「6人用を、8人用に」。開発会社の提案から始まった 『みんなでダービー2』誕生ストーリー

「6人用を、8人用に」。開発会社の提案から始まった 『みんなでダービー2』誕生ストーリー

株式会社エンハート

  • マーケティング部長

    石原 大輔氏(左)

  • 代表取締役

    森 啓二氏(右)

「ファミリー向けのメダル機を作ろう」から始まった

『みんなでダービー』誕生の経緯を教えてください。

森「第1作目を世に出したのは、約15年前です。私は当時エンハートではなく前職に在籍しており、アーケードゲームの開発に携わっていました。『みんなでダービー』の開発は、『ファミリー向けのメダルゲームを作ろう』という企画が持ち上がったことから始まりました。ちょうど自社にアーケードゲームの開発・販売体制を新しく立ち上げようとしていた時期です。『市場に存在するメダルゲームよりも、エモーショナルなものが欲しい』と、当時からお付き合いのあったsAsさんに相談をして、遊んでいる時間の「楽しさや熱量」そのものを届けたいという思いから生まれたのが『みんなでダービー』でした。

当時、こうしたファミリー向けのメダルゲーム自体が世の中に少なかったこともあり、正直、最初の評判はあまり良くありませんでした。ところが1年ほど経った頃から徐々にプレイヤーからの評価が上がり、ショッピングセンターを中心にお客さまが増えてきました。そこから16年以上、今もなお現役で楽しまれています。」

『みんなでダービー』の面白さはどこにありますか。

森「『みんなでダービー』は、見た目のシンプルさとゲームの奥深さにギャップのある作品です。馬のキャラクターはとてもかわいらしく、レースもたった6頭立てなので、一見すると簡単そうに映るのです。『子どもや親御さんが喜ぶ商品』という印象も強いかもしれません。しかし実際には、ゲーム好きなコアなユーザーにも十分満足していただける内容になっていると思います。

『みんなでダービー2』では特に、レースのコースに工夫を凝らしています。おにぎり型のコースや、京都競馬場を思わせる坂の強いコース、追い込みで第4コーナーあたりから登り坂になるコースなど、バリエーションが多いです。また、馬の特徴もさまざまです。体力のある馬は終盤に強く、体力のない馬は序盤こそ良いが後半失速します。コンディションも一定ではありません。常に万全の状態でレースに臨めるわけではなく、調子の良くない馬も混ざっていたり、天候にも変化があります。そうした要素がすべて組み込まれているので、非常に本格的な仕上がりになっています。」

▲試作機『みんなでダービー2』

1作目と、今回リリースした2作目の違いは何でしょうか。

森「基本的には、前作から大きく変えたところはありません。それは、前作がダメだったから変えるということでは決してなく、むしろ前作が非常に良い商品だから変えるというよりアップデートする狙いでした。1作目はシンプルなルールで、親子連れをはじめとするファミリー層に長く親しまれ、しっかり育ってきた商品でした。

ただ、10年以上、ずっと同じゲームを提供し続けてきたのも事実です。子どもたちは世代ごとに入れ替わっていくので、初めて出会うユーザーにとっては常に新しい商品として楽しんでもらえていました。それでも、さすがに15年という歳月を経て筐体も年季が入ってきましたし、これだけ人気があるうちに、次のステップとして新しいものを作るべきだろうと考えました。どうせ新しく作るなら、形も見せ方も変えて、新しい要素を加えたい。一方で根本的な遊び方は、これまでの良さを損なわないことを前提に考えました。」

15年稼働し続けたヒット機を、どう入れ替えてもらうか

『みんなでダービー2』を企画から製品化するまで、課題はありましたか。

石原「まず、1作目がご好評をいただいているからこそのハードルがありました。古くなったとはいえ人気のある商品ですから、ゲームセンターの運営者様は『より良いゲームなら導入したい』とお考えになられます。既存のゲーム機を廃止して新しいものを入れるということは、ゲームの面白さだけではなく 、さらに収益が上がってこないと導入するメリットがありません。しかも今回入れ替えようとしている前作は、運営者様からすれば今も収益が出ているものですので、そう簡単には入れ替えていただけません。だからこそ、前作を明確に上回る理由が必要でした。

その答えとなったのが、プレイヤー数を6人から8人へ増やすという判断です。プレイヤーを8人にしたことで、ゲームのベット枚数増加が見込まれます。ゲームのシステムとしても、ベットできるメダルの最大枚数を前作より約2倍に引き上げたことで、運営者様に提案できる内容が増えました。」

森「実は、この転換はエンハート側の要望から始まったものではありません。当初は6人用のまま開発する計画でしたが、sAsさんから『要求通りではありませんが、こんなアイディアはどうでしょうか』とご提案をいただいたのがきっかけでした。 当初『みんなでダービー2』の方向性として想定していたのは、1作目の中身をベースに、コースや馬の種類を増やして、というよくある『正統進化』の開発です。ところが、プレイヤーの数を変えるとなると、当初 の開発期間では収まりません。

確保していた開発費や開発期間は、プレイヤー数を変えない続編を前提としたものでしたので、その枠の中で、途中から方向転換することとなったのです。筐体設計の協力会社さんとハードルの高いすり合わせをおこないながら、それでもsAsさんから『是非自分たちも作りたい』と、プログラマー、デザイナー、企画のメンバーが総出で取り組んでくださいました。まさにsAsさんはじめ筐体デザインや設計会社さんと一緒に試行錯誤して完成させたタイトルですね。」

『みんなでダービー2』を実際の店舗でテストされたとき、手応えは感じましたか。

石原「プレイヤーの皆さんは非常に熱中して遊ばれていました。『みんなでダービー2』では、前作にはなかった新しいメダルの掛け方を導入したため、初見で伝わるのか、という不安もありましたが、プレイヤーの皆さんは直感的に理解し、遊び方の説明を見ることなくどんどん遊んでくださって、遊び方が難しくなり過ぎていないと実感できてホッとしましたね。

また、プレイヤーの数を8人にした効果がはっきり出たのが、遊んでいる姿でした。前作は3人ずつ、向かい合って画面を見る形でしたが、今回は8人で筐体の周りを取り囲む形になります。1つの画面、1つのレースを、みんなでわいわいと共有できる。今作の筐体はサブモニターがある関係で、プレイヤーは画面を覗き込む姿勢になるのですが、みんなが身を乗り出して遊んでいる様子から、熱中していることが伝わってきました。複数のプレイヤーが1つの画面を囲んで遊べるのは、『みんなでダービー』ならではの特長です。その良さを2作目でもそのまま引き継ぐことができたと思っています。」

ほかに、開発で苦労された点はありますか。

森「一番苦労したのは、ゲームを説明書なしで成立させることです。『座った瞬間に、何をすればいいかが感覚的にわかる。そう作らなければいけない。』おそらくそこが、sAsさんにとって最も骨の折れる部分だったと思います。開発中は、開発に直接携わっていないエンハートの社員がプレイヤー役となり、ゲームのわかりやすさを何度も確認するという進め方をしていました。」

森「スマートフォンなど、ユーザーの手元にデバイスがあるゲームであれば、市場に出してからユーザーの反応を見てアップデートできるところも多分にあると思います。しかしアーケードゲームは、一度出したら簡単には変えられません。ソフトウェアはもちろん、ハードウェア側についても簡単に直すということができないのです。だからこそ、アーケードゲームを作るにはある程度の経験が必要になります。経験があって、そのうえで想像力がなければ、新しいゲームは作ることができません。」

企画段階から一緒に。sAsだから実現できたこと

開発以外の部分で、sAsだからこそ実現できたと感じる部分を教えてください。

石原「さきほど『経験』という話がありましたが、sAsさんは過去作も含めて、わかりやすい遊び方の新しいものを作り続けてくださっています。『ファミリー向け・ライトユーザー向けのメダルゲームと言えばsAs』と言われるところまで来ているはずです。sAsさんの開発担当者の方も、日頃からゲームセンターに足を運んで、どういうものが求められているかを研究されていると感じます。」

森「世の中のショッピングセンターにあるゲーム機を見渡しても、sAsさんのタイトルは間違いなく多いと思います。それだけの商品数を作り続けてこられた実績があるので、経験値では業界トップクラスでしょう。弊社の案件に限らず、他メーカーのタイトルを数多く手がけられている。 そこが強みだと思っています。弊社の看板商品である別のタイトルも、sAsさんに開発支援いただいていて、こちらも大変な人気です。市場の要望と予算という材料を私たちが持っていくと、勘どころをすぐに掴んで動いてくださる。そのスピード感には、いつも助けられています。

実際、アイデアを出してくださるのはsAsさんの方が多いですね。私たちの役割は、作りたいゲームの方向性を伝えること。『このくらいの大きさで、何人でプレイできて、何時間くらいで楽しめるものが求められている』『競馬、ボートレース、トランプ―こういうテーマでアイデアはありませんか』と投げかける。すると、sAsさんの中にはそれぞれのジャンルに詳しいメンバーがいて、『こういうのはどうでしょう』と案が返ってくる。そこからブレインストーミングを重ねながら、企画の段階から一緒に作り上げていきます。

今回の『みんなでダービー2』にも、多いときでは、sAsさんから14名のメンバーが開発に携わっていただきました。一緒に仕事をしていて、いつも感じるのは、こちらの指示をただこなすのではなく、同じ熱量で意見を交わしてくれるということです。 実を言うと、『6人用の筐体を8人用に、1から作り直したい』という提案を最初に受けたとき、私はダメだと答えたんです。筐体が大きくなれば設置スペースも取りますし、開発コストも上がります。同じ売上なら店舗に導入されるはずがないと思ったからです。 それでもsAsさんは、『形を変えなければ意味がない、新しいものを作らなければ先がない』という強い思いで、粘り強く提案を重ねてくれました。

その熱意を受けて、最終的に、私と石原とで判断を下したという経緯です。10年以上続く付き合いのなかで築いてきた信頼関係があったからこそ、実現できたことだと思っています。」

ゲーム市場を変えるエンハートの新しい価値作り

今後の展望を教えてください。

森「2020年頃、コロナ禍によってゲームセンターからお客様の足が途絶えました。人と接するのが怖い、という時期でしたから。そのなかで伸びたのが、接客や対戦相手を必要とせず、1人で完結するプライズゲーム(編集注:クレーンゲーム機に代表される、景品獲得を目的としたゲームのこと)です。新しい施設も次々にできて、今ではゲームセンターの売上の過半数を占めていると思います。

ただ、景品ばかりに頼っていては、将来的に難しいのではないかと思います。既存のフォーマットを踏襲するだけでは、爆発的な売上にはつながりませんし、新しいブームも生まれません。アーケードゲームというジャンルは、新しいブームを作り続けなければ廃れてしまうものなのです。

かつてプリントシール機が、それまでゲームセンターに来なかった層まで巻き込んで、全く新しい遊びのジャンルを作り上げました。そうした新しいものが、この業界ではここ何年も出てきていません。完全にゼロから何かを生み出すというわけではありませんが、既存のものを変える発想だけではダメだと思っています。ユーザー自身がまだ気づいていない面白さ。それを作り出していけるメーカーとして残っていきたい。そして、そこを一緒に仕掛けていけるパートナーが、sAsさんなのではないかと思っています。

ゲームセンターの楽しさを作り出すためにさまざまな機能を持つ企業が関係しています。企画会社、ゲーム開発、筐体開発、製造会社や店舗運営会社など多くの企業が、世のゲームユーザーに向けて次々に熱気ある新しい遊びを届けていければ、アーケードのリアルなゲーム産業は成長できます。sAsさんとタッグを組むことで、同じ熱量でアイデアをどんどん形にしていき、その過程を共に楽しんでいけたら嬉しいですね。」

≪エクストリーム 担当者より≫ 森代表、石原様、ありがとうございました。

※本インタビューは2026年8月に実施されました。インタビューの内容は取材当時のものになります。

ご相談・お問い合わせ

まずはお気軽にご相談ください。

お問い合わせ
フォームはこちら