セキュリティ・バイ・デザイン(セキュア・バイ・デザイン)とは? メリットや導入プロセス、国内外の動向を解説

近年、システム開発の新たなアプローチとして注目されているのが「セキュリティ・バイ・デザイン(セキュア・バイ・デザイン)」です。
従来はシステムの完成後にテストを行っていましたが、企画・設計の段階からセキュリティを組み込むことで、従来の手法の限界を打破するものとして期待されています。
ここでは、セキュリティ・バイ・デザインの基本概要やメリット、最新の国内外の動向、具体的な導入プロセスなどを解説します。
セキュリティ・バイ・デザインの基本的な考え方
まずは、「セキュリティ・バイ・デザイン」基本的な考え方と用語の整理から見ていきます。
企画・設計段階からセキュリティを組み込むアプローチ
セキュリティ・バイ・デザインとは、システム開発や運用のライフサイクルにおいて、企画・設計といった上流工程からセキュリティ対策を検討し、組み込んでいく考え方のことです。
内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)は、セキュリティ・バイ・デザインを「企画から運用まで一貫したセキュリティ対策を実施する」考え方と定義しています。
従来のシステム開発では、開発の最終段階や運用開始直前にセキュリティ対策が検討されるのが一般的でした。しかし、このアプローチでは根本的な設計ミスに起因する脆弱性への対応が難しく、修正に膨大なコストと時間がかかっていました。
セキュリティ・バイ・デザインは、開発の初期フェーズである要件定義や設計の段階から、セキュリティをシステムの一部として作り込みます。これにより、リリース手前での修正を防ぎ、信頼性の高いシステムを構築できます。
出典:政府情報システムにおけるセキュリティ・バイ・デザインガイドライン|デジタル庁
「セキュア・バイ・デザイン」との違いは?
日本では「セキュリティ・バイ・デザイン」という言葉が10年以上前から使われており、NISCのガイドラインなどでも定着しています。デジタル庁でも同様の呼称を使用するケースがあり、日本では両者は基本的に同じ言葉として扱われている状況です。
一方、米国のサイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)では、製品が「悪意ある攻撃者から合理的に保護された形で作られること」を「セキュア・バイ・デザイン」と定義しています。
このように、国や地域によっては、ややニュアンスが異なるケースもあり、今後、言葉の意味が変化していく可能性も考えられます。
なぜ今、セキュリティ・バイ・デザインが必要とされるのか
インターネットが生活に欠かせないインフラとなり、IoT機器が急増したことで、サイバー攻撃のリスクは増大しました。ここでは、セキュリティ・バイ・デザインが求められる背景を解説します。
IoTの普及とサイバー攻撃の激化
近年、あらゆるモノがインターネットにつながるIoTの普及が進んでいます。これは、サイバー攻撃の標的が増えたことを意味します。
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のレポートによれば、2025年に観測された攻撃関連通信パケット数は約7010億パケットとなりました。2016年の約1440億パケットと比べて急激に増加しています。
特に懸念されるのが、WebカメラやルーターなどIoT機器に関連するポートへの攻撃が非常に多くなっていることです。さらに、工場の製造ラインなどもネットワーク接続が進んでおり、近年はサイバー攻撃により生産停止に追い込まれる事態が発生するなど、甚大な損害が発生しています。
出典:NICTER観測レポート2025の公開|NICT-情報通信研究機構
手戻りを減らす「シフトレフト」の流れ
システム開発では、不具合や脆弱性の発見が遅れるほど修正にかかるコストが増大します。特に、リリース直前や運用開始後に重大な脆弱性が見つかった場合、設計のやり直しやコードの大幅な修正といった大規模な手戻りが発生します。
そこで重要なのが「シフトレフト」という考え方です。これは、開発工程を時系列で左から右へ流れるものと見立て、セキュリティ対策やテストをより前の工程(左側)へ移行させるアプローチを指します。
設計段階で脆弱性の芽を摘んでおくことで、下流工程でのトラブルを未然に防ぎ、プロジェクト全体のコスト最適化や納期の厳守にも貢献する考え方と言えるでしょう。
セキュリティ・バイ・デザインのメリット
セキュリティ・バイ・デザインの導入は開発現場にもメリットをもたらします。ここでは、代表的な2つのメリットについて解説します。
コストおよび人的リソースの削減
セキュリティ・バイ・デザインの大きなメリットのひとつは、コストとリソースの効率化です。
開発が進んでからの修正や仕様変更には大きな労力を要します。しかし、設計段階でセキュリティ要件を確定させれば、突発的な作業が発生しにくくなります。これにより、スケジュールの遅延を防ぎ、追加コストも抑制できます。
さらに、エンジニアがトラブル対応に追われることが減るため、本来のメイン業務である開発や品質向上といった業務に集中できるようになります。コストを削減しながら、製品の品質も向上させられるのです。
システムの品質・保守性・利便性の向上
従来、利便性とセキュリティはトレードオフの関係になりがちでした。しかし、セキュリティ・バイ・デザインの考え方であれば両立が可能です。
例えば、後付けで認証機能を追加するとユーザーの使い勝手が悪化しがちですが、最初から認証を考慮したUI/UX設計を行うことで、操作性を損なうことなく安全な仕組みを実装できます。
さらに、保守性も向上します。アクセス権限管理やログ取得の仕組みなどを拡張可能な設計にしておくことで、将来的な機能追加や運用ルールの変更にも柔軟に対応できるでしょう。
セキュリティ・バイ・デザインに関する国内外の動向
セキュリティ・バイ・デザインは、国家や国際機関が主導して普及を進めている重要なテーマでもあります。日本と米国を中心に最新の動向を紹介します。
【国内】デジタル庁の取り組み
日本では、政府機関が率先してセキュリティ・バイ・デザインについての指針を示しています。
2022年、デジタル庁は「政府情報システムにおけるセキュリティ・バイ・デザインガイドライン」を策定しました。これは、企画から運用に至るまでの開発ライフサイクル全体を通じて、一貫したセキュリティ対策の確保を求めるものです。
実施すべき具体的な対策や考え方が体系的にまとめられており、日本国内におけるセキュリティ・バイ・デザインの重要な指針のひとつとなっています。
【海外】CISAが提唱する「セキュア・バイ・デザイン」
米国のCISA(アメリカ合衆国サイバーセキュリティ・社会基盤安全保障庁)では、2023年にガイダンスを公開し、ソフトウェア製品の安全性を高めるために以下の基本3原則を提唱しています。
- 顧客のセキュリティに責任を持つ
- 透明性を確保し説明責任を果たす
- この2つの目標を達成するための組織構造を構築する
さらにCISAでは、企業が自発的に取り組む「セキュア・バイ・デザイン誓約(Secure by Design Pledge)」を推進しています。ここでは、以下の7つの目標が定められています。
- 多要素認証の利用
- デフォルトパスワードの削減
- 既知の脆弱性のクラス・種類の削減
- 顧客側でのセキュリティパッチ使用の推進
- 脆弱性開示ポリシーを公表
- 脆弱性に関する透明性の確保
- 強力な監視機能・ログ確認機能の提供
この取り組みには世界的なIT企業も参加しており、目標達成に向けた進捗を公表することも求められています。
出典:Secure by Design Pledge|CISA
セキュリティ・バイ・デザイン導入のプロセス
セキュリティ・バイ・デザインを導入するための一般的なプロセスを、4つのステップに分けて解説します。
1.脅威の分析と特定
最初のステップは、これから開発するシステムにとって何が脅威かを知ることです。敵を知らなければ、適切な防御策を立てることはできません。
守るべき情報資産は何か、どのような攻撃手法が想定されるか、さらに、脆弱性を攻撃された時にビジネスに与えるインパクトはどの程度かを分析し特定します。
2.セキュリティ要件の定義
特定した脅威に対して、どのような対策が必要かを要件として定義します。ここでは、情報セキュリティの3要素である「CIA」を基準に考えるとよいでしょう。
- 「機密性(Confidentiality)」:許可された人だけが情報にアクセスできること
- 「完全性(Integrity)」:情報が改ざんされておらず正確であること
- 「可用性(Availability)」:必要な時にいつでもシステムやデータが使えること
これらを守るための具体的な機能や要件を洗い出し、要件定義書に明記します。
3.セキュリティアーキテクチャの構築
定義された要件を満たすためのアーキテクチャを設計します。すべてをゼロから考えるのは困難なため、実績のあるセキュリティフレームワークやデザインパターンを活用するのが一般的です。
認証の仕組み、データの暗号化、ネットワークの分離など、システム全体を見渡した堅牢な設計を行います。
4.下流工程における対策とフィードバック
実装、テスト、そして運用開始後においても、セキュリティ・バイ・デザインのサイクルは続きます。
テストで発見された脆弱性や運用中に検知された新たな脅威を分析し、次回のアップデート要件として継続的にフィードバックすることがセキュリティをより強固なものにします。
セキュリティ・バイ・デザインの課題
セキュリティ・バイ・デザインには多くのメリットがある一方、実務面でのハードルも存在します。ここでは、代表的な課題について解説します。
専門人材の不足
セキュリティ・バイ・デザインの実践には、開発の初期段階からリスクを見極め、適切な設計ができる高度なスキルが必要です。しかし、セキュリティと開発の両方に精通した人材は不足しています。
セキュリティ・バイ・デザインに精通した人材を確保できないケースも想定して、外部の専門家の支援を仰ぐ、あるいは社内教育を通じて育成するといった戦略も必要になるでしょう。
組織的な理解と継続的な取り組みの必要性
セキュリティ・バイ・デザインを導入する場合、開発プロセスは従来と大きく変わります。そのため、現場のエンジニアや経営層から理解を得られないケースも考えられるでしょう。
また、サイバー攻撃の手口は日々進化しているため、運用開始後においても、セキュリティ・バイ・デザインのサイクルは続いていきます。
「工数が増えるのではないか」「リリース後も更新を続ける必要はないのではないか」といった懸念に対し、長期的なメリットやリスク評価の重要性を説明し、合意形成を図る必要があります。
まとめ
セキュリティ・バイ・デザインは、開発の初期段階からセキュリティを考慮することで、手戻りによるコスト増大を防ぎ、高品質で保守性の高いシステムを実現できる取り組みです。
安全なデジタル社会を支えるための必須要件となりつつあり、セキュリティ・バイ・デザインは今後も拡大していくでしょう。
これからシステム開発に携わる際は、ぜひこの考え方を取り入れ、製品の価値と信頼性を高める第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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