いな」と地道に改良を重ねていきました。

 

――矢元さんは印象に残っている反響や出来事はありますか?

 

矢元 高齢者の方もそうですが、自治体や施設の職員の方々も「eスポーツ」という言葉を聞いたことがないという反応が多かったです。ゲームを通じて競うものだと知っても「子どもがやるもの」という固定観念が強くあり、「私は見ているだけで良いです」という方が圧倒的に多くて、試しにプレイしていただくまでにもハードルはありました。

 

 また、誰もが参加できるゲームであっても、内容は勝敗が着くものなので、そうした勝負事に対して「出来ない自分」を見られたくないという自尊心もあります。高齢者の方も障がいがある方にとっても、最初は未知の世界でとっつきにくいというハードルが高かったですね。

 

――やはりハードルを乗り越えるのは容易ではなかったということですね。それでも、実際にプレイしていただいて、あるいはその姿を見てもらうことで親しみを感じてもらうことに繋がっていったのでしょうか。

 

矢元 そうですね。どんな風にお声かけをすれば「やってみようかな」と感じてもらえるか、そうした経験を積み重ねて行きました。これまで3年半ほど取り組んできた経験値によって、初めての方に向けたお声がけや、継続して楽しんでいただくためのポイントなどもだんだんと形になってきたと感じています。

 

 

――そうしたアプローチの数々が現在へと繋がっているのですね。もう3年半になるとのことですが、継続の要因になっているのはどのような点が大きいと考えていますか?

 

矢元 UDe-スポーツは、もちろん隣同士に座ってのオフライン対戦でも楽しめますが、本体にオンライン対戦の機能が備わっています。これによって気軽に外部の介護福祉施設と対戦ができる点が継続に繋がっていると感じます。

 

 外部との対戦機会があることで、次の対戦に向けて「次は勝ちたい」「また勝てるように」と練習のモチベーションにも繋がります。この目的意識を生み出せる構図が、継続して自治体や介護福祉施設でご利用いただけている要因の1つかなと感じています。

 

――本体の機能によって簡単にオンライン対戦ができるのは施設の方にとっても有難い要素ですね。対戦会の際にはビデオ通話などを使用してコミュニケーションを取られることもあるのでしょうか。

 

矢元 そうですね。ビデオ通話でお互いに顔を見ながら楽しまれているケースが多いようです。また、UDe-スポーツには、自分たちが参加できる日程をあらかじめ申し込んでおくと、システム上で対戦相手とマッチングできる仕組みになっています。

 

――自分たちが都合の良い日を登録しておけば、システムが相手となる施設とマッチングしてくれるのですね。

 

矢元 そうなんです。施設同士で日程を調整しなければならないと大変ですが、本体の機能でスムーズに対戦に参加できるようになっているのも、オンライン対戦を活用いただけている要因の一つだと思います。

 

――頂いた資料によりますと、2025年9月現在で導入施設数が180件となっており、全国大会も行われているとのことで、驚きました。この数が増えていくとさらに対戦会も活発になっていくのではないかと思われます。ちなみに、現段階では特に多く導入されている地域というのはあるのでしょうか。

 

矢元 関東、関西や東北でも、ご使用いただいてる施設は増えておりますが、我々が熊本に拠点を置いていることもあり、やはり九州が多いですね。UDe-スポーツを導入いただく経緯としてはお問い合わせをいただくだけでなく、施設さん同士でご紹介いただくケースも多くなっています。

 

池田 都道府県別では熊本がダントツですね。

 

 

――利用されている施設の声から広がっていくというのは、当初のハードルが高く感じられていた時期から考えると本当に受け入れられたことを示すエピソードだと感じます。ゲームタイトルを増やしていくにあたっては、やはり異なる遊びを追加していく狙いがあるのでしょうか。

 

池田 施設さんからは「こういうゲームがあったら良い」という要望をいただくことがあり、それに応える形が多いですね。例えば知的障がいのある方向けの施設からは「もっと分かりやすい内容や、運の要素があるものが良い」というご意見がありましたし、そうしたゲームなら軽度認知症の方でも楽しめるのではないかと思います

 

 他にもUDe-スポーツは2人対戦が基本ではありますが3~4人、あるいはもっと大勢で一緒に出来ればという声もあり、多人数対戦も追加しました。最近ですと、対戦ゲームを遊ぶ前の「集団レクリエーション用」と言いますか、「今日は何月何日でしょう」「この漢字は何でしょう」といったシンプルな質問に答えるような遊びも追加しています。

 

――よりUDe-スポーツ本体ひとつでレクリエーションが完結するようになっているのですね。今後に向けてさらに改善していきたいと考えている点や、現在課題を感じている点があれば教えていただきたいです。

 

矢元 UDe-スポーツは1分程度で遊べるようなミニゲームが多くなっているのですが、それをまとめることでもっとボリュームを持たせる仕組みができたらとは思っています。「運動の次はUDe-スポーツ」と、セットメニューのようにプレイしていただける感覚ですね。

 

 課題としては、やはりオンライン対戦となるとネットワーク機器などの扱いに、苦手意識を持つ職員さんに敬遠されがちな面もあると感じています。その楽しさや魅力、気軽に参加できる点などを上手くお伝えしながら、少しづつ参加していただけるように進めていきたいなと考えています。また、UDe-スポーツには「レポート作成機能」という、利用者さんの得点推移などを管理できる機能もありますので、そちらをうまく活用いただけるケースが増えてくると、より差別化にも繋がってくると思います。

 

――ゲームだけでなくそうした機能も盛り込まれているのですね。元々おふたりとも理学療法士として働かれていたところから、UDe-スポーツ専用のゲーム開発をされるようになったという点も興味深いのですが、技術面を担当されるエンジニアさんを含め、どういった体制になっているのでしょうか。

 

池田 ハッピーブレインという会社がスタートしたのは6年前なのですが、当時は技術的な知識も経験もなく、「誰もが参加できるゲームがあって、それが広がれば仕事になるかもしれない」と、ビジネスピッチコンテストに参加するなどして可能性を探っていました。

 

 そんな中でご縁があり、フィットネスジムを経営されている会社の方が、ハッピーブレインの理念に共感してくださり、「それなら、UDe-スポーツ協会を作りましょうか」という話になりました。

 

――おふたりは会社としては「ハッピーブレイン」の所属ですが、協会があるのはそうした経緯からなのですね。

 

池田 そしてIT企業の「ユニアデックス株式会社」さんとも出会えたことで、最初の設計段階をエンジニアさんに手伝っていただくこともできました。そこからは弊社でもプログラムできる人材を雇用し、他にもイラスト担当の方などを含め、分担しながら、少しずつ開発を進めているという体制になります。

 

――UDe-スポーツは先日開催された「東京eスポーツフェスタ」にも出展されており、ゲームそのものだけでなく、ハンディキャップのある方でもゲームを楽しむための特殊なデバイスも展示されていたのを拝見しました。イベントで多い反響や印象に残っているものはありますか?

 

矢元 多いのは「自宅でできないですか?」というご相談をいただくことですね。ですが、UDe-スポーツは企業や施設向けのサービスとして展開していますので、近くの施設や自治体にご要望いただければ、というのが現状の回答になりますね。

 

――今後はそうしたイベント出展も含め、認知を拡大していくステップにあるのかと思われます。改めて、今度のUDe-スポーツがどういったところを求め、どのようなサポートを求めているかについて教えていただけますか。

 

池田 まずは「導入施設をもっと増やしたい」というのが一番ですね。キャッチフレーズとしても掲げているのですが、UDe-スポーツは「ごちゃまぜの世界」を作りたいという想いから開発を始めたものです。高齢者施設や障がい者施設だけでなくお子さんにも楽しんでいただいていますし、最近では「言葉が分からなくても遊べるのではないか」と考え、台湾の大学生の方にも体験していただくなど、様々な層に向けて試しています。

 

 年齢や性別、障がいの有無だけでなく国籍も超えて遊べることが分かってきましたので、さらに多くの福祉施設や自治体で活用していただきたいです。これによって今まで出会えなかった人たちと交流するきっかけになり、それを機に皆さんが何か新しい挑戦が出来るようになっていけば良いなと思いますね。

 

 

――矢元さんはいかがでしょうか。

 

矢元 池田と近い内容にはなりますが、やはりまだUDe-スポーツのことを知らない施設には、是非知っていただきたいですね。どうしても施設におけるレクリエーション活動はマンネリ化していることも多いと思いますので、UDe-スポーツがその選択肢のひとつとして当たり前になっていくと良いなと思っています。

 

 全都道府県を繋ぐことができれば本当にすごいことですよね。気軽に「隣の地域と対戦しようかな」という機会を通じて仲が深まり、実際にオフラインで会う機会のきっかけになって……という形で、UDe-スポーツが繋がるためのひとつのツールになってくると、より一層色々な世界が見えてくるのかなと、現場を見ながら思っています。

 

――ありがとうございます。東京eスポーツフェスタでも多くの人が対戦に熱中されていたのが印象的でした。ルールやデバイスがどれだけシンプルに落とし込まれていても「eスポーツ」であることには間違いないのだなと感じました。

 

 

池田 今の時代は最新グラフィックのタイトルが人気で、中には「これこそがeスポーツだよね」というイメージを持たれている方も多いと思いますが、定義を考えればUDe-スポーツもeスポーツであることは間違いありません。

 

 実際にやってみると高齢者や障がい者の方に限らず楽しめるもので、実際に専門学校の授業で中高生に体験してもらっても最高得点を目指して何度も何度も挑戦するくらいには競技として盛り上がるんです。

 

 「高齢者や障がい者の人たちだけが楽しむゲームじゃないんだ」というのは私たちも取り組んでみて気付けたところですし、「もし世界大会をやったら、どこかの国のすごいプレイヤーがとんでもない記録を出すかも知れない」と想像するのも面白いですよね。そのためにも、より多くの人に知ってもらって、色々な人に触ってみていただきたいです。

 

矢元 そうですね。「簡単すぎるんじゃないか」とか、あるいは逆に「高齢者や障がい者には難しすぎるのでは」と言われることもあるのですが、よく知っていただければ見え方も変わると思います。

 

 色の認識ができてボタンが押せれば全ての方に楽しんでいただけるものだと思っていますので、そこがうまく伝わるような仕掛けが今後できればと思いますし、いずれUDe-スポーツのプロ選手ができるくらいになっていけばとも思っています。

 

――eスポーツはまだ始まったばかりの文化でシニア部門やパラ部門もあまり整備されていないと言えますが、UDe-スポーツさんの取り組みも含めてそうした領域が広がっていけば業界全体にも良い影響があるのではないかと思います。興味深いお話をありがとうございました!

 

株式会社ハッピーブレイン 公式ホームページ

https://hb-e-sports.com/

一般社団法人UDe-スポーツ協会 公式ホームページ

https://ude-sports.com/

関連する記事