スポーツにおいてユニフォームは競技が発展した歴史や背景を反映したものであり、同時に競技に取り組むために適した服装として日々素材やデザインが進化しています。
プレイヤーにとっては戦闘服である一方、チームのファンにとっては身にまとうことで選手との一体感を味わえる一番の応援アイテムであり、チームにとってはスポンサー名を表示する広告塔・収入源とも言えるでしょう。世界的に人気のスポーツチームともなれば最も目立つ場所に配置される「胸スポンサー」の権利は高額で、チームと企業の双方にとってイメージ戦略にも関わる重要なものになっています。
そして、そんなさまざまなフィジカルスポーツと同様に、eスポーツの世界にもチームごとのユニフォームはもちろん存在します。ただ、スポーツほど厳しい規定はなく、独自の進化や個性が発揮される場所になっています。
eスポーツのユニフォームには基本的に競技的な規定はありません。最もポピュラーと言えるのはサッカーユニフォームのようなシャツタイプで、競技側で決める必要はなくとも、チームとして「背番号」を決めて名前と共に背面に取り入れることでスポーティーさやパーソナルを引き立たせる工夫も見られます。
一部では前開きのベースボールシャツやフード付きのパーカースタイルなど、見られますが、こうしたファッション性の高いデザインは「応援アイテム」や「広告」の側面の方がより強くなっていることの表れと言えるでしょう。
eスポーツチームにはストリーマーやコンテンツクリエイターなどの名称でインフルエンサーが所属することも多く、彼らもイベント出演などの活動ではユニフォームを着用します。そうした面を考慮すると、今後はスポーツらしさよりも“オシャレ”を意識したユニフォームが増えていくことも考えられます。
また、シーズンごとのユニフォームのマイナーチェンジも存在します。スポーツと同様に毎年新たなデザインにすることで「新商品」を生み出すという目的もありますが、近年は“ゲン担ぎデザイン”が採用されることも。
人気eスポーツタイトル『League of Legends』では、ここ数年の世界大会で「黒ユニフォームのチームと白ユニフォームのチームが交互に優勝している」という状態だったため、このジンクスにあやかるチームが多発。“白の順番”だった2024年の世界大会には白いユニフォームのチームが数多く登場し、結果的に優勝を勝ち取ったのも白ユニフォームのチームでした。
スポーツでは対戦相手と紛らわしくないよう、ビジター側のチームがベースカラーを変えた「2ndユニフォーム」も準備しなければなりませんが、相手との“色被り”が問題ないeスポーツだからこそ見られたユニークな現象と言えるでしょう。
このように独自のユニークさや文化を持つeスポーツチームのユニフォームですが、スポーツのユニフォームが年々進化していることを踏まえても、まだまだ「競技に即したもの」として改良されていく余地はあるのではないかとも考えられます。
例えば袖の長さや素材。eスポーツ大会の会場では多数のPCが稼働しており、PCのパフォーマンスが安定するよう、空調は季節に関わらず低めの室温に設定されることが一般的です。プレイ中の選手は体をあまり動かさないこともあって夏季でも冷え込みを気にする選手が多く、手がかじかんで細かな操作に支障をきたさないよう、カイロで手を温めている姿も珍しくありません。
長袖はマウス操作の際に気になるという意見もあり、手首の保護をかねてリストカバーを着用する選手も増えてきています。防寒対策で上着を羽織るとユニフォームのスポンサー名やデザインが見えなくなってしまうという問題もあり、防寒性の向上や専用のリストカバーの開発は取り組みやすいポイントになるのではないでしょうか。
工夫の余地があるのはTシャツやパーカーなどのトップスだけではありません。格闘ゲームではアーケードコントローラーなど専用の大型デバイスを使用して対戦するプレイヤーが存在しますが、その“置き場所”である膝上に注目し、コントローラーを置く部分だけ滑りづらい素材や面積でデザインされたボトムスが登場しています。
アームカバーやボトムスは定番のユニフォームにプラスアルファしていく「着こなし」の範疇とも言えますが、選手の個性を発揮できるポイントとも考えられます。広く浸透していけばアームカバー部に名前を載せたいスポンサーの獲得やアパレル販売など、ビジネスチャンスが潜んでいる分野と言えるかもしれません。