近年、サーバーやネットワークなどのインフラ構築・管理をコードを用いて自動化する「Infrastructure as Code(IaC)」が注目を集めています。
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するなかで、IaCはビジネスの環境変化に柔軟に対応するために欠かせない存在となりつつあります。
ここでは、IaCの概要や、導入のメリットや注意点、代表的なツールを紹介します。
Infrastructure as Code(IaC)とは、インフラ構築をコード化して自動化する手法です。
これまで、サーバー上でWebサービスなどを提供するためには、必要なソフトウェアのインストールや、さまざまな設定を行う必要がありました。そのサービスが複雑化すれば、必要なソフトウェアや設定の手間も増えます。
しかし「IaC」では、インフラ構築をプログラムコードを通じて行うため、同じ環境を素早く展開できるようになりました。また、テンプレートなどの利用も可能になるため、人力での作業を減らし、作業時間の短縮やミスの削減なども可能になります。
近年、あらゆる機器のIoT化やDXが進んだことで、ITインフラの利用は増大しました。しかし、その分だけITエンジニアが増えたわけではなく、すべて手動で管理することは大きな負担です。そこで、新たな手法としてIaCによる自動化が必要とされた背景があります。
従来のインフラ管理方法では、手動で行うことが多く、設定ミスや作業の遅延が発生しやすい問題点がありました。しかし、IaCを導入することで、こうした点を改善できます。
また、近年普及しつつあるクラウド環境では、サービスの拡大に伴って柔軟にスケーリングすることが一般的ですが、IaCであればこうした状況にも対応しやすくなります。
IaCを導入することで、業務効率や品質の向上、ミスの抑制やコストの削減が期待できます。ここでは4つの代表的なメリットについて解説します。
IaCを導入することで、簡単なコマンドの入力や、ワンクリックで複雑な環境を構築できるようになります。ソフトウェアのインストールなどの手間を大幅にカットでき、インフラ構築にかかる時間を短縮できます。
インフラがコード化されるため、再利用も可能になります。連続して同じインフラを複数立ち上げるようなケースで、特にメリットが大きくなるでしょう。また、トラブルがあっても、バージョン管理ソフトを用いて過去の状態に戻せます。
IaCでは、同じ構成ファイルを適用することで、テスト・ステージング・本番など複数の環境をほぼ同一の設定で用意できます。
また、テンプレートも利用できるほか、一度使ったコードを繰り返し利用可能です。こうしたあらゆる省力化、自動化により、ヒューマンエラーが起こりづらくなります。
IaCを導入してインフラ構築を自動化することで、ソフトウェアのインストールや、設定の変更など、これまで手作業で行っていた作業をカットできます。
これにより、規模が大きくなっても少ない人数で管理しやすくなり、手順書なども簡略化できます。無理なく人的コストを削減できるでしょう。
また、インフラ展開や変更もスピーディーに行なえるようになるため、クラウドリソースを無駄なく使えるようになり、長期的な運用コストの削減も可能になるでしょう。
IaCでは、ソフトウェア開発と同様にコードレビューのプロセスを導入できます。これにより、間違いが発見しやすくなり、誤った設定が大規模に展開されることを防げるでしょう。
また、バージョン管理ソフトで設定の差分を簡単に確認できるので、障害時の原因究明や復旧作業もスムーズになります。
IaCを活用することで、新たなサービスをこれまでより短い時間で提供できます。これは、システムを「モジュール」と呼ばれる小さな単位で構成し、そのモジュールを組み合わせることで可能になります。
環境の構築が柔軟にできるようになり、顧客の要望や時代の変化に対応しやすくなるため、Webサービスを提供する事業者にとって大きなメリットとなるでしょう。
IaCはメリットがある反面、注意すべき点もあります。ここではIaC導入の際の主な注意点について解説します。
IaCを導入するためには、既存のインフラをコード化するために現状の設定情報を整理したり、テンプレート化したりといった作業が必要になります。
そのため、単発の小規模なプロジェクトだけでは却ってコストが高くなってしまいます。大規模なプロジェクトや、長期プロジェクトにおいて運用効率化を目指す場合にこそ、IaCの価値が高まります。
IaCを使いこなすためには知識が必要です。ITエンジニアは新たなスキルを習得する必要があり、それには一定の時間がかかります。
また、既存システムをコード化するにはチーム全体でスキルを習得する必要があるほか、DevOpsやCI/CDといった新しい開発手法に関する知識も必要となるため、導入時のハードルは高くなりがちです。
IaCを導入し、インフラをコードで管理する場合、従来は簡単にできた設定変更に時間がかかるケースがあります。1コマンドだけの実行、1ファイルだけの変更でもコードを触る必要があるため、煩わしく感じるケースもあるかもしれません。
しかし、その後の管理のしやすさを考えると、トータルでの時間は削減できると考えられます。
IaCを活用するために、企業ではさまざまなツールが利用されています。ここでは、代表的なIaCツールを紹介します。
Terraformは、オープンソースのIaCツールです。クラウド・オンプレミスを問わず、あらゆるインフラリソースをコードで管理できます。AWS、GCP、Azureといった主要クラウドサービスにも対応しており、マルチクラウド環境の管理にも適しています。
Pulumiは、JavaScriptやTypeScript、Python、Goなどのプログラミング言語でインフラを構築・管理できるIaCツールです。インフラとアプリケーション構築の言語を統一できるほか、Terraformのように宣言型ではなく、命令的なロジックも含めた柔軟な構成が可能となり、よりプログラミングに近い操作性が特徴です。
https://aws.amazon.com/jp/cloudformation/
AWS CloudFormationは、AWS環境に特化したIaCツールです。JSONまたはYAML形式のテンプレートを使って、AWSリソースの構築・更新・削除を自動化できます。AWS以外には対応できないものの、AWSサービスとの親和性は非常に高く、サポートも充実している点が強みです。
https://azure.microsoft.com/ja-jp/get-started/azure-portal/resource-manager
Microsoft Azureのリソースを一元的に管理・デプロイするためのIaCツールです。テンプレートを使用して、仮想マシン、ストレージ、ネットワークなど複数のリソースをまとめて構成・管理できます。Azure専用である分、各種機能との統合性に優れています。
https://www.redhat.com/en/technologies/management/ansible
Ansibleは、エージェントレスで動作する構成管理ツールで、パッケージのインストールや設定変更などを自動化できます。学習コストが比較的低く、導入が手軽と評価されており、IaC導入の第一歩として採用されるケースが多くなっています。
Chefは、RubyベースのDSL(ドメイン固有言語)を用いて構成管理を行うツールです。サーバークライアント型のアーキテクチャで、複雑かつ高度なカスタマイズが求められる大規模な環境に向いています。柔軟な記述ができる一方、学習コストはやや高めです。
Puppetは、宣言型の構成記述が可能な構成管理ツールです。ITインフラをコードで管理する思想をいち早く取り入れたツールで、歴史と実績が豊富。特に、大規模運用での安定性に定評があります。定期的に設定の整合性を確認・修正する仕組みがあることも特徴です。
Kubernetesは、コンテナ化されたアプリケーションを自動でデプロイ・スケーリング・管理するためのツールです。厳密にはコンテナオーケストレーションのためのツールですが、YAMLファイルによる構成定義という点でIaC的な側面があります。
マイクロサービスアーキテクチャや、CI/CDとの相性が良く、クラウドネイティブでの運用において不可欠な存在となっているツールです。
Infrastructure as Code(IaC)は、インフラ構築の効率化や品質向上、ヒューマンエラーの防止といったメリットがあり、現代のITインフラにおいて欠かせない手法となっています。特に、クラウド環境の普及が増える中で、その重要性はますます高まっています。
導入には一定の準備・学習が必要ですが、長期的には作業の自動化やコスト削減といったメリットが期待できます。自社の目的や規模に応じて適切なツールを選び、段階的にIaCを取り入れていくことが、持続可能で柔軟なシステム運用につながるでしょう。