20年以上大会が続くタイトルも
対戦格闘ゲームやシューティング、MOBAなど、さまざまなジャンルの最新タイトルが発売され注目を集めるeスポーツの世界。
長年続いているシリーズ作品も多いため、eスポーツに関する話題を目にして「最近の作品はやったことないけれど、シリーズの昔のタイトルは遊んでいたな」と懐かしい気持ちを経験したことがある方も多いのではないでしょうか。
ゲーム開発の技術も年々進歩しており、シリーズ作品でも新たな技術やアイデア、そして対戦を快適にする機能などが盛り込まれた最新の作品がeスポーツにおけるメインストリームになっています。
そのため、どのジャンル・シリーズでも最新タイトルでの競技シーンが盛んになる傾向がありますが、実は10年、長ければ20年以上も前に発売された「レトロゲーム」と呼ばれるような対戦ゲームの中にも、根強い人気を誇り、今なお対戦が活発に行われている作品も存在します。
今回は時代を超えて親しまれ続けている「レトロゲームのeスポーツ事情」を覗いてみましょう。
近年もなお対戦が楽しまれているレトロゲームの代表的な存在のひとつが、1999年に発売された『ストリートファイターIII 3rd Strike(以下、3rd Strike)』です。
『3rd Strike』は1997年に発売された『ストリートファイター 3rd』のアップデートタイトルで、攻撃や移動の操作、対戦ルールなど基礎となるシステムは『ストリートファイター』シリーズ共通のものですが、一部の独特なシステムが今なおコアなファンに愛されている作品です。2004年には日本の「ウメハラ」こと梅原大吾選手が世界大会「EVO」で歴史的な逆転劇を成し遂げた試合も非常に有名で、タイトルは知らずともそのシーンだけは目にしたことがある方も少なくないのではないでしょうか。
2007年にはシリーズの新ナンバリングとなる『ストリートファイター4』が発売されましたが、以降も『3rd Strike』を継続してプレイするユーザーは多く、2014年には復刻タイトルが発売されるなど人気は健在。そして2024年には「EVO」の公式種目に15年ぶりに復活するという、驚きの息の長さを見せています。
旧シリーズ作品が人気を保っているのは、対戦アクション『スマブラ』シリーズも同様です。2018年にニンテンドースイッチで発売された『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』が現在の最新タイトルではありますが、2001年にゲームキューブで発売された『大乱闘スマッシュブラザーズDX』が海外を中心に未だに強い支持を得ています。
売り上げで比較すれば全世界3000万本以上のヒットとなった『SPECIAL』と比較すると『DX』は約700万と大きな開きはありますが、人気は衰え知らず。有志によって北米で開催された大型大会では最新作よりも『DX』部門の方が出場者が多いという“逆転現象”も起こったほどでした。
このようにシリーズの旧作が根強く親しまれるケースが意外にも多く、その要因となっているのは、やはり「その作品が好きだから」という純粋な熱意だと考えられます。当時のシステムやゲーム性、キャラクターなどさまざまな要素を愛するプレイヤーが遊び続けることで、レトロゲームのコミュニティは形成されています。
レトロゲームにおける対戦シーンの特徴は、やはり最新機器とは異なる環境面が挙げられます。プレイには当時のハードウェアが必要ですが、端子や規格が時代と共に変わっているため接続できるモニターも限られます。古い機器の接続が可能であり、描画の仕組みから遅延も非常に少ないブラウン管テレビはレトロゲーム対戦においてはとても重要なアイテムになっています。
当時の機器は既に生産やメーカーによる修理対応が終了しているため、不具合や故障が発生しても買い替えるという訳にはいかず、自力で修理するほかありません。優良な状態の中古品を「ストック」として買いだめしているプレイヤーも見られます。アーケード版で人気を博していた格闘ゲームやパズルゲームの場合では、大会になると実際のアーケード筐体と基盤を用意し、当時さながらの環境を構築するケースも珍しくありません。
しかし、人気のあるレトロゲームは現代機でも遊べるアーカイブ版が配信されたり、リマスター版が発売されたりというケースも増えており、オンライン対戦機能を備えたバージョンも登場しています。そうした“復刻版”の登場によって機器や環境の問題は解決……とは、実は言い切れません。
リマスター版やアーカイブ版は完全に当時のまま配信されるとは限らず、機能の追加やバグなどの不具合修正、グラフィックのアップデートなどが施されることが多くあります。これらはもちろんゲームを快適に遊ぶためのものではありますが、同時に対戦バランスが変化したり特定の操作が不可能になったりと、オリジナル版と条件が揃わなくなってしまう可能性も存在します。
そうなると「オリジナル版」と「リマスター版」とで対戦のレギュレーションが分かれることとなり、当時のまま対戦したいユーザーにはどうしてもオリジナルの環境が好まれるでしょう。
このように多人数で対戦を続けていくのは決して簡単ではない状況にある数々のレトロゲームですが、ユーザーの情熱によって現在もいくつものタイトルがコミュニティを形成されています。そうした動きを受け、メーカーが前述したような条件に配慮した完全にオリジナル版と同一バージョンのアーカイブ版を配信したり、大会にグッズを提供するなどサポートを行ったりというケースも登場しています。
何より興味深いのは、初リリースから10年や20年が経過したゲームでも遊び続けていくとまだまだ新しい攻略法やトレンドが生まれ、少しずつ“メタ”が回ることもあるという点。真剣にひとつのタイトルに長期間向き合い続けるユーザーの熱量は、eスポーツの根幹である「好きなゲームで勝ちたい」という気持ちの、ひとつの到達点と言えるかもしれません。
クリアまでのタイムを競う「RTA」の分野でもレトロゲームは数多く愛されており、懐かしいゲームだからこそ味わえるどこか粗削りなユニークさは、どの年代のゲームファンも心をくすぐられる魅力になっているようです。
皆さんがかつて親しんだタイトルも、実は今も世界のどこかで盛んにプレイされているかも知れません。