プロ野球における巨人と阪神の“伝統の一戦”や、サッカーにおける“ダービーマッチ”など、スポーツの世界ではライバル関係にあるチーム同士の対戦は注目を集め、ファンも選手も一層盛り上がるカードになります。
ライバル関係の発端は「同じ地域や都市を本拠地とするチーム同士」というものから「親会社が同業種」のようなケースもあり、時には特定の試合やシーンをきっかけに因縁が生まれることも少なくありません。
今回は、そんな注目の対決や因縁の対戦カードなど、独自の関係性が築かれているeスポーツ界のライバル関係について見ていきましょう。
冒頭では同地域チームによる対決がダービーとして注目されるスポーツの例を紹介しましたが、eスポーツにおいては特定の地域に完全に根差して活動するチームは多くなく、国内チームの対戦で「東京ダービー」「大阪ダービー」としてフォーカスされるケースはあまり存在していません。
しかし、グローバルな視点で見ると、実は強烈なライバル関係を持つ地域が存在します。それが「欧州(EU)」とアメリカを中心とする「北米(NA)」であり、両地域はeスポーツ黎明期からシューティングゲームジャンルを中心に鎬を削ってきたことから、現在でもお互いに強いライバル意識を持っています。
ひとたび国際大会で対戦するとなればその勝敗ひとつでコミュニティは大きく盛り上がり、チーム単位だけでなく地域単位で「その大会でどちらが優れた成績を収めたか」という視点もファンの情熱は注がれます。エンターテイメントとしての“煽り”が行われる文化もあり、「NA vs EU」は他地域のファンからも熱視線が注がれるライバル関係の構図になっています。
他にライバル関係が成立する要因としては、劇的な決着や名勝負などの印象的な試合を機に“因縁の対決”として取り上げられるケースがあります。特に選手の競技寿命が長くなく、移籍による入れ替わりも激しいeスポーツ界では、チーム単位よりも個人戦の競技の方が長期に渡ってライバル関係が維持されやすい傾向にあります。
特にベテランプレイヤーが多く活躍している格闘ゲームジャンルでは数年、もしくは数十年に渡って繰り返されている顔合わせも少なくありません。しかし、格闘ゲームの大規模なトーナメントとなると参加者数が膨大なため大会が進行するまでどのようなマッチアップになるか読みづらく、対決が実現した場合であっても2本先取や3本選手先取といったトーナメント向けの短期決戦では、完全に決着したという印象にまでは至りません。
そのため、時には「現時点でどちらが優れているか」をはっきりさせるべく、非公式試合として10本先取など長期戦の対戦が行われることがあります。過去にはトッププレイヤー同士の対戦がイベントとして実施・配信されたこともあり、どこか古めかしい決闘のような雰囲気を持った、格闘ゲームならではの文化と言えるでしょう。
さまざまなバックボーンで生まれるライバル関係には、“eスポーツらしい”ケースも存在します。国内ではVodka氏がオーナーを務める「RIDDLE ORDER」と、加藤純一氏がオーナーを務める「MURASH GAMING」という、共にゲーム配信で活動するインフルエンサー同士の対決構造が有名です。
両チームはタクティカルFPS『VALORANT』の国内大会にエントリーしており、ともに日本有数の実力あるチームとして実績の面から見ても好カードと呼ぶにふさわしく、この両チームの対戦は大いに白熱します。両オーナーがSNSなどでトラッシュトークを繰り広げたり、試合の模様を同時視聴するウォッチパーティ配信を行ったりという光景も、eスポーツならではと言えるでしょう。
また、韓国では携帯電話事業者「SK Telecom」が所有するチーム「T1」と、同じく通信事業者である「KT」が保有するチーム「KT Roster」の対戦も有名です。通信事業者同士、というeスポーツらしいデジタルな背景を持つこの対戦カードは「テレコムウォー」と呼ばれ、ストラテジーゲーム『StarCraft』や『League of Legends』のリーグにおいて長らくライバル対決の様相を呈してきました。
この「テレコムウォー」のように、複数のタイトルで活動しているeスポーツチームが多くなっている昨今では、異なる部門で同じ対決が発生する可能性があるというのも、eスポーツならではの面白さです。週末になるとさまざまなタイトルで大会が同時に開催されていることもあり、同日に別タイトルで同じ顔合わせが実現し、一方のタイトルで敗れたチームが数時間後に別タイトルでリベンジを果たす、というユニークな構図も見られました。
ライバル関係は直接対決だけでなく選手の移籍やチーム間の成績を巡ってもファンが楽しめる、競技におけるエンターテインメント性を大きく盛り上げる重要な魅力のひとつ。リアルとバーチャルが混ざり合うeスポーツならではの文化は、今後もさまざまな発展の可能性を秘めています。
スペインの名門サッカークラブ「バルセロナ」と「レアル・マドリード」の対戦はサッカー界でも最大のライバル対決「クラシコ」として世界的に注目を集めますが、実はバルセロナは近年eスポーツ部門が大きく成長を見せていることでも知られています。レアル・マドリード出身の選手がオーナーを務めるeスポーツチームも登場しており、将来的にはeスポーツ版の「クラシコ」が実現し、より大きな注目を集めるようになるかもしれません。