驚くほどのスピードで発展するAI技術。多くの企業がAI導入を検討していますが、活用が広がると同時に、専門知識や開発リソースの不足が課題となりつつあります。
解決策の一つとして注目されているのが「AIプラットフォーム」です。AI開発を効率化し、場合によってはノーコードでの開発が可能となるなど、今後のAI開発にはなくてはならない存在として注目されています。
今回は、AIプラットフォームの概要や主な機能、活用方法などを解説。さらに、代表的なサービスについても紹介します。
AIプラットフォームとは、AI開発に必要なツールやデータがまとめられたプラットフォームのことです。
AIの開発・管理に必要なツールやフレームワークなどが統合されており、データの取り込みやモデルトレーニング、デプロイなどの要素を一元化することで、複雑なセットアップが不要となります。
AIプラットフォームを利用することで、開発者はコアの部分の開発に集中しやすくなり、開発スピードの向上や、開発コストの削減が可能になります。
AIプラットフォームには総合型と特化型があり、開発ニーズに応じて選択できます。
総合型プラットフォームは、AI開発に必要となる機能やツールがすべて用意されているプラットフォームサービスのことです。
提供されている機能を組み合わせることで開発が進められるため、柔軟な開発が可能となっているほか、AI開発経験が浅いチームでも開発が進めやすくなっています。
特化型AIプラットフォームは、高度な専門性が求められる分野で活用するためのAIの開発に特化したプラットフォームです。例えば医療分野の画像診断、小売・物流の在庫管理、金融の審査プロセスなどが該当します。
総合型より開発対象の範囲は狭いものの、分野に特化した機能や学習モデルが組み込まれており、精度の高いAIを効率的に導入できる強みがあります。
AIプラットフォームは、データ処理からモデル構築、継続的な改善などをサポートする機能を備えています。ここでは代表的な機能を紹介します。
AIの性能は学習したデータに左右されます。そのため、高品質な学習データを大量に用意することが大切です。そこでAIプラットフォームは、外部ツールや既存システムと連携してデータを収集できる仕組みを提供しています。
また、収集後の前処理(欠損データの補正など)を効率化する機能も重要となります。こうしたプロセスを簡単に行えると、開発担当者の負担を大幅に軽減できるのです。
AIプラットフォームでは、さまざまなアルゴリズムやライブラリを活用しながら、学習データをもとにAIモデルの構築を行います。また、画像認識・自然言語処理・予測分析など、目的に応じた手法を選択できる点も強みです。
AIモデルの構築後は、用意したデータでトレーニング(学習)し、テストを行いながら精度を高めていきます。専門的な知識がなくても、GUI操作によりコードを書かずに設定を行えるプラットフォームが増えています。
AIは、一度モデルを構築したら終わりではありません。新しいデータを取り込み、再学習を行うことで精度を維持・向上させる必要があります。
AIプラットフォームの中には、新しいデータの追加や環境の変化に対応して、モデルを自動的にアップデートできる機能を備えるものもあります。ビジネスで求められるものが目まぐるしく変化する現代では、再学習を効率よく回していける仕組みが不可欠といえるでしょう。
AIプラットフォームを活用することで開発効率の向上とコスト削減を同時に実現できます。ここでは、主なメリットをみていきます。
AIプラットフォームを利用することで、サーバーやライブラリなどを構築する作業を省略できます。
初期セットアップの時間を大幅に削減し、すぐにモデル開発に取りかかれるため、AI導入までの開発スピードを大幅に早められます。
AI開発を自社でゼロから行う場合、AIエンジニアの人件費やインフラ整備費用が膨らみがちです。しかし、AIプラットフォームを利用すれば、大幅に開発コストを削減できます。
AIプラットフォームには、AI開発に必要なインフラやツールが集約されており、利用するプラットフォームや開発内容によっては、AIエンジニアが不要となるケースすらあります。
また、クラウド型であれば従量課金制が多く、利用分だけのコストで済むこともメリットです。
AIプラットフォームを利用すると、エンジニアの人件費やインフラ整備費用が最小限で済むため、小規模からAI開発をスタートできます。
AIプラットフォームを利用して開発を進め、検証用のプロジェクトで効果を確認してから、本格導入へシフトするなど段階的にAIを活用できます。
いきなり大規模な開発を行うことが難しいケースでも、スモールスタートが可能なら、少ないリスクでチャレンジできるはずです。
AIやプログラミングに関する専門知識がなくても、AIプラットフォームであれば、GUI操作やドラッグ&ドロップでモデル構築が可能なものも存在します。
まとまった予算の確保が難しい場合や、エンジニアが不足している場合、または技術者のリソースを他業務に充当したい場合でも、比較的スムーズにAI導入を実現できるはずです。
多くのAIプラットフォームは、提供事業者が定期的に機能追加やバージョンアップを行っています。
自社でゼロから独自開発を行った場合と異なり、常に自動的に新しいAI技術を取り入れられるため、最新機能をタイムラグなく活用できることも魅力です。
ここでは、代表的なAIプラットフォームを紹介します。
https://www.ibm.com/jp-ja/watson
IBM Watsonは、高度な自然言語処理とデータ分析を得意とするAIプラットフォームです。問い合わせ対応向けのWatson Assistantや、ドキュメント解析のWatson Discoveryなどの多彩なサービスがあり、業務課題のスムーズな解決が期待できます。
また、IBM CloudやCloud Pak for Dataとの連携により、ビッグデータの活用やAIモデル運用の効率化も可能。総合型のAIプラットフォームとして、医療や金融など多様な業界で導入実績があります。
https://aws.amazon.com/jp/sagemaker/
Amazon SageMakerは、AWS(Amazon Web Services)上で学習から推論まで一括管理できるAIプラットフォームです。あらかじめ最適化されたアルゴリズムが豊富に用意されているため、AIがはじめての企業でも開発がしやすくなっています。
また、Amazon S3やAWS GlueなどのAWSの他サービスと連携しやすくなっており、機能の拡張や、大規模データへの対応も可能です。すでにAWSを利用している企業にとって、特に導入しやすくなっています。
https://cloud.google.com/ai/generative-ai?hl=ja
Google Cloud AIは、Googleのクラウドコンピューティングサービス「GCP(Google Cloud Platform)」上で提供されるAIプラットフォームです。画像認識や音声認識、翻訳など、Googleの豊富な技術を簡単に導入できます。
BigQueryやDataflow、Vertex AIなどのツールを組み合わせれば、大規模データの高速分析やAIモデル開発の効率化が可能です。Google Workspaceとの親和性も高いため、企業内のコラボレーション強化にも役立つでしょう。
https://azure.microsoft.com/ja-jp/products/ai-foundry
Microsoft Azure AI Foundryは、多彩なAIサービスを提供するプラットフォームです。ノーコードで機械学習モデルを構築できるツールや、高度な画像・音声解析を行うAPIなどが用意されています。
Microsoft Office 365や、Power Platformとの連携も可能で、ExcelやPower AppsからAIモデルを活用するなど、日常業務への取り込みがスムーズなことも特徴です。
金融分野など、セキュリティやコンプライアンスが厳しい分野での導入事例が多くなっています。
DataRobotは、自動機械学習(AutoML)の代表格といえるサービスです。
豊富なアルゴリズムが用意されており、未加工データを機械学習モデルで使用できるように変換する「特徴量エンジニアリング」を自動で試行できるほか、操作画面が直観的で、専門知識が少なくても最適なAIモデルを短期間で構築できることが強みとなっています。
AIモデルのモニタリングや再学習を支援するMLOps機能も充実しており、既存のシステムとも連携しながら、継続的にAI活用を進めることが可能となります。
https://www.salesforce.com/jp/artificial-intelligence/
Salesforce Einsteinは、クラウドベースの顧客関係管理(CRM)ソフトである「Salesforce」上の顧客データや営業履歴をAIで分析し、最適なアクションを提案してくれるAIプラットフォームです。
Sales Cloud、Service Cloudなど他のSalesforceサービスとシームレスに連携でき、IT部門を介さなくても導入しやすい点などが評価されています。営業部門主導で営業効率を高めやすいことが特長です。
ソニーのNeural Network Consoleは、ディープラーニングをノーコードで設計・テストできる環境として注目されています。
GUIにより直感的にAIモデルが作れるため、ディープラーニング初心者にも扱いやすいほか、スターターパックや研修プログラムが用意されており、社内人材の育成にも活用しやすくなっています。
ソニー独自のIoTソリューションや他社デバイスとの連携を行うことで、映像・音声など幅広いセンサー情報を組み合わせた解析にも対応できます。
AIプラットフォームの導入前に、技術要件や拡張性、依存度について十分に検討することが成功の鍵となります。主な注意点について解説します。
ノーコード・ローコードでの開発が可能なAIプラットフォームが増えており、AIエンジニアがいない場合でもAI開発が可能となるケースがあります。
しかし、複雑な要件に対応する場合はカスタマイズが必要になり、AIや機械学習の専門知識が必要になります。導入前に、エンジニアのリソースがどの程度必要かを見極めることが重要です。
プラットフォームごとに強み・弱みが異なります。例えば特定の分析機能に優れる一方で、他の機能が不足している場合もあります。
そのほかにも、カスタマイズの自由度が低いプAIプラットフォームであれば、導入後に「こんな機能もほしかった…」と後悔することになるでしょう。事前の比較検討をしっかり行いましょう。
AIプラットフォームには必要なツールやデータがまとめられているため、そのプラットフォームを提供している事業者のサービスに依存します。
こうした状況をベンダーロックインといい、そのベンダーのアップデート方針やサポート体制に大きく左右されるリスクがあります。
将来に他のプラットフォームへ移行しづらいケースも考えられるため、そうしたリスクを把握したうえで導入を判断しましょう。
AI開発の効率化とコスト低減に貢献するAIプラットフォーム。導入する際は、他サービスとの連携や、専門知識の必要性、ベンダーロックインなどのリスクも考慮しつつ、種類や機能を理解し、自社のニーズに合ったプラットフォームを選定することが重要になります。
AIの進歩は驚くほど早いため、AIプラットフォームを積極的に活用し、乗り遅れないことが大切です。スモールスタートできる特性を活かし、段階的に導入を進めることで、これまでにない事業展開も可能になるでしょう。