eスポーツと行政①

各国政府はeスポーツをどのように支援しているのか?

#eスポーツ

海外諸国でeスポーツが盛り上がっている背景のひとつに、政府によるさまざまな支援があります。この記事では、各国がeスポーツに関して具体的にどのような政策を行っているのか、その最新動向を含めてお伝えしていきます。

 

東アジア – 韓国

KeSPAによる大会主催とシーンの健全化

まずは東アジアのお隣韓国から。韓国がeスポーツの聖地のような場所になっていることはご存知の方も多いでしょう。「オーバーウォッチ」「リーグ・オブ・レジェンド」「スタークラフト2」などのメジャーeスポーツタイトルの上位プレイヤーやチームの多くが韓国によって占められています。韓国がeスポーツの世界最強国になった理由として、かつての行政機関(現在は民間法人)であるKeSPA(Korea e-Sports Association)の活躍が挙げられます。KeSPAが誕生したのは2000年、eスポーツという言葉が世界でもやっと使われ始めた時期に、名前に ”e-Sports” を冠して設立されました。KeSPAの主な役割はゲームの公式大会の主催そのもので、「国がeスポーツイベントを盛り上げている」という認識を国民に早くから持たせることができました。一方でKeSPAは八百長試合やプロ選手のゲーム内での暴言など、eスポーツにマイナスイメージが持たれかねない行為を厳しく罰し、シーンの健全化に強く働きかけてきました。韓国において男の子の「将来の夢」の上位に「プロゲーマー」が必ず上がり、最高レベルの選手を輩出しているのも納得です。

 

 

東南アジア – フィリピン

eスポーツ選手に「プロライセンス」を発行

フィリピンでは、Dota2というeスポーツの世界の中でもとりわけハードコアなタイトルが盛んで、強豪選手を何人も輩出する国として知られています。このDota2の最大の国際大会であるThe Internationalの2016年大会で、フィリピンのTNCとExecrationという2つの強豪チームがあやうくビザを獲得しそこね、後一歩のところで会場である米国に入国できず、2チームまるごと出場できなくなるという事態が起こりました。eスポーツでは、新しい産業であるがゆえにビザの問題で選手が入国できなくなる事態がしばしば起こりますが、一国を代表する2つのチームが同時に影響を受けた出来事ということで、フィリピンの人々に与えた衝撃は大きかったと思われます。(幸いにも最終的には無事ビザが発給され、両チームは大会で活躍することができました。)そこで2017年、フィリピン政府はDota2の選手たちに国家資格としての「プロライセンス」を与えることにしました。このライセンスのおかげで両チームは2017年のThe Internationalにはなんら支障なくビザを発給してもらうことができました。このプロライセンス制度は、単なるビザ問題への対症療法ではなく、フィリピン政府がeスポーツを支援する旗幟を鮮明にするものともとらえられ、政府と自国市場に対するフィリピンeスポーツ界の期待は高まっているようです。

 

西欧 – ドイツ

EU圏外出身選手もアスリートとして90日間滞在できるように

従来ドイツでは、EU圏外出身者のeスポーツ選手が入国するには通常の労働ビザを取得することになっており、入国が認められない場合もあったので、通常の「スポーツ」のアスリートとの扱いの違いにeスポーツ関係者は不満を持っていました。しかし今年、EU圏外出身のeスポーツ選手もアスリートとみなし、年に90日間という制限はあるものの、ドイツ国内に滞在しての活動を認める政府発表がありました。eスポーツ業界側は今回の変更を歓迎する一方、90日という期間は1シーズンのプレイに必要な日数に足りていないこともあるため、不十分だとする声も上がっています。関係者の一番の要望は「通常のスポーツのアスリートとeスポーツのアスリートの扱いの差をなくしてほしい」というもので、その実現に向けての戦いはまだまだ続くようです。

 

 

北欧 – フィンランド

「eスポーツ」を「スポーツ」と全く同じものとして扱うことに

「eスポーツはスポーツか」ということがeスポーツ関係者の間でもよく議論になります。日本では「eスポーツはスポーツだ」と主張する側も、その意味するところは「eスポーツは一般的なスポーツとは違うかもしれないが、スポーツと呼ばれたっていい」というくらいではないでしょうか。フィンランド政府の認識はもっと「急進的」です。フィンランドは2018年から行政において「eスポーツ」を「従来のスポーツ」と全く同じものとして扱うとしたのです。もちろん、行政でそうしたからといって国民の認識も同じようになる、ということはありませんが…。しかし、今後フィンランドにおけるeスポーツは、外国人選手へのビザの発給や、スポーツ事業としての税制優遇、資金調達など、すべて従来の「スポーツ」と同じようになるとのことです。

 

以上、各国政府によるeスポーツ支援を紹介してきました。その他の国でも、ノルウェーでは公立高校での選択科目にeスポーツが採用され、中国では国立の中国伝媒大学でeスポーツの専門学部が設立されています。また、台湾ではeスポーツが公式スポーツ産業として政府に認可されています。

 

次回は日本でeスポーツをめぐって政府・行政レベルでどのような動きがあるのか見ていきたいと思います。

 

【参考記事】

Finland’s government embraces esports as a sport

Esports Meets Mainstream: The role of governments in esports

German Federal Government Eases Travel for Non-EU Esports Athletes

Philippine government to give esports players athletic licenses

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