グリーンソフトウェアエンジニアリングとは? 注目される背景や基本原則、実践方法をわかりやすく解説

クラウドやAIの利用が広がる中で、ソフトウェアそのものの環境負荷に注目が集まっています。

アプリケーションは目に見えない存在ですが、実際にはサーバーやネットワーク、エンドユーザーの端末といったハードウェアの上で動いており、その稼働には電力が必要です。そこで注目されているのが「グリーンソフトウェアエンジニアリング」です。

ここでは、グリーンソフトウェアエンジニアリングの基本的な意味から、注目される背景、押さえておきたい原則、実際の取り組み方などをわかりやすく解説します。

グリーンソフトウェアエンジニアリングとは?

まずは、グリーンソフトウェアエンジニアリングの概要から見ていきましょう。

グリーンソフトウェアエンジニアリングの意味

グリーンソフトウェアエンジニアリングとは、ソフトウェアが生み出す温室効果ガスの排出をできるだけ減らすことを意識して、設計・開発・運用を行う考え方です。

ソフトウェア業界における温室効果ガス(GHG)排出削減を目指す国際的な非営利団体であるGreen Software Foundation(GSF)では、グリーンソフトウェアを「より少ない温室効果ガスの排出に責任を持つソフトウェア」と位置づけており、重視しているのは「相殺」ではなく、「排出そのものを減らすこと」だとしています。

その実現に向けた中心的な考え方として、エネルギー効率、ハードウェア効率、電力の炭素強度(CO2排出量)が低い時間帯や場所を選んで処理を行うカーボンアウェアネスが挙げられており、単に省エネなコードを書くことだけを意味するわけではありません。ソフトウェアが動く時間帯や場所、利用する計算資源、ハードウェアの使い方まで含めて見直していく点が特徴です。

出典:グリーンソフトウェアとは|Green Software Foundation

なぜソフトウェアが環境負荷に関係するのか

ソフトウェアの実行には必ずハードウェアが必要です。さらに、ハードウェアが消費する電力だけでなく、ハードウェアを製造・輸送・廃棄といったライフサイクル全体で排出されるCO2であるエンボディドカーボンも関わってきます。

そのため、不要な計算を減らす、データ転送量を抑える、旧世代の端末でも動くようにする、必要以上にサーバーを増やさないといった設計判断が、環境負荷の低減につながります。

ソフトウェアの設計や運用を工夫することが、炭素排出の削減に直結すると言えるでしょう。

グリーンソフトウェアエンジニアリングが注目される背景

近年、ソフトウェアは以前にも増して大きな資源、主に電力を消費するようになりました。クラウドの利用拡大に加え、マイクロサービス化、データ分析基盤の高度化、そして生成AIの爆発的な普及により、ソフトウェアの持続可能性は無視できないテーマになったといえるでしょう。

例えば、マイクロソフトは持続可能なワークロードの設計において、物理・仮想リソースを減らすこと、エネルギー消費を減らすこと、エネルギーやリソースをより賢く使うこと、古いデバイスをサポートすることが重要だとまとめています。

また、クラウドを使えば自動的にサステナブルになるというわけではありません。最適化されていないアプリケーションを利用すれば、必要以上の電力を使い、炭素の排出も増えます。こうした理由から、グリーンソフトウェアエンジニアリングが注目されているのです。

出典:Design principles of a sustainable workload|Microsoft

グリーンソフトウェアエンジニアリングの基本原則

グリーンソフトウェアエンジニアリングでは、いくつかの基本原則を押さえておくことが重要です。ここでは、特に実務で理解しやすい主要な考え方を紹介します。

炭素効率

炭素効率とは、できるだけ少ない炭素排出で同じ価値を提供する考え方です。単純にコストを削減するだけでなく、不要なリソース消費を減らし、無駄な排出を発生させないことが求められます。

「同じ機能を、より少ない炭素排出量で実現する」ことが炭素効率の基本的な考え方といえます。

エネルギー効率

エネルギー効率は、ソフトウェアが同じ仕事をするのに必要な電力をできるだけ小さくする考え方です。アルゴリズムの改善、無駄な処理の削減、リクエスト回数の見直しなどが、エネルギー効率の向上につながります。

GSFやマイクロソフトの資料では、エネルギー効率はグリーンソフトウェアの中核的な原則として位置づけられています。

ハードウェア効率

ハードウェア効率とは、より少ない物理資源でソフトウェアを動かすこと、あるいは既存のハードウェアを長く有効に使うことです。

クラウドではリソース利用率を高めることが重要になり、エンドユーザー向けのソフトウェアでは、古い端末でも動作する設計がハードウェア効率のアップに寄与し、ハードウェア製造に伴う排出を抑えることにもつながります。

カーボンアウェアネス

カーボンアウェアネス(炭素に対する意識)とは、電力の炭素強度を意識してソフトウェアの振る舞いを調整する考え方です。

例えば、電力がよりクリーンな時間帯や地域で多く処理し、炭素強度が高いときには処理を抑える、といったアプローチがこれにあたります。

測定と最適化

グリーンソフトウェアは理念だけで実現できるものではなく、測定と改善が必要です。GSFでも「測定と最適化」を原則の一つとして挙げており、環境負荷を記録・報告・削減するための可視化が重視されています。

継続的な改善が前提となる点は、パフォーマンスチューニングやSRE(サイト信頼性エンジニアリング)の考え方とも共通しています。

グリーンソフトウェアエンジニアリングの実践方法

では、実際にはどのような取り組みが考えられるのでしょうか。ここでは、設計・実装・運用の3つの観点から見ていきます。

設計段階でできること

設計段階では、まず「本当にその処理や通信が必要か」を見直すことが重要になります。

例えば、コンポーネントごとに独立してスケールできる構成にする、イベント駆動で必要なときだけ動かすといった方針は、無駄なリソース消費を減らすのに役立つでしょう。

また、ネットワーク移動量を減らすことも効果的です。ユーザーに近いリージョンを選ぶ、キャッシュやCDNを活用する、ノード間の不要な通信を減らすといった工夫が、エネルギー消費と炭素排出の削減につながります。

実装段階でできること

Webアプリケーションであれば、リクエスト数を抑える、アセットを圧縮・最小化する、画像をWebPやAVIFなどの形式にするといった改善が代表例です。GSFも、こうした施策を排出削減につながる具体策として公開しています。

AI/ML関連では、より小さく効率的なモデルを選ぶ、事前学習済みのモデルを活用する、効率のよいファイル形式を使う、可能であればエッジで推論するといった工夫が重要になるでしょう。

インフラ・運用段階でできること

運用面では、使っていないリソースを削除する、必要に応じてスケールダウンする、業務時間外に停止できるものは停止する、ログ収集を必要最小限にする、といった取り組みが有効です。

特にクラウド環境では、オートスケーリングやイベント駆動スケーリングを適切に使うことで、必要以上のサーバーを常時起動し続ける状況を避けられます。コスト最適化にもつながるため、比較的取り組みやすい改善例の一つです。

グリーンソフトウェアエンジニアリングのメリット

グリーンソフトウェアエンジニアリングのメリットは、環境配慮だけにとどまりません。代表的なメリットを紹介します。

コストの最適化につながる

無駄な処理や過剰なリソース確保を見直すことは、クラウド利用料をはじめとする運用コストの削減にもつながります。環境負荷の低減とコスト最適化が同じ方向を向いている点は、取り組みを推進するうえでの大きなメリットです。

応答性や運用効率の改善が期待できる

ネットワーク転送量や不要な計算が減れば、アプリケーションの応答性や運用効率が改善するケースがあります。開発・運用・保守の各段階において効率が改善できることも、グリーンソフトウェアエンジニアリングのメリットといえるでしょう。

サステナビリティ施策を現場で実践しやすくなる

サステナビリティへの取り組みを開発現場の具体的な実践へ落とし込みやすいこともメリットです。経営レベルの脱炭素目標と、エンジニアが日々取り組んでいる設計・実装・運用判断がつながるため、組織全体で取り組みやすくなります。

グリーンソフトウェアエンジニアリングを進める際の注意点

グリーンソフトウェアエンジニアリングには注意点もあります。例えば、環境負荷の低減を優先するために、優先度の低い処理を遅らせるなどのトレードオフが生じる場合があります。ビジネスの要件を踏まえ、UXとのバランスを取ることが重要です。

また、測定に必要なデータが十分に取得できないケースもあります。特にパブリッククラウドでは実測データが十分に得られないこともあり、その場合はモデル化や推計値を使うことになります。こうしたケースでは、データを取れる範囲で可視化し、小さな改善から始めるのが現実的です。

まとめ

グリーンソフトウェアエンジニアリングは、ソフトウェアをより少ない炭素排出で設計・開発・運用するための考え方です。ソフトウェアはハードウェアや電力と切り離せない以上、設計判断が環境負荷に大きく関わります。

重要なのは、原則を理解して、設計・実装・運用へ落とし込むことです。まずは、不要な処理や通信を減らす、使っていないリソースを削除する、計測の仕組みを整えるといった、取り組みやすいところから始めてみてはいかがでしょうか。

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