高校生大会の浸透など、徐々に拡大を続けているアマチュアeスポーツシーン。特に大学生の活躍の場は、 “部活動”という共通の枠組みがなくなることで、自主的な活動の幅が広がり、さまざまな発展の可能性を秘めています。
そんな大学eスポーツシーンより、今回は全国の大学eスポーツサークルが集まるコミュニティ・学生団体である「esports campus summit」の皆さんにインタビューを実施。
2025年3月には全国のeスポーツサークル最強を決める『VALORANT』の大会「VALORANT CAMPUS SUMMIT 2024」を2年連続で開催するなど、学生シーンを牽引する団体の現在や感じている課題、そして今後の目標など、学生だけで運営される組織ならではのリアルな現状を伺いました。
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――最初に皆さんの自己紹介からお願いします。
浅見 「esports campus summit(以下、ecs)」の代表をしている浅見と申します。大東文化大学4年生で大東文化大学のeスポーツサークルでも副代表を務めています。
ecsでは、主にサークル同士の交流を含めたコミュニティに関わる活動を担当しており、コミュニティの中での問題点の洗い出しや、相談窓口としての役割をメインに行っています。
――ありがとうございます。お二方もお願いします。
竹村 私は東京科学大学3年生の竹村と申します。ecsでは主に大会の企画・運営といった競技周りを担当しています。
大会開催の際は、当日の配信や運営、そして選手対応といった部分が求められるので、主にその運営部分を管轄しています。普段は浅見さんのサポートをさせていただいています。
遠藤 ecsで運営を行っている、遠藤です。明治大学eスポーツサークルにも所属しており、ecs立ち上げ前の「esports早慶戦※」を運営していた頃からメンバーとして参加しています。今年、大学4年生なので大学ラストイヤーをecsに捧げるつもりで活動しています!
※2023年9月第1回が行われた、早稲田大学esportsサークルと慶應大学のeスポーツサークルによる対抗戦。2024年9月に第2回を実施。
――ありがとうございます。まずは「そもそもecsとはどんな団体なのか」について伺っていきたいのですが、いつ頃どういう経緯で生まれた団体なのか、改めてご説明いただけますか?
浅見 ecsは遠藤の話にもあった通り、「esports早慶戦」のための団体が前身になっています。野球や駅伝など、大学スポーツが行われている早稲田大学と慶応大学の対抗戦をeスポーツでもやろうという企画から始まり、当時の代表、つまり私の前の代表が「他の大学も巻き込んで、もっと大きな学生eスポーツの大会を開きたい」という想いから、複数の大学が参加するecsを作った、というのがスタートです。
組織の体制としては参加してくれている大学のeスポーツサークルの代表や担当者、あるいは大会運営に興味がある方など、モチベーションのある人たちが集まって、普段は定例会のような場で学生コミュニティのために活動しつつ、大会の開催運営も行っているような形になります。
――現在参加されてる大学の数はどれくらいでしょうか。
浅見 およそ15~20校ですね。
竹村 基本的には、各大学のeスポーツ系サークルの代表者が中心となっていますが、サークルを通じて大会運営に興味がある人を募集しているので、そうしたルートで参加してくれている人もいます。僕も校内のeスポーツサークルにはあまり参加していないのですが、声をかけていただいてecsで活動するようになりました。
――大学内のeスポーツサークルに参加しているからと言って、全員がecsの活動に携わる訳ではなく、また個人でも参加できるということなんですね。
竹村 そうですね。ecsとしてのメインはどちらかといえば大会運営よりも浅見さんが中心となっている代表同士での話し合いや協力活動にあると言えます。
――普段の活動について、より具体的にどのようなことに取り組んでいるのか教えてください。
浅見 2025年3月には「VALORANT CAMPUS SUMMIT(VCS)2024」という大会を開催・運営しました。普段は代表者が集まり「うちの大学サークルはこんな問題があって解決に悩んでいるんだけど、他のサークルはどうやってますか?」という相談や、あるいは「今度こんなイベントをやりたいので、手伝ってくれる大学さんいませんか?」といった具合に、みんなで相談して問題を解決しあっていく場としての活動が中心です。
今は新年度になったばかりということもあり、ecsに参加しているサークルで合同新入生歓迎イベントとして『VALORANT』の交流戦をしよう、という企画も進んでいますね。
📢【VCS Welcome Party開催!】📢
ecs加盟サークルによる
合同新歓カスタム企画開催!各チーム新規部員(学年不問)が2名以上でエントリー
レートごとに3~4チームに分かれて
リーグ戦での開催🥳
各リーグ1位に輝くのはどのチームだ!💥#VCS #大学対抗 pic.twitter.com/5BlhRLkJwW— esports campus summit (@ecsummit000) May 25, 2025
――確かに新入生歓迎会は大学らしいイベントのひとつですね。ちなみに、サークルから寄せられる相談や悩み事はどのような内容が多いのでしょうか。
浅見 状況や学校によってさまざまですが、僕が受けた相談ですと、サークルの人数が減少していることに危機感を持っているという大学の方から「盛り上げるためにどうしたらいいか」という相談がありました。サークルごとに直面している問題は違っていて、幅広い相談があります。
竹村 ちょうど3月頃の会議では「新歓イベントで入ってきてくれた新入生を定着させる方法はなんだろう」というような話をしていて、それが先ほどの合同イベントのアイデアに繋がっていますね。「大学対抗で活動すればチーム内で仲間意識が生まれて良いのではないか」と話し合った記憶があります。
――かなり自由度が高く活動されているということですね。ecsの活動における目標はどのようなものでしょうか。
浅見 「学生でeスポーツを頑張ってる人がいるんだよ」と、世の中の人にもっと知ってほしいですね。その手段として、活躍の場である大会を毎年定期的に開催していくこともそうですし、もっと学生eスポーツが注目されるための土壌作り、土台作りが当面の目標だと考えています。
――学生eスポーツについては高校生向けの大会が盛り上がっている一方で、大学生、あるいは20歳を超えたプレイヤーになると「出場する大会がない」という状況にあると聞いたこともあります。
浅見 おっしゃる通りで、高校生のeスポーツシーンは出来上がってきています。社会人eスポーツも「AFTER 6 LEAGUE」というリーグが行われてきました。対して、大学生のeスポーツシーンはまだまだ確立されていませんので、我々が適切な大会・活躍の場を確立できたらと強く思っています。
――非常に意義ある取り組みだと感じます。皆さんは現役大学生でありながら、そうした目標を持って活動されていますが、どのような経緯でeスポーツそのものや大会運営、コミュニティ発展といった活動に興味を持ったのか。そしてecsに参加するきっかけは何だったのか、教えていただけますか?
浅見 僕がeスポーツに興味を持ち始めたのは高校2年生ぐらいの時で、アマチュアチームのマネージャーをやるところから運営に携わるようになりました。大東文化大学に入学した時点ではeスポーツサークルが存在しなかったので、1年生の11月に立ち上げて、今年は4年目に入りました。
そのサークルで大会に参加したり活動をしていたところ、先代の代表に「ecsという団体を立ち上げようと企画しているから、大東文化大学のeスポーツサークルも参加しないか」と声をかけていただいたのがecs参加のきっかけです。
――高校生の頃から活動されていたというのは、すごいバイタリティですね。竹村さんはどうでしょうか。
竹村 僕は少し変わった話になると思うのですが、昔からゲームで遊ぶのがずっと好きでしたし、同じくらいゲームを観るのも好きでした。中学生になってからは『PUBG』などのeスポーツリーグもスタートしたのでその観戦にハマって、次第に「自分でも大会を開きたいな」と考えるようになり、中学3年生の頃には1人で大会を開いたこともあります。
そこから段々と大会運営の手伝いなどをさせてもらうようになり、大学に入ってからも自分の大学でeスポーツ大会を開いていたところ、先代の代表に「よかったら一緒に大会運営をしないか」と声をかけていただきました。僕としても「なんか面白そうなイベントをやっているな」と思ったので是非にという気持ちで参加させていただき、今も携わっているという感じですね。
――中学生の頃からとなると、まだ大学3年生でありながら、“大会運営歴”は結構なものになりますね。
竹村 そうですね、もう結構長いです(笑)。
――すごい経歴ですね。遠藤さんはどうでしたか?
遠藤 本格的にeスポーツ運営のような部分に関わったのは高校3年生が初めてでした。きっかけとしては、他のふたりと同じようにeスポーツに魅せられたと言いますか、eスポーツにおける“スポーツ”の部分の可能性をすごく感じていて、自分も何か活動したいなと思ったんです。
でも、自分は選手としては全くできないタイプだったので、どうやって貢献すれば良いかと考えた時に、当時まだ地元の山形県ではeスポーツ大会と言えるような最先端の取り組みが全くなかったんです。「だったら自分がやるしかない」と考え、最初はとにかく勢いでテレアポで協力を募り、名古屋の企業さんにご協力いただく形で大会を開催できました。
――遠藤さんのエピソードもすごくパワフルですね。
遠藤 ありがとうございます。そこから自分は「地方×eスポーツ」というコンセプトの団体を立ち上げ、地元企業さんと協力しながら「eスポーツを絡めた地方創生」と「地方でeスポーツ盛り上げる」ことの2つを軸に活動していました。
明治大学への進学を機に上京し「今までの経験を糧にもっといろいろやるぞ!」と考えていたタイミングで先代の代表に出会い、大学eスポーツの入り口を教えていただき、一緒にecsで活動するようになりました。お互いが参加する現場に呼びあって色々な企画や経験を積み、自分たちの理想を実現するための一番の近道であるecsに現在はフルコミットしている、という流れですね。
――お三方ともに想像以上に情熱を持って活動に取り組まれていて、心から驚かされるばかりです。そんな皆さんですが、学生主体で活動しているからこその大変さを感じること、あるいは認識している課題などはあるのでしょうか。
竹村 “たまたま人が集まって、上手くいっている”と感じる部分が大きく、これを後輩達に引き継げるかと問われると、正直自信がないということですね。僕たちがecsに参加したきっかけとして共通して「先代の代表」というワードが出てきましたが、本当に去年と一昨年はその代表が技術的な部分から資金、渉外、チーム運営までひとりで全部をまわしていたくらいの方だったんです。
今年からは僕らが頑張ってなんとかまわせていますが、次以降の代でそれが出来るかは不透明です。イベントでも、知見のある学生が、たまたま集まっているので何とかなっているな、と感じることはあるので、こうした“引き継き”に関する部分が課題ですね。
遠藤 大学生は基本的に4年間しか活動できないという特質上、代替わりは必須なので、僕も同じような課題を感じています。僕たちでまだ実質的に“2代目”ですが、これを5年、10年、数十年続けていく、文化にしていく過程で、一般的なサークルのように1年ごとに代替わりしていくシステムも構築されていませんし、引き継いでいくノウハウやナレッジも現時点では定まっていない状況です。
ただ、他のサークルや部活とは違って、こういう学生団体は要求されるものが高いので、そこに応えられる人に引き継がなければいけません。そういう人物が現れるのを待つのではなく、自分たちが後輩と接していくなかで引き継いで行けるよう意識して活動はしてきたつもりですし、これからもしていくつもりです
――4年間という活動期間や個人の能力によって大きく左右されるのは大学生による活動の特徴ではありますが、組織を考える上では大きな課題になりますね。
遠藤 いろんな人たちが集まるからこそ「熱量の差」は生まれるものだと思います。特に学生という若い世代が集まると、表立って派手に動く人たちもいれば、どちらかと言えば受け身な人たちもいますよね。もちろん参加してくれてる時点ですごくありがたいですし、受け身なことを否定する気持ちは全くありません。ただ、こうした温度感の差は、今後課題になる可能性もあるだろうと認識しています。
浅見 「大会や定例ミーティングに今まで来てくれていた人が来なくなった」というのは、どうしても起きてしまします。やりたい人たちが集まっている団体ですし、強制するものではありませんからね。
イベントでもクリエイティブ制作は技術を持っている人にお願いしていますし、実況も学生キャスターの人に依頼しています。そのため、こうした特殊技能と言いますか、スキルを持っている人が卒業してしまうと「次どうしよう」というのは今後もずっと課題になると思います。
▲VALORANT CAMPUS SUMMITのキービジュアル
――温度感に関しては、皆さんの周囲でのeスポーツへの注目度や熱量の変化も気になります。「eスポーツサークルの入会人数」などは分かりやすい目安になるかと思いますが、実際のところ変化はありますか?
浅見 うちのサークルは年々増えています。僕が1年生の時に立ち上げた時点では同じ学年で30人くらいの規模でしたが、今年は新入生だけで50人ぐらい入ってくれました。あとは完全に肌感ですが「ゲーミングPC買いました」「これから買う予定なんです」という人も増えているなとサークルを見ていて感じますね。
遠藤 僕は去年まで明治大学eスポーツサークルの代表を勤めていました。実は僕が1年生の頃は今のようなサークルと言うよりも、留学生が『League of Legends』をプレイするクラン(ゲーム内におけるプレイヤーグループのこと)のような集まりでした。それが今ではサークル員が100人前後にまで増え、新入生の加入数も浅見のサークルと同じくらいの規模感になっています。
新入生である1年生をecsの活動と絡めて、試行錯誤していく中で、大学eスポーツシーン全体が盛り上がっていると感じるようになり、間口も広がってきている実感がありますね。eスポーツに触れる大学生は明らかに増えていると思います。
――竹村さんは大学でのサークル活動はそこまでされていないというお話しでしたが、どう感じていますか?
竹村 1年生の頃に『VALORANT』の学内大会を開催したときは、ようやく2チーム・10人が集まったという感じだったのですが、直近だと6チーム・30人が参加してくれるようになっていたので、数字で変化を感じています。他にもeスポーツとは全く関係ない繋がりの人に「VCSっていうイベントをやったんですよ」と話したら「見てましたよ!」というケースがいくつかあって、興味を持ってくれる人が着実に増えているなと感じます。
――大学生のeスポーツへの関心がさらに高まれば皆さんの活動も一層注目を集めるでしょうし、そうあるべきかなと感じます。他に学生だけで取り組んでいるからこその課題感であったり、求めているサポートであったりというものはどうでしょうか。
竹村 今の僕たちは、ある程度人も揃っていて、頑張れば自分たちの力だけでも少しの資金を集められる状態にあると思います。選手たちも参加してくれて、大会を開催できる環境は整っていると思います。ただ、困っているのは、こうした文化を作っていく上で、「人をうまく巻き込めていない」と感じているところです。
シンプルに大会の視聴者数が少なかったり、参加者も不足していたりすることがあって、僕らも模索している状況です。オフライン大会を開催しても会場がいっぱいになるほど周りを巻き込めていないと思うので、宣伝や発信をどんどんしていかなければと思っていますし、企業さんに限らず、そこを手伝っていただけたらすごく嬉しいです。
遠藤 そうですね。届けたい人に届いていないのが現状です。発信力については学生だけではどうしても上限がありますので、こうして取材していただけるのもすごく嬉しいですし、大人のみなさまのお力をお借りできればと思っています。
――発信や拡散を含め多くのサポートが集まることを祈っていますし、この記事がそのきっかけになれば幸いです。最後に、今後への展望や取り組みたいことがあれば教えてください。
浅見 まず、年に1回開催してるVCSを毎年開催していく継続性は大事にしていきたいです。それ以外の大会やイベントなども開催しながら、普段のeスポーツサークル同士が連携できるコミュニティ作りにも取り組み、「大学生のeスポーツシーンを定着させる」ということが大きな目標です。
大学スポーツだと、六大学野球や箱根駅伝が有名で、その大会で優勝を目指す人たちは「この大学が最強なんだ」という名誉のために頑張っていて、eスポーツにおいてもそうした名誉になる、誰もが最強の大学だと分かるような機会、大会を提供していきたいですね。
竹村 今のecsは基本的に『VALORANT』をメインタイトルとして活動していますが、最近はeスポーツサークルも他のタイトル部門の人たちの動きが活発になってきています。それこそ、格闘ゲームジャンルのコミュニティも大きくなっていますし、『Overwatch2』も人気です。元々プレイしていた『League of Legends』の大会もやってみたいですし……今の『VALORANT』で上手く行っている流れを、もっとほかのタイトルにも活用して、最終的には「大学のeスポーツシーンと言えば、どのタイトルでもecsだよね」と言えるような状態を作れたらすごく面白いなと、ちょっと突拍子もない話なんですが、僕はひそかに考えています。
――やはり大学シーンをもっと発展させていくことについて日々考えられているのですね。遠藤さんはどのような展望をお持ちですか?
遠藤 僕も被る部分は多々あるんですけど、やっぱり「文化の醸成」「文化の定着」が一番のミッションになるかなと思っています。それこそ、箱根駅伝は、普段は駅伝を見ない人でも興味を持って観戦しますし、六大学野球も、プロ野球は見なくても「自分の学校だから」という帰属意識で学部生やOBがすごく応援していますよね。
その文化がすごく羨ましいなという気持ちがあって、eスポーツでもそれを成し遂げたい、eスポーツもそうあるべきだという環境にしていきたいという思いで活動を頑張ってます。
――実際に大きなシーンになれば出身校を応援したいという人はきっと多いはずですね。
遠藤 あとは、大学生で「eスポーツでこんなことをやりたいな」と考えている人が一番に門をたたく場所がecsであってほしいとはすごく思っています。そうした人たちを受け入れられる準備やノウハウ、規模感もしっかり整備していかなければと思いますし、未来の会話ができて、それを実現できるような、熱意を持った大学生が集まる場所=ecsだと言われるような理想を目指していきたいです。
――ちなみに、ecsに参加するためには特別な条件はありますか?
遠藤 1つあるとすれば「大学生であること」ですね。今eスポーツサークルに入っている人以外でも大丈夫です。例えば「eスポーツサークルを作りたいから話を聞いてみたい」という人が参加して、他のサークルのことを参考にしながら方向性について話し合えれば良いなと思います。
誰でもウェルカムと言うとちょっと尊大かも知れませんが、同じ目線を持った学生に、とりあえず相談してみようという場所ですので、興味がある方は是非どこからでも声をかけていただきたいです。
――さらなる活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。